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恐竜ダンジョンで30年生き抜いた男、ドラゴンを素手で止めたらダンジョン配信でバズった~新人F級ですが、相棒のティラノサウルスも人間になったので一緒に無双します~  作者: レイヴ
第一章 帰ってきた原始人

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第011話 テントを張れば?

「庭は貸せるけど、家を建てるのは困るわ」


 リラの返事に、ロッカは少し考えた。


「雨が入らなきゃいいんだ。柱も、そんなに太いのは要らない」


「柱を立てるところからなんだ……」


 喫茶店ミナトの窓際で、ミカが庭を見直した。


 ティーラも、ロッカの隣から覗いた。塀のそばに木が一本あり、その下は土になっている。店の裏口から、さっき冷蔵庫を運んだ通路へ続いていた。


「テントを張れば?」


 ミカが端末へ、布でできた小さな家を映した。


「これなら地面を掘らなくていいし、使わないときは畳めるよ」


「へえ。引っ越すときも持っていけるのか」


 ロッカが画面へ顔を寄せた。ティーラは、入口を閉めた写真と開いた写真を見比べる。


「ボクの分も、選んでいい?」


「もちろん。まず、置く場所を見ようか」


 テーブルのお金をポケットへしまい、ティーラはロッカたちとリラの後に続いた。カインは店の席に残っている。


 冷蔵庫は青いシートの上に立っていた。その反対側で、リラが木の下を示す。


「ここなら、お店への出入りも邪魔にならないわ。しばらく使っていいわよ」


「いくら払えばいい?」


「場所代はいらないわ。その代わり、約束があるの」


 リラが物置の扉を開け、空いている棚を示した。


「朝、お店を開ける前にテントを畳んで、ここへしまってね。庭もきれいに使うこと。それと、夜は庭の門の戸締まりをお願い。変な物音がしたら、私にも声をかけてくれる?」


「分かった。寝床の周りを見るのは、いつもやってる」


「ボクも」


 ティーラは頷き、裏口の水道を指した。


「水も、使っていい?」


「ええ。トイレも裏から使えるようにするわね。お風呂は駅の向こうの銭湯、店の食事は別料金よ。困ったことがあったら、その都度相談しましょう」


「ありがとう。借りたい」


 ロッカが頭を下げた。ティーラも隣で頭を下げ、お金の入ったポケットを押さえた。


 次に買うものは、決まっていた。


 店の仕事へ戻るリラと別れ、四人は近くの中古品の店へ向かった。


 テントと寝袋、それから下に敷くマット。まとめて四千円の札がついたものを、ミカが見つけた。


「これ、一人分ずつそろってる。中も見せてもらおう」


 店員が布を広げ、破れや留め具を確かめてくれる。ティーラは開いた入口へ手を入れ、反対側の窓を覗いた。


「こっちからも外が見えるんだ」


「閉めることもできますよ」


 教わった通りに留め具を動かすと、窓が閉じた。


 もう一度開ける。


 ティーラがロッカを見ると、彼も自分の分の布を広げていた。


「俺、緑にする」


「じゃあ、ボクは青」


 二人で色を選び、別々にお金を払った。ティーラは一万円札を渡し、お釣りの六千円を受け取った。


 ティーラはレジの脇で、小さなノートも買った。二百円と書いてあったので、千円札をもう一枚渡す。戻ってきた硬貨は、ミカにもらった小袋へ入れた。


「何を書くんだ?」


「あとで」


 テントの袋はヴィクターが持ってくれた。ティーラが自分の青い袋へ手を伸ばすと、すぐに渡してくれる。


「自分で持つか?」


「うん。ボクのだから」


 ミナトへ戻ると、庭には長い影が伸びていた。風も少し冷たくなっている。


 ティーラは木のそばへ立ち、頬に当たる風を確かめる。入口を風の来ない向きに置き、店の裏口が見える位置へずらした。


「ボク、ここ」


「じゃあ、俺は隣だな」


 ロッカが少し間を空け、緑の袋を下ろした。二つの入口は庭へ向け、顔を出せば互いが見えるよう、少し内側へ向けた。


 二人で布を広げていると、ミカの端末からカインの声がした。ポチが説明書と手元を映している。


『その長い棒を、布の筒へ通せ』


「こっちからか?」


『そうだ。両端を留めれば立つ。ヴィクター、先端だけ持っていろ』


「任せろ!」


「引っ張らないでくださいね」


「持つだけだな!」


 棒を曲げると、平たかった布が持ち上がった。


 ティーラは中を覗いた。床も、壁も、屋根もある。片手で運んできた袋から、ちゃんと眠れる場所ができていく。


 ロッカに紐を張る位置を教わり、短い杭を土へ打った。布を引っ張っても倒れないことを確かめ、入口を開ける。


「できた」


 靴を脱いで入り、マットへ膝をついた。寝袋を広げて横になると、足を伸ばしても奥の壁に当たらなかった。


「どうだ?」


 隣からロッカの声がする。


「入れた」


「はは。よかったな」


 ティーラは入口から顔を出した。隣でも、ロッカが布を捲ってこちらを見ていた。


 ティーラが腕を伸ばすと、ロッカもこちらへ手を伸ばした。指先が届き、そのまま手を握る。


「ロッカ、もうちょっと離れててもよかった?」


「いや。こっちの方が話せるだろ」


「うん」


 ティーラは自分の入口を、開けたままにした。


「二人とも。その顔、写真にしていい?」


 ミカが、ポチを少し下げた。


「ボクの家も入れて」


「もちろん。ロッカのも一緒にね」


 店の裏口へ出てきたリラに、ミカが撮った写真を見せる。二人の顔と、青と緑のテントが並んでいた。


「今夜から、こちらで寝る?」


「うん。もう寝るものもあるし」


 ロッカが答えると、ミカが端末を出した。


「じゃあ青梅の部屋は、明日お返ししよう。荷物と武器も取りに行かないとね。私から連絡しておく」


「頼む」


 ティーラは、テントの奥へ自分の袋を置いた。ポケットを確かめると、まだお金が残っている。


 肉を買う分も、明日の分もあった。


 靴を履いて店へ戻ると、ロッカは図鑑の入った鞄を手に取った。新しい寝床へ持っていくため、肩に掛け直している。


 ティーラもノートを出し、ミカの前へ置いた。


「ミカ。『海』って書いてくれる?」


「海?」


「行ってみたい。水が、ずっと向こうまである?」


 ロッカが隣から覗き込んだ。


「昔、話したやつか」


「うん。今の足で、泳いでみたい」


「いいね。行こうよ。海の配信、私もしたい」


 ミカがペンを借り、一頁目に大きく『海』と書いた。その下へ『ティーラ』と名前を入れてくれる。


「ほかには?」


「俺、空飛ぶ車に乗ってみたい」


 ロッカが言うと、ミカは次の行に書き足した。


「俺は、でかい肉を焼きたいぞ。五人でも食い切れねえくらいのやつ!」


「ヴィクターさん。それ、行きたい場所ですか?」


「いい肉がある場所へ行くんだよ!」


「なるほど。私は、その旅を番組にして稼ぐ、と」


 ミカが自分の分も書くと、カインがカップを置いた。


「俺の欄は?」


「カインさん、何したいんですか?」


「世界中から、指名で仕事を受ける」


 ミカが書き終える前に、指が伸びてきた。


「名前は、もう少し大きく書け」


「はいはい。天才のお名前ですね」


 ロッカが笑い、ヴィクターも笑った。ティーラは開いたノートを手元へ戻し、いちばん上の『海』を指でなぞった。


 その夜、ティーラは寝袋に入ってからも、隣へ何度か声をかけた。


 ロッカは、そのたびに眠そうな返事をした。


 翌朝、十月二十五日。ティーラは畳んだ青いテントを袋へ押し込み、物置の棚へ置いた。隣には、ロッカの緑の袋が並んでいる。寝袋とマットもしまうと、庭には何も残らなかった。


「増えましたよ! チャンネル登録者!」


 店の方から、ミカの声がした。


 ロッカと裏口から入ると、ミカが端末を掲げていた。今来たカインとヴィクターも、まだ入口に立っている。


「何人だ?」


「百二十二人です!」


「千人を超えてから喜べ」


「喜びますよ! この前まで、配信しても二十三人しか来なかったんですから!」


 ロッカが画面を覗いた。


「今、百二十二人が見てるのか?」


「今は配信してないよ。次も見たいって、登録してくれた人の数!」


 ミカが胸の前で端末を抱えた。


「千人になったら、もっと喜びます!」


「おう! そしたら、また祝おうぜ!」


 ヴィクターが笑った。ミカも笑い、窓越しに庭を見て、顔を近づけた。


「あれ。もうテント、片付けたの?」


「店が開く前に畳む約束だろ。土も払って、棚に置いた」


 ロッカが答えると、ミカはカウンターへ振り向いた。


「リラさん。庭を貸したら、片付けまでしてくれる用心棒が二人ついてきましたね」


「助かるわ。昨日も、ちゃんと門を閉めてくれたの」


「……最強のホームセキュリティじゃん」


 リラは笑いながら、入口の札を『営業中』へ裏返した。


 ティーラもロッカと窓際の席へ座った。ミカが向かいへ腰を下ろしたところで、入口の鈴が鳴った。


 顔を上げると、男の子が立っていた。後ろにいる白髪の男が帽子を取り、リラへ頭を下げる。


「おじいちゃん、あの人だよ」


 男の子はテーブルの手前まで来て、足を止めた。


「あの。ミカさん、ですか」


「はい。私?」


「配信、見ました。強い人たちも、一緒なんですね」


 ロッカが頷いた。


「俺たちに、何か用か?」


 男の子は後ろを見た。白髪の男が頷くと、二つ折りの紙を両手で差し出す。


「颯太《そうた》っていいます。取りに行ってほしいものがあるんです」


 紙を開くと、通路と部屋の絵が描かれていた。奥の部屋に、赤い丸がついている。


「ここに、工具箱があるって聞いて」


 颯太の指が、その丸に触れた。


「母さんのなんです。……もう、母さんが使うことはないんですけど」

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