↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
69/100

第69話 動き出す世界 6

 ドイツ、ベルリン郊外。


 霧の中に沈んだ古い洋館があった。


 第二次世界大戦の開戦よりも前から建っている。


 だが、今も使われている。ただ、使い道だけが変わっていた。


 広間の長机に、六つの影が並んでいた。


 椅子のひとつに、名札も階級章もない。


 だが、全員がその椅子に向かって話していた。


 扉が開いた。


 MSO日本支局長、ユリア・フォン・ハーケンが、姿勢を崩さずに歩み寄る。


 背筋は真っ直ぐだったが、


 靴音には逡巡があった。


 最奥の男が言った。


「東京からご苦労だった、ユリア・フォン・ハーケン君」


 低く、均された声。


「MSO総本部は、重大な決定を下した」


 ユリアは立ったまま頷く。


「……四騎士の処遇に関わる件と、拝察します」


 男の目が細くなった。


「彼らは、MSOの待機命令を無視し、処分対象の御子神龍雅と内通した」


 ユリアは息を呑む。


 失態を犯した管理責任を負わされるのか……?


 日本支局長といえども、末端管理職に過ぎない。


 首の挿げ替えは日常茶飯事だった。


「敵との通謀は、死刑だ。それはお前も知っているはずだ」


 ユリアは、拳を握ったまま頭を下げる。


「……二度、処刑工作員を派遣しました。いずれも排除されました。私の任務遂行に、落ち度がありました。反省しております」


 男は首を振った。


「仕方がない。相手は、あの四騎士だ。旧い話だとはいえ、MSOが一度は"神"とした存在だ」


 他の男たちは何も言わない。その沈黙が、賛意であることを彼女は知っていた。


 中央の男が続ける。


「……だからこそ、我々は新たな一歩を選んだ」


 会議卓に置かれた端末が起動し、立体映像が浮かび上がる。


 TYPE-Σ(シグマ)MSO ニュー・サイバネティック・ジェネレーション。生体ニューロンをベースに、命令優先制御型OSで強化されたサイバーハイブリッド兵士」


 一人の幹部が言った。


「感情は排除。遺伝的揺らぎもない。忠誠は、コーディングされている。旧四騎士とは根本的に異なる」


 別の声が重なる。


「我々は、神の力を飼い慣らす段階に来たのだ」


 ユリアは、映像を見ていた。

 それが人間かどうかの判断を、つけかねていた。


「……Σが、四騎士を?」


「始末する」


 男は断言した。


「これは、MSOニュー・サイバネティック・ジェネレーションの総意だ。時代は切り替わった。

 凡人になろうとする者など、もういらん」


 ユリアは、拳を強く握った。だが、声は抑えた。


「……私は、ナマズ・ビルに戻るべきでしょうか」


 男は、薄く笑った。


「戻ってもいい。だが、四騎士はそこには、すでに存在しない。Σが星にする」


 一拍。


「Σが全員を処理した後、MSOニュー・サイバネティック・ジェネレーションの一員として、新しい命令を受けよ」


 会議室は、再び静寂に包まれた。


 ユリアは、何も言わず、一礼し、踵を返した。


 その背には誰も声をかけない。


 それが、この組織のやり方だった。


 無慈悲な響きを立てて扉が閉まる。


 その音が、すべてを告げていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。