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第47話 ヨハネの四騎士 異変

 御子神研究所で死闘が繰り広げられている間……、白の騎士の突然の異変のために一時撤退を余儀なくされたヨハネの四騎士は無聊をかこっていた。 


 赤の騎士、ルカは、ひとり街に出た。


 理由はない。


 ただ、酒が飲みたかった。


 六本木。


 ネオンが無駄に明るく、


 人の欲と嘘が、路地に沈殿している街だ。


 選んだのは、いかにもな店だった。


 半グレ崩れが看板を出し、入口に用心棒を立たせた、ぼったくりバー。


 ルカは気に入った。


 こういう場所は、面倒が起きやすい。


 カウンターに座り、ウイスキーを頼む。


 ショット。三フィンガー。


 それを三杯。


 喉が焼ける。だが、悪くない。


 グラスを置いたところで、伝票が差し出された。


 ――五十万円。


 ルカは、それを見て、にやりと笑った。


「……桁、間違ってねえか?」


 店主は、目を逸らさない。


「ウチは、そういう店だから」


 ルカは、肩をすくめた。


「ここで揉めると、店が壊れちまうな」


 立ち上がる。


「表で話そうぜ。落ち着いてな」


 用心棒が五人、無言で後をついてきた。


 路地裏。湿ったアスファルト。


 ルカは、振り返った。


「一対五か。悪くねえ」


 次の瞬間、勝負は終わっていた。


 一人目の拳が空を切り、肋骨が砕ける音が鳴る。


 二人目は、蹴りを放つ前に地面へ沈む。


 三人目、四人目、五人目。


 動きは無駄がない。


 赤の騎士は、戦うために作られている。


 地面には、悶絶する男たちが転がっていた。


 ルカは、深く息を吐いた。


「……さて。帰って寝るか」


 その瞬間だった。


 世界が、暗転した。


「……?」


 一歩、踏み出す。


 だが、足元が見えない。


「……眸が……?」


 手を伸ばす。何も見えない。


 闇ではない。なのに、視界そのものが、消えている。


「……冗談だろ……」


 膝が、折れた。


 ルカは、アスファルトに崩れ落ちた。


 次に感じたのは、抱き上げられる感触だった。


 無言。揺れない。


 聞き慣れた気配。


「……ヘルマン……?」


 返事はない。


 だが、間違いない。


 蒼の騎士。


 死の境界に立つ男。


 ルカは、かすれた声で言った。


「……異変だ……。なぜだ……」


 ヘルマンは、答えなかった。


 ただ、抱えた腕に、力を込めた。


 MSO日本支局、ナマズ・ビル。


 ルカは、静かな部屋で寝かされた。


 視界は戻らない。


 だが、意識は冴えている。


 ヘルマンは、部屋の隅に立ち、じっと様子を見ていた。


 そこへ、イザベルが入ってくる。


 ルカの顔を見て、一瞬だけ、表情を曇らせた。


「……発症したわね」


 ヘルマンが、低く言う。


「……予定より、早い」


 イザベルは、腕を組んだ。


「上の指示通り、待っていても……私たちは、突然死の運命から逃げ切れない」


 ヘルマンが、視線を向ける。


「……では?」


 イザベルは、はっきりと言った。


「御子神研究所へ行く」


 その名に、ルカの喉が鳴る。


「……あそこか……」


 イザベルは続けた。


「御子神剛が、私たちを創った。なら――」


 一拍。


「壊れる理由も、あそこにある」


 ヘルマンは、黙って頷いた。


 赤の騎士は、闇の中で、拳を握った。


 視界はない。


 だが、戦いは終わっていない。


 そして、物語は、二十五年前へと、静かに遡る。


 御子神。早乙女。陸幕二部・秘密研究班。


 そして――


 メンゲレの息子(Sohne)。


 ヨハネの四騎士は、まだ、存在していなかった。



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