↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
39/100

第39話 暗闘 17

 

 研究所周辺の照明は、既に意味を失っていた。


 辛うじて灯り自体はついている。


 だが、闇のほうが深い。


 龍雅は、背中を外壁に預けたまま、


 ショットガン――M870の銃口を下げなかった。


 ケイが、その半歩、前に立っている。


 低い姿勢で息を殺し、毛並みは逆立たず、ただ――動かない。


 それが、ケイの警戒の仕草だった。


 カツ、と音がした。


 ごく軽い。


 落ち葉が踏まれた音とも違う。


 軍靴の底が、自分の存在を確認するように地面へ触れた音。


 龍雅は、即座に理解した。


「……来た」


 ケイの喉が震えた。


 グルルルル……ッ。


 吠えない。威嚇しない。ただ、相手の中枢神経の怯えに触れる唸り。


 次の瞬間、闇の中で"動いていた何か"が止まった。


 人影だ。


 完全に姿を見せないまま、


 動きだけが、不自然に凍った。


「……っ」


 小さな息詰まり。


 敵兵の筋肉が言うことをきかない。中枢神経からの命令が、途中で途切れているのか。


 ケイの唸りは、声ではなく、敵の中枢神経伝達系に対する干渉《プレッシャー》だった。


 龍雅は、引き金に指をかける。


 だが、撃たない。


 その一拍が、"最初の接触"を決定づけた。


 闇が、跳ねた。


 敵レンジャーが、強引に動いた。


 訓練された身体が、神経伝達の異常を力でねじ伏せる。


「……強い」


 そうと感じた瞬間、同時に、ケイが跳んだ。


 一直線。迷いのない軌道。


 レンジャーの肩に、牙が突き立つ。


 防弾ベストの装甲の継ぎ目。噛まれることを想定していない場所。


 骨を噛む音。肉が裂ける感触。


 男は叫ばなかった。叫ぶ前に、


 地面に膝をついた。


 その瞬間――龍雅は、引き金を引いた。


 ――ドンッ!!


 夜が銃声に割れた。


 OO弾が、レンジャーの胸部装甲を正面から叩いた。


 防弾プレートは耐えたが、その下の人間は耐えられなかった。


 衝撃が、内側で暴れ、砕けた肋骨が内臓へ食い込む。


 東側から襲ってきた、力で場を支配する男、河越上曹が、真後ろへ倒れた。


 終わりだ。


 龍雅の肩に、反動が残る。


 ……一人、殺した。


 罪を犯したなどと、考える暇はない。


 ケイが、再び唸る。


 別の気配。もう一つ。


 複数だ。


 レンジャーの影が、


 左右に分かれる。


 包囲の形。


 ケイは、


 龍雅の前に戻り、背中を向けた。


 守る姿勢。


 龍雅は、その背中越しに銃を構える。


「……ケイ」


 声は、低く、落ち着いていた。


「行け。止めろ。俺は――撃つ」


 ケイは一度だけ、


 尻尾を振った。


 次の瞬間、闇に、二つ目の悲鳴が沈んだ。


 誰よりも速く動いていた狂気の曹長 曽田、狩りを楽しむつもりが逆に倒される羽目になった。


 周囲に静けさが戻った。


 最初の接触は、終わった。


 だが――


 戦いは、いま始まったばかりだった。


 最初の闘いが終わったあと、森は、再び沈黙を守っている。



 研究所周辺の照明は、既に意味を失っていた。


 辛うじて灯り自体はついている。


 だが、闇のほうが深い。


 龍雅は、背中を外壁に預けたまま、


 ショットガン――M870の銃口を下げなかった。


 ケイが、その半歩、前に立っている。


 低い姿勢で息を殺し、毛並みは逆立たず、ただ――動かない。


 それが、ケイの警戒の仕草だった。


 カツ、と音がした。


 ごく軽い。


 落ち葉が踏まれた音とも違う。


 軍靴の底が、自分の存在を確認するように地面へ触れた音。


 龍雅は、即座に理解した。


「……来た」


 ケイの喉が震えた。


 グルルルル……ッ。


 吠えない。威嚇しない。ただ、相手の中枢神経の怯えに触れる唸り。


 次の瞬間、闇の中で"動いていた何か"が止まった。


 人影だ。


 完全に姿を見せないまま、


 動きだけが、不自然に凍った。


「……っ」


 小さな息詰まり。


 敵兵の筋肉が言うことをきかない。中枢神経からの命令が、途中で途切れているのか。


 ケイの唸りは、声ではなく、敵の中枢神経伝達系に対する干渉《プレッシャー》だった。


 龍雅は、引き金に指をかける。


 だが、撃たない。


 その一拍が、"最初の接触"を決定づけた。


 闇が、跳ねた。


 敵レンジャーが、強引に動いた。


 訓練された身体が、神経伝達の異常を力でねじ伏せる。


「……強い」


 そうと感じた瞬間、同時に、ケイが跳んだ。


 一直線。迷いのない軌道。


 レンジャーの肩に、牙が突き立つ。


 防弾ベストの装甲の継ぎ目。噛まれることを想定していない場所。


 骨を噛む音。肉が裂ける感触。


 男は叫ばなかった。叫ぶ前に、


 地面に膝をついた。


 その瞬間――龍雅は、引き金を引いた。


 ――ドンッ!!


 夜が銃声に割れた。


 OO弾が、レンジャーの胸部装甲を正面から叩いた。


 防弾プレートは耐えたが、その下の人間は耐えられなかった。


 衝撃が、内側で暴れ、砕けた肋骨が内臓へ食い込む。


 東側から襲ってきた、力で場を支配する男、河越上曹が、真後ろへ倒れた。


 終わりだ。


 龍雅の肩に、反動が残る。


 ……一人、殺した。


 罪を犯したなどと、考える暇はない。


 ケイが、再び唸る。


 別の気配。もう一つ。


 複数だ。


 レンジャーの影が、


 左右に分かれる。


 包囲の形。


 ケイは、


 龍雅の前に戻り、背中を向けた。


 守る姿勢。


 龍雅は、その背中越しに銃を構える。


「……ケイ」


 声は、低く、落ち着いていた。


「行け。止めろ。俺は――撃つ」


 ケイは一度だけ、


 尻尾を振った。


 次の瞬間、闇に、二つ目の悲鳴が沈んだ。


 誰よりも速く動いていた狂気の曹長 曽田、狩りを楽しむつもりが逆に倒される羽目になった。


 周囲に静けさが戻った。


 最初の接触は、終わった。


 だが――


 戦いは、いま始まったばかりだった。


 森は、再び沈黙を守っている。


 銃声も、足音もない。


 だがそれは、安全の兆候ではない。


 狙撃手が息を潜めた静けさにすぎない。


 龍雅は、背中を研究所の外壁へ密着させた。


 コンクリートの冷えが、背骨を伝ってくる。


 ケイが、その半歩前に立つ。


 低い姿勢。


 毛は逆立たず、唸りも抑えたまま。


 ――動かない。


 それが、ケイにとっての最上級の警戒だった。


 次の瞬間。


 ヒュッ――。


 空気が裂けた。


 ケイが、反射ではなく予測で跳んだ。


 弾丸が、さっきまでケイの頭があった位置を正確に貫く。


 外壁が弾け、白い破片が夜へ散った。


 遅れて、乾いた音。


 パァン――!


「……狙撃だ」


 龍雅の喉が、無意識に鳴った。


 野島二曹。


 西側。


 距離、およそ百五十。


 サプレッサー付き。


 音は殺している。


 闇の向こうで、野島は照準器を覗いていた。


「……やっぱりな」


 低い、愉しげな声。


「動物だ。だが……普通のケダモノじゃねぇ」


 照準の中で、ケイの残像が揺れる。


 呼吸を落とす。


 心拍を、狙撃のリズムへ合わせる。


 一分間、四拍。


 撃つ理由はひとつ。


 先に見つけた。


 それだけでいい。


 二発目。


 ヒュッ――ッ!


 今度は、龍雅の肩をかすめた。


 熱が走る。


 皮膚が焼ける感覚。


(……外した?

 いや……“わざと”だ)


 ケイが、短く吠えた。


 ワンッ!


 たった一声。


 だがその瞬間、


 野島の脳内で何かが狂った。


「……なに……?」


 距離感が、歪む。


 照準と現実が、噛み合わない。


 ケイの唸りは、音ではなかった。


 中枢神経の“高次処理”そのものに、直接干渉している。


 龍雅は、その一瞬を逃さなかった。


 ショットガンを構える。


 射程外。


 だが、狙撃手は必ず――同じ場所を使う。


「……木の上か」


 ――ドンッ!!


 散弾が、幹を抉った。


 樹皮が爆ぜ、枝が折れ、葉が舞う。


 野島が、初めて舌打ちした。


「……いい判断だ。だが――遅い」


 照準を戻す。


 だが。


 ケイが、いない。


「……消えた?いや……下か」


 次の瞬間。


 地面が、爆ぜた。


 ケイが、真下から跳び出した。


 あり得ない跳躍角度。


 銃身に牙が噛みつく。


 金属が、悲鳴を上げて歪む。


 野島は即座にナイフを抜いた。


 ギンッ――!


 刃が、ケイの頬を浅く裂く。


 一筋の血。


 だが、ケイは怯まない。


 至近距離で、


 唸りが“炸裂”した。


 グゥゥゥゥゥ……ッ!!


 野島の視界が、真っ白になる。


「……俺の……神経を……直接……遮断……!?」


 その瞬間。


 ――ドンッ!!


 超至近距離からのM870。


 散弾が、野島の胸を撃ち抜いた。


 防弾は、この距離では意味をなさない。


 野島は、音もなく後ろへ倒れた。


 森が、ひとつ――息を吐いた。


 龍雅は、銃口を下げなかった。


 ケイが血を舐め、


 再び前を向く。


「……次が来るな」


 龍雅の声は、もう震えていなかった。


 狙撃手との戦いは、終わった。


 だが、包囲は、まだ解けていない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。