↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
32/100

第32話 暗闘 10



 御子神研究所の入口前の廊下に龍雅とケイは佇んでいた


 研究所の肌に触れる空気は、湿度も温度も変わらないのに、何故か、皮膚が薄い刃物の切っ先で撫でられるような異物感で満ちていた。

 

 得体のしれぬ恐怖がそう感じさせるのかもしれない。


 龍雅は奥歯を噛みしめ、ショットガンのストックを肩へ押し当てた。


 ケイが廊下の先──研究所の正面扉へ向けて、低い姿勢で進んでいく。


 背毛が逆立っている。


 唸り声は、今まで聞いたことがないほどに低く、そして深い。


 グルルルル……ッ……*


 ケイも同じ異物感を感じているのだろうか。


 紅音がきっぱりと言い放った。


「ケイ……怖がってるんじゃない……あれは……“怒ってる時”……その時の声だと思います……」


 龍雅は頷いた。


「そうだな。ケイが“吠えない”のは……、本当に危険な敵に対峙した時だけだもんな」


 扉の外で、何者かが“歩いた”。


 だが──音はほとんどしない。


 靴底が床材へ触れた、とわずかな圧が伝わるだけ。


 音ではなく、存在が壁を通して滲んできた。


「……いま……誰か外に……」


「違う。“誰か”じゃない。“何か”だ」


 ケイが扉の目前まで進む。


 右前足が、床を二度、叩いた。


 タン……タン……、と。


 龍雅は息を呑む。


『……あれはケイの数を“数える”仕草だった。敵の数……距離……速度を、自己の感覚で図ってやがる……』


「……ケイ。敵は……何人いる?」


 ケイは短く、しかしはっきりと──。


 ワンッ! ワンッ! ワンッ! ワンッ! ワンッ! ワンッ!


「……六……?」


「ああ。阿羅業さんが言ってた敵。“六つの影”だ」


 紅音の唇が震えた。


「恐ろしい……。自衛隊の殺し屋が六人も……」


「六人、しかも化け物の六人……」


 扉の外、六つの影がゆっくりと歩いていた。


 一列ではない。二列でもない。散開した形でもない。


 まるで──、


 “影が六つ重なって歩いている”ような錯覚。


 足音に個性がない。


 呼吸の気配がしない。


 龍雅の背を、冷たいものが走った。


 ケイが扉に背を向け、


 龍雅と紅音の前に立つ。


 守るつもりでいるようだ。


「ケイ……あなた……、御子神さんを……守るつもりなの……?」


 ケイは喉の奥を震わせ、


 低く、深く──声を響かせる


 ウオゥゥゥゥ……ッ……!!


 昨日までは健気な柴犬にしかみえなかった、ケイが雄々しく変貌して目の前にいる・


 紅音の目に涙が浮かんだ。


「……ケイ……お願い……死なないで……御子神さんも……ケイも……死んじゃダメ……」


 そのときだった。


 研究所の正面扉の金具が、


 ゆっくりと“ひとつだけ”動いた。


 カチリ……。


 紅音が息を呑む。


「……今の……何……?」


「外の奴らが扉を“弄っている”。鍵の強度を確かめてるのか……」


 扉が軋んだ。


 押すでもなく、叩くでもなく──“次に押し込むために形状を読む”。

 

 静かに扉に圧力が駆けられていく。


 ケイが、龍雅の足元に顔を押しつけた。


「……大丈夫だケイ。一緒に撃ち抜く。俺とお前で……紅音を守るぞ」


 ケイが一度だけ尻尾を振った。


   *   *


 森の奥で爆ぜるような破裂音が響いた。


「来たか……!」


「……“ひとり”よ。一人だけ、先にこちらへ気づいたみたい」


 炎琳は車から降りた。

、

 霧の中に立つ黒い影を見つめた。


 霧が割れた。


 そこにいたのは、


 男──。


 空挺レンジャーの一人。


 波多野。


 その瞳には、悲しみと殺意が同量で宿っている。


「森の中を“走って来た”か。生きてりゃ、会えると思ってたぜ」


「来なさい。ここを通れた者は……ひとりもいない」


 波多野の眼には激しい闘気が漂っていた。


「俺は通る。このミッションを成功させれば、娘の遺伝子病を、CIA様が治してくれる……救うまでは死ねねぇ」


 炎琳がその一言で、全てを察した。


 波多野の娘は遺伝子病で、ゲノム治療を受けなければ死ぬ。


 CIAはその心を弄び、x2500破壊工作員に仕立て上げた。


「CIA?救えないわ。CIAの遺伝子統合器は、まだまともに病気を治せる代物ではないのよ!」


 波多野は炎琳に憎しみの眼を向けた。


「黙れ」


 波多野の足元の土が、強すぎる踏み込みで抉れた。


 阿羅業が叫んだ。


「炎琳、構えろ。こいつは“本気”で来る」


「任せて」


 森の空気が張り詰めた。


 龍雅の研究所へ向かって、六つの影が迫っていた。


 そのうちのひとつが、ついに炎琳と外道医の前に立った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。