↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
24/100

第24話 暗闘 2

 新宿区・市谷 外苑東通り、合羽坂上。


 深夜の街路樹が濡れたアスファルトに影を落とし、


 青白い街灯は光よりも"冷たさ"を撒き散らしていた。


 四差路。


 阿羅業神醫は、ひとり立っていた。


 白衣の裾が、風に揺れる。


 手元のスマートフォン、龍雅の声が震え混じりに届く。


「戦場で親父と一緒に働いてた、阿羅業さんか……?どこにいるんだ、今……?」


 阿羅業は煙草を指に挟み、火を点けずに口へ咥えた。


 吸わない。ただの儀式。


 落ち着くために、習慣でやるだけの行為。


「……市谷の防衛省前にいる。いま、そっちへ向かう」


「何かあったのか?」


 答える前に、阿羅業の目が"それ"を捉えた。


 遠くの路地──闇の奥で、複数の黒い影が蠢く。


 普通の歩き方ではない。


 音を殺し、生命の臭いを捨て、足の運びは機械運動のように均一。


 死を運ぶ影の姿。


 CIA黒組に忠誠を誓った陸自暗殺部隊。


『……来るものが来やがった。あいつら、龍雅も研究所も……すべて"消す"気だ』


 CIAの意図を酌んだ暗殺者達の影が龍雅の背後に迫っている。


「龍雅、聞け。CIAが動いている。陸自の精鋭部隊を買収してな」


「陸自……!?なんで……どうして……」


「x2500だ。"奪う"んじゃねぇ。"この世界から消すため"に動いている。」


 通話越しに、龍雅が息を飲む気配が伝わる。


「いいか龍雅。お前は今すぐ"構えろ"。油断した瞬間、命ごと持っていかれる」


 青信号に変わっても、阿羅業は一歩も動かなかった。白衣の影だけが揺れる。


「それと──煉脈連の連中は、とりあえずこっちの味方につけた。味方は多い方がいい」


「味方……?ついこの間、俺たちをぶっ殺そうとした連中が……?」


「ああ。あいつらは、"今は"お前の敵じゃない。少なくとも──俺とお前の味方だ」


 一瞬、龍雅は息を呑んだ。沈黙が続いた。


 龍雅の息遣いが少し乱れている。


「……阿羅業さん。親父の旧い仕事仲間だってことだけで、どうして……そこまでして俺を助けてくれるんですか」


 阿羅業は煙草を外し、夜空を見上げた。


(……そんなもの、俺だって知らねぇよ)


 だが、口から出た言葉は違った。


「……俺は医者だ。お前のように、死にかけてる命をただ見てるのは性に合わねぇ」


 少し間が空く。


「それに龍雅──お前が"親父の割りを喰って"死んじまうのも、俺は見たくねぇ」


 電話の向こうで、龍雅が小さく息を呑んだ。


「お前は剛じゃねぇ。お前は"御子神龍雅"だ。親父の因縁に巻き込まれている。お前が殺される理由なんてない。だから生き残れ。生きて、お前の業を、科学を完成させろ」


「阿羅業さん……」


 その瞬間──阿羅業の背後を、低い地響きが揺らした。


(……来る)


 阿羅業は振り返らず、静かに告げた。


「龍雅……いいか。"次に聞く音"は、殺し屋の足音だ」


「……!」


「だが安心しろ。もうすぐお前のところへ"味方"が向かう」


「味方……?」


「名は──薄紅《ハクコウ》。煉脈連の幹部、張 炎琳だ」


「煉脈連の幹部……張炎琳……味方……?」


「そうだ。俺と同じx2500を守るという志を持ってる。だから──信じろ」


 路地の闇を、暗殺隊が走っている。


 足音も、呼吸も、温度もない影。


 待機している装甲車に次々と乗り込む隊員たち。


 奥多摩、御子神研究所の襲撃に向かう、地上暗殺部隊。


 空と陸から攻めるつもりか。


 阿羅業は煙草を地面に落とし、足で静かに踏み潰した。


「――行くぜ、龍雅。再会を楽しみにしてる」


 その言葉は、不思議なほど柔らかかった。


「阿羅業さん――!」


 通話が切れた。


 新宿の夜が、"戦場の臭い"へと変わっていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。