↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
23/100

第23話 暗闘 1

 東京都・朝焼けまだ遠い多摩丘陵の闇の底で、牙を隠した影が蠢き始めていた。


 陸上自衛隊・第一空挺団習志野駐屯地。


 格納庫のシャッターが静かに開き、黒い影が次々に姿を現した。


 彼らは精鋭中の精鋭。しかし、その眸《め》は通常の自衛官のものではなかった。


 瞳孔反応が異常に鈍い。


 呼吸は浅く、歩みが機械のように同期している。


 ――CIAによる、殺人特殊訓練を受けた暗殺隊。


 かつて“特別潜入処理班”と呼ばれたエリートたちは、今やCIAの“傀儡兵器”となっていた。


 先頭に立った隊長が叫んだ。


「――作戦開始。最優先目標、奥多摩・御子神研究所に潜んだ反社会分子の抹殺。二次目標、設備器械《X2500》の破壊」


 暗い声が格納庫に響く。返事は一つもない。

 ただ、統制された足音だけが地を叩いた。


 そのころ、渋谷区広尾のあるマンションの屋上で、一人の男がスマートフォンを握りしめ、

 通話アプリを“暗号回線”に切り替えた。


「……張女史。CIAに新たな動き、支配下の空挺団員四十名規模……降下作戦の準備を始めた模様」


 電話の向こうで、風を切る音がした。


「……目標は?」


「奥多摩御子神研究所。CIAに買収された陸自隊長が指揮している。例のブツの破壊が目的だ……奪取の意思は一切ない。完全破壊だ」


 炎琳は瞳を細めた。


「……やはり。CIAは《X2500》を世界から消したいのね。」


「……悪いな。役に立てなくて。奴ら、俺等の部隊を……」


「言わなくていい。……あなたは十分やってくれた」


 通信が切れる。


 炎琳は、深く息を吐いた。


「……奪われるわけにはいかない。あれがなければ……」


 六本木東京ヘッドタウン・センタービル二十六階、表の看板は南陽熱帯医学研究所、その正体は煉脈連の秘密拠点だ。


 緋色の照明が円形フロアを照らす。


 そこに炎琳は歩み入り、手首に装着した小型端末に指を滑らせた。


「薄紅《ハクコウ》から全功夫班へ。――“戦闘”よ。対象は小日本陸自第一空挺団特殊部隊。

 迎撃地点は奥多摩・御子神研究所前」


 沈黙。

 だが次の瞬間、闇から無数の影が姿を現した。

 筋肉の線が獣のように浮かぶ体術師、

 鞭のような腕を持つ超人体格者、

 毒と薬を操る医術専門員――。


 煉脈連功夫戦部隊《ゴンフー・ジャン》が集結した。


「薄紅様。今回の相手は……“日本軍の精鋭”と聞きましたが?」

 部下の問いに炎琳は毅然と答えた

「問題ない。向こうは“洗脳された駒”。こちらは“生きるために戦う者”よ」

 隊員たちが、専用ケースの蓋を開けた。

 中から、ブンブンと空気を震わせる音が響く。

「全員、毒蜂装備確認終了。遺伝子改造スズメバチ”――《獄蜂》起動準備済みであります!」

 黒い甲殻に黄色い縞、通常のスズメバチの三倍はある体躯。

 そして、腹部には、致死性神経毒ファルトキシン3を生成する改造腺を持つ。

 かつて煉脈連は、遺伝子強化型ハマダラ蚊に同じ遺伝子改造を施し、日本の要人を殺害しようとしたことがある。

 今や改良を重ねて、ついに猛毒スズメバチ軍の編成に成功していたのである。

「……全蜂軍、活動準備完了」


「行くわよ。“我らが敵”を全て止める」


 炎琳は最後にスマートフォンを取り出し、


 たった五文字のメッセージを打った。


『至急合流請』


 意味はただひとつ。


 “私たちはあなたを必要としている”。


 送信先は……阿羅業神醫(あらわざかむい)。


 送信完了の表示に頷いた炎琳は、一言だけ呟いた。


「阿羅業、貴方はきっと動くはず、私は待ってるわよ」


 同刻、習志野を飛び立ったヘリが、奥多摩上空に近づく。


 第一空挺団特別潜入処理班の隊員たちは、無音のまま落下傘と共に暗闇へ降下する。


「――降下開始。研究所周囲を包囲せよ」


 夜の森に、音を立てない“黒い暴力の雨”が降り始めた。


 そして、その更なる外側部を包囲するように、更に静かな、更に鋭い毒の影が集結しようとしていた。


 ――張炎琳薄紅の率いる、煉脈連・獄蜂功夫戦部隊もまた、研究所へ向かっていたのである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。