東暗西明
東地区冒険者ギルド
グラッド「馬鹿を言うな!幾ら6級でもこれ以上出せるか!」
受付嬢「でも、この金額でないと引き受けたく無いと言ってます」
グラッド「あいつら・・・・・・・」
浅黒い顔に青筋を浮かべて唸ったいるのはギルド長のグラッドである。
現在、東支部は些か面倒な事態に陥っていた。
元々が高位貴族や大手の商人との繋がりが深いのだが、美味しい思いをしていた分
彼らの要求を断り辛い。
要求とは勿論、解熱剤の材料であるフラックス草である。
ラディ「仕方ない、多分西支部なら余裕が有るだろう、廻して貰おう」
グラッド「断られた」
ラディ「なに?」
グラッド「断られたんだよ!」
元より余り親交が有った訳では無いが、中央を通せば問題無いだろうと思っていた
しかし中央には仲介を断られ、ならばと直接交渉しようとしたが全く取りあって貰
えなかった。
現在、九鬼の反感を買いまくった中央ギルドは西支部と絶縁状態であり、元より余
り良好な関係に無かった南支部が西に歩調を合わせる様に独立採算性に移行し始め
るようになった。
つまり、アマルティア王国の冒険者ギルドは、北・東・中央対西・南の二つに分か
れた状態になっているのだ。
そして、このような大きな動きにギルド長が全く気付いていない所が、グラッドの
能力が低い証拠である。
粗暴な冒険者を纏め抑え込む事に重きを置いたギルド人事の弊害の一例である。
ラディ「一体どうするつもりだ?」
グラッド「たかがフラックス草だ、無理だと押し通すしか無いだろう」
ラディ「いや、まずいだろ、それ」
グラッド「ならどうする、自腹でも切るか?」
ラディ「それこそ、無理だ」
この会話を聞いていた受付嬢や職員の半数以上がこの東支部ギルドに見切りを付け
南や西に移籍する事を考え始めた。
流行病の事が騒がれ始めたのにギルドの責任差二人がこの程度の認識なのかと。
一方、中央と北支部もグラッド達と同じ事態に陥っていたが南支部だけは些か状況
が違っていた。
今でこそ九鬼の影響で独立独歩に舵を切った西支部だが、元々その気質は南支部の
方が強かった。
その立役者がギルド長のリギアと補佐のミルヴァ、二人の女性の存在だろう。
特にリギアは双剣使いの豪傑で何度も横暴な男の冒険者を叩きのめして来たため、
当時から若い特に女性の冒険者からの支持が高く、それが今でも続いていた。
そのリギアの使いとして補佐のミルヴァが西支部を訪れた。
デライド「業務提携?」
ミルヴァ「ええ、もしくは共闘と考えて貰っても良いわ」
ギルドとしては確かに独立採算制を取ってはいるが、それはあくまで冒険者稼業に
限った事で、経済圏まで構築した西支部とはまるで違う、脆弱で不安定な物なのだ
その弱みを補完する為の提携なのだ。
デライド「それは解ったが・・・・・・」
ミルヴァ「理由はもう一つ、どうも中央の動向が怪しいのよ」
チェスカ「怪しいとは?」
ミルヴァ「支部を廃止し中央に集中させる事を画策し始めたようなの」
デライト「・・・・・・馬鹿なのか?」
ミルヴァ「間違いなく馬鹿の類だけれど、混乱は免れないわ」
チェスカ「何を考えているんだか・・・・・・・・」
そもそも王都が広すぎて、手が回らない為に支部を作り、中央がそれらを管理する
事で成り立っていたのに、それを統合すれば機能不全を引き起こす事は間違いない
そもそも貴族連中の傀儡組織に成り下がって、その管理能力を手放してしまったの
が中央だ。
デライド「そんな事をしても俺らが戻る訳が無いだろうに・・・・」
チェスカ「無駄な足掻きにしか思えないわ」
仮に統合したとしても、恐らく北と東ぐらいしか応じないだろうし、それも、あの
ままの運営を続けて行けばいずれ破綻する事は目に見えている。
腐った内情が変わらなければ外観を幾ら変えても意味が無い。
どう考えても上手くゆくとは思えない。
デライド「どう転んでも嫌がらせ以外の何物でも無いだろう」
ミルヴァ「そうは言ってもギルドの資格や契約の殆んどを持たれていますから」
チェスカ「確かに・・・・・・混乱は免れないわね」
中央が統合を強行すれば、上層部はともかく末端の冒険者たちや市民には少なか
らず混乱が生じるだろう。
デライド「しかし何でまた急に・・・・」
ミルヴァ「公爵家が乗り込んで来て、負債や権利を買い取ったらしいわ」
チェスカ「公爵家ですって?」
デライド「どうもキナ臭くなってきたな・・・・・・・」
ミルヴァ「・・・・・・事情がありそうね」
ここでデライドが孤児院と公爵の次男が衝突している事を話した。
ミルヴァ「まさか・・・・・・・・・・・戦闘員を集める為?」
デライド「恐らくな、可能性は低く無いと思う」
チェスカ「はあぁ、無駄な事を」
デライド「何人集めた所で意味は無いんだが」
ミルヴァ「相手は孤児院でしょ、逆じゃないの?」
チェスカ「孤児院とクラン五稜郭は同じなのよ、場所も人もね」
ミルヴァ「ああ、それは、御愁傷様としか言えないわね」
冒険者の間でクラン五稜郭や羽蝶蘭、明鏡止水は良く知られているが九鬼と孤児院
の事は余り知られていない。
知っていれば敵対など絶対にしない。
デライド「欲に駆られた連中が無駄に命を散らすだけだが・・・・・」
チェスカ「ええ、些か哀れね」
北や東の冒険者が一人残らず問題のある者ばかりでは無い。
僅かだがまともな思考をする者や、ただ粗暴なだけで別に犯罪を犯している訳では
無い者も在籍している。
ミルヴァ「ではこちらで少し情報を流してやりましょう」
デライド「それは助かる」
チェスカ「無駄に死体を量産したくないですからね」
この後、デライドはミルヴァを伴って南支部との共闘を九鬼に報告するため孤児院
を訪れた。
九鬼「ふむ、統合とは厄介じゃのう」
デライド「たぶん、そんなに冒険者が参加する事は無いと思うが・・・・」
九鬼「ああ、そっちは問題ない」
ミルヴァ「問題無いって・・・・・・・・・・」
九鬼「それよりも資格権利の類をどうするか・・・・・・・」
デライド「無視すれば良いんじゃないか?」
九鬼「それも一つの選択肢じゃが、今後の事も考えんとのう」
ミルヴァ「しかし、こればっかりは・・・・・・」
九鬼「いっそ、完全に袂を分かつ、か・・・・・」
どうせ今でも没交渉状態なのだから、分裂しようが独立しようが大差はない。
九鬼「南の方も加わって貰えば規模的にも五分じゃしな」
ミルヴァ「と、言う事は提携は」
九鬼「勿論、了承じゃ、歓迎する」
デライド「では、大々的に周知させるか、楽しみだ」
北、東、中央対西、南の構造がハッキリ明文化されるのだから冒険者達にこれから
の行動や身の振り方を考え選択する切っ掛けになるだろう。
善良な者は、より善良な者達の元に、悪しき者は、より悪しき者達の元に。
王都の中で極端な二極化が加速する事になる。
暴力により自分の地位や存在を確立させていた少数派の者達は、自然と狭い地域に
集約され、そしてその周りがクラン五稜郭の勢力範囲になるのだ。
暴発しようにも暴発した途端、九鬼達に粛清される。
法が機能する真っ当な世界に近づくのだ。
フェーナ「ねえ、話は終わったんでしょ、早くペールダック狩に行きましょうよ」
細かい取り決めを済ませて歓談していたが、待つのに我慢できなくなったフェーナ
が、ひょっこりと窓から顔をだした。
ミルヴァ「な、何で第二王女様がここに・・・・・」
九鬼「知っておるのか?」
ミルヴァ「ええ、以前下町でちょっとしたトラブルが有りまして、その時に」
王城を抜け出して遊んでいたフェーナとそれをナンパしようとした若い冒険者の男
が剣を抜いてのトラブルを起した。
普通なら、一言断れば済む話を、中々引き下がらない若者にたいしてミルヴァが切
れ罵詈雑言の嵐を叩き付けた。
それに激昂した男と罵倒する事に興奮したミルヴァが通りの真ん中で衝突し、それ
をたまたま仲裁したのがリギアとミルヴァだったのだ。
ミルヴァ「そうだ、いっその事フェーナ様に許可証を発行して貰いましょう」
九鬼「はあ?」
デライド「何を言ってるんだ、お前は」
ミルヴァ「どうせ形式だけの物でしょ、対外的に恰好が付けば問題ないのでは?」
九鬼「確かに・・・・それならディラン殿も連盟で名を連ねて貰うか」
ミルヴァ「良いですねえ」
フェーナ「???」
冒険者ギルドはこの日、完全なる分裂の道を辿り始めた。
それは商業ギルドや薬師ギルドに留まらず鍛冶や服飾、はては土木や木工に至る
まで、様々なギルドに影響を及ぼす事になる。




