襲玉魔病
九鬼「詳しく話せ」
ガイン「すいません・・・油断しました」
アイナ「まさか町中で魔獣に襲われるなんて思ってなくて・・・・・」
エマ「気が緩んでしまって・・・・・・・」
微熱の出始めたソフィーナに解熱剤を飲ませて寝かしつけ、その場で事情の確認を
したが、予想通り例の魔人に遭遇してしまったらしい。
間の悪い事に、この時羽蝶蘭の四人は報告の為にギルドへ先行していて此の場所に
は居なかった。
ガイン「暗くなってきたけど、王都内なら大丈夫だと・・・・・」
いきなり路地の奥から飛び出してきた影を反射的に斬り伏せようとしたが、魔人は
剣が届く寸前に体を捻って横に跳ぶと、その先にいたソフィーナの腕に噛み付いた
すぐさまアイナが剣を返したが、魔人は一切の躊躇なく牙をソフィーナから離すと
再び闇に溶け込んで消えた。
エマ「傷は直ぐに塞いだんだけど、すぐにおかしくなって・・・・」
九鬼「恐らく病原菌のせいじゃろう」
ガイン「病原菌?」
九鬼「今、王都では未知の疫病が出始めておる」
アイナ「では、ソフィーナはそれに罹ったと?」
九鬼「ハッキリと確認できた訳では無いが、どうも魔人が保菌者の様じゃ」
ガイン「じゃ、じゃあ薬は?治療方法は?」
九鬼「現在、解熱剤ぐらじゃ・・・・・・」
ガイン「そんな・・・・じゃあソフィーナは」
九鬼「運次第じゃが・・・・・・かなり厳しい」
事実、翌朝にソフィーナは高熱を出した。
半日も経たずに熱は下がったが体力の消耗が酷く、こんな事を何度も繰り返しては
最後は衰弱死してしまうだろう。
九鬼「差し当たりは、解熱剤の材料であるフラックス草を集める事じゃ」
ガイン「分かった!直ぐに集めてくる!」
ガインやアイナ達明鏡止水は普段余り立ち入らない南東部に広がるセリア大森林の
最深部近くまで足を延ばして薬草の採取に奔走した。
この辺りの魔物はCクラス以上が当たり前、つまり普段薬草採取を主な収入にして
いる8級以下の新人や見習いにとっては、足を踏み入れれば即死しかねない魔境で
ありその為、薬草などは有り余る程生えていた。
北のシャルバインの森に向かった羽蝶蘭も同様だ。
そして今回最も変わったのが明鏡止水のアイナと羽蝶蘭のセーナだ。
アイナ「まだまだ入るわよ!」
リット「マジか!」
アイナ「それに劣化しないから採りすぎても大丈夫」
ユナ「良いなあ、今度私もねだってみようかな」
リット「絶対秘密なんだからな、迂闊に漏らす奴は貰えないぞ」
ユナ「分かってるよ、私だって口は堅いんだからね!」
リット「どうだか・・・・・」
アイナとセーナはオーティスから空間魔法を付与され、アイテムボックスが使える
様になっていた。
本来なら九鬼だけの筈だったのだが、何日もかかる採取場所と必要になるであろう
量鑑みて、虎の子の二つを付与する事にしたのだ。
リット「楽で助かるが、集めるのが間に合わないぞ」
アイナ「泣き言言わないの、ソフィーナの命が掛かってるんだから」
リット「わかってる」
アテオス領主の三女であるソフィーナは、今は明鏡止水の新メンバーである。
ガイン達が、自分では手も足出ない魔物を悠然と屠る様をみて、自らもその高見か
らの光景を見てみたい、横に並び立ちたい、と言う欲求を抑えきれなくなった。
ロイス「はぁ・・・・・・・・・・・仕方が無い、許可する」
母親のシリウスは直ぐに了承したが父親の方は難色を示した。
宝石や衣装と違って、仮にも貴族の若い娘がねだる物では無いからだが、反対する
なら貴族籍を捨てて家出するとまで言われては承諾するしか道は無かった。
ロイス「但し20歳までには領地に戻って来る事が条件だ」
こうして後は九鬼に加入を認めて貰うだけだと、意気揚々と王都に帰って来た途端
にこの惨状、ソフィーナには何が何でも助かって貰わなければ領主夫妻に顔向け出
来ないだけでなく、何より守れなかった自分が許せない。
ガイン「こんなにもどかしいとは思わなかった・・・・・・・」
剣で、力で解決できない事は明らかで、自分が無力な役立たずだと非難されている
ようで我慢出来ないのだ。
だが、日頃の行いと実績か、西地区のギルドもクランも王都では異常に評判が良く
活況な経済と治安の良さも相まって都民の流入が止まらない。
当然そこには各種の工房なども含まれる。
とりわけ薬師などは材料さえ有れば王都内の何処に工房を構えようと問題は無く、
簡単に持ち運べる薬は運送コストもかからない。
薬師「あんな貴族などの居る地区になど住めるか!」
特に高位貴族の屋敷が集中している北や東地区からの移動が激しく、その理由が
センフィールド伯爵の孫が起こした事件なのは間違いない。
つまり過剰なほど薬師が西地区に集まりつつあるのだ。
そして薬師が集まれば医者も集まってくる。
医療の中心が西地区に移ったと言っても良いだろう。
疫病が蔓延しだした今となっては非常に心強い。
一方、、平静で居られないのが上位貴族、それも特に北地区に居を構える者達で、
今、噂に聞く疫病に罹ってしまったらと、不安に駆られていた。
「我が侯爵家の専属にしてやると言ってるんだ!何が不満なんだ!」
中には権力を嵩に無理矢理囲い込もうとした貴族もいたが、全て拒絶された。
特に、第二王子の命で治療院の運用準備が西地区の平民街で始まると、動揺は更に
大きくなり、国王やバルケロア公爵に対して特効薬を要求する者まで出たが、両者
とも、病が発症してから渡すと言うだけだ。
これが公爵支持に回った高位貴族達に少なからず亀裂を生じさせた。
国に、国王に対しての忠誠心など、とうの昔にゴミ箱へ叩き込んだ高位貴族たちだ
が自分に災難が、不利益が降りかかるとなれば話は別だ。
大勢の貴族が表面上は公爵支持を掲げながらも、裏では密かに王子二人と接触を持
とうとし始めていた。
カール「呆れた手のひら返しだな」
ディラン「ええ、今更忠誠心の話を持ち出されても嫌悪感しか持てないですね」
カール「だがこれでこちらも動きやすくなった」
どの貴族が簡単に裏切るのか、その度合いを測る物差しになる。
いざ、国を二分する事になった場合、攻略や戦略の良い判断材料になるからだ。
ディラン「例え政権を取っても、彼らを重用する事など有り得ないんだけどね」
カール「まあ、期待するのは彼らの自由だからな、答える気は更々無くても」
ディラン「それにしても、やはり特効薬は欺瞞だったみたいですね、ルナンの報告
と一致します」
カール「九鬼殿の予想通り・・・・か」
ディラン「ええ」
これでますます治療院の存在が重要性を増す事になる。
何せ九鬼の、五稜郭の協力が得られると言う事は、西地区の冒険者ギルドの全面的
な支持が受けられると言う事だ。
恐らく解熱剤の供給が途絶える事は無いだろう。
カール「後は公爵の暴走だが・・・・」
ディラン「何となくですが、九鬼殿の予想と言うか、希望と言うか・・・・」
カール「ああ、彼の思い通りに事が運ぶ様な気がするぞ」
ディラン「まるで賢者のようですね」
カール「武王で賢者・・・・・誰が相手出来るんだ、そんなもん」
ディラン「まあ、聖者ぐらいじゃないですか」
カール「あはは、何処に居るんだよ、聖者なんて」
まさかその聖者の資質を持った司祭が孤児院を運営しながら九鬼の傍に居るなんて
誰が想像できただろう。
おまけに聖女までくっついて居る事など、思い付く筈が無い。
そして予想通りと言うかお約束と言うか、馬鹿の考える事は九鬼達の予想を大きく
上回る物だった。
「此処に居る事は分かってるんだ!今すぐフェーナを連れて来い!」
バルケロア公爵家の次男のクロックが孤児院の前で門番のアーヴィンに詰め寄って
いた。
それも、たった二人の護衛だけを連れてだ。




