華陰風都
「そもそもですが、御用件は?」
ディラン「・・・・・・・保護をお願いしたい」
「保護?まさか」
ディラン「ああ、妹のフェーナを頼みたい」
「第二王女様を?この孤児院で?ええっ」
ディラン「図々しい事も無理を言っている事も承知している、だが他に方法が、頼
れる所が無い、何とかお願いしたい」
「むうう、しかし此処は・・・・・・・」
フェーナ「贅沢も我儘も言いません!お手伝いだって頑張ります!」
「九鬼さん、どうしましょう」
九鬼「儂は構わん、と言うか受け入れを検討するべきじゃと思う」
「理由は?」
九鬼「王族が、それも王位継承権を持つ者が庇護を求める、つまり王城で異常
な事態、若しくは非常に厄介な事態が勃発したと見るべきじゃろう」
「それは・・・・・そうですね」
九鬼「問題次第では、こちらも無関係では居られん、で、何が有った?」
ディラン「・・・・・・・バルケロア公爵が王位に就く事になりそうだ」
九鬼「ほう」
「冗談じゃない!」
九鬼と違い長く王都で暮らしてきたオーティスは、公爵の碌でも無い性質を嫌と言
う程見聞きしてきたし、黒い噂も同様に掃いて捨てるほど聞いてきた。
実際に被害に会って泣き寝入りした者も知っている。
そして最も許せないのは、公爵のせいで両親を亡くした孤児がこの孤児院に数名居
る事だ。
九鬼「司祭殿・・・・」
「あの男のが国王になるのであれば、私は子供達を連れて国を出る!」
九鬼「それ程なのか」
ディラン「ええ、選民思想が服を着て歩いている様な男です」
フェーナ「一族全員が碌でも無いです」
九鬼「・・・・・・・・・・一応、伯父になるのではないのか?」
ディラン「祖母が違いますからね、殆んど他人ですよ、他人」
フェーナ「ほんの僅かでも血の繋がりが有ると思うと死にたくなります」
九鬼「・・・・・・・噂以上の様じゃな」
「第一王子は、カール様はどうしたんですか?」
ディラン「兄は僕の支持に回りました」
「では何故」
ディラン「父が・・・国王が公爵に譲位する親書を出しました」
「何て事だ、それでは」
ディラン「ええ、殆んどの貴族が我らの陣営から消えた今、公爵が王冠を頂くのを
止められません」
「あの男の治世など、私には到底受け入れられない、それに・・・・」
現在の孤児院の状況とクラン五稜郭の在り様は、バルケロア公爵から見れば極上の
晩餐にしか見えないだろう。
金を産みだす様々な商品。
十分な食事と清潔と教育が齎す、衣服は別としても貴族の子弟にも引けを取らない
美しさと聡明さを持つ孤児や冒険者。
間違いなく、悲惨な結果が待っているだろう。
九鬼「一応、確認するが人望は?」
「人望どころか、王都の人たちからは蛇蝎の如く嫌われています」
ディラン「同じ貴族でさえ好意的な者は少ないでしょう」
九鬼「なら話は単純じゃ、公爵には退場して貰えば良い」
「いや、幾ら何でも簡単には・・・・・」
ディラン「そんな、どこぞの舞台俳優を交代させるみたいに言われても」
九鬼「餌をぶら下げ挑発して、更に暴発させて誘き出せば良い」
「はあ?」
特に第二王女が特大の餌になる事は間違いない。
九鬼「力づくで来ればこっちのもんじゃ」
「それはそうでしょうが・・・・・・」
九鬼「但し、王位に就く前でなければならん」
些か物騒ではあるが、国王になる前なら不可能では無い。
九鬼「流石に国軍が相手では、こちらも無傷では済まんからのう」
負けるとは微塵も思っていない様に全員が呆れていたが、新たな問題をディランが
口にした。
ディラン「もう一つ問題が、国王が流行病の特効薬を持っているらしいのです」
「そんな馬鹿な!」
ディラン「ええ、私も半信半疑なのですが」
九鬼「答えは二つ、病を流行らしたのが国王か若しくは薬が偽物か、じゃ」
「九鬼さんの考えは?」
九鬼「十中八九特効薬では無いじゃろうな、新しい薬など簡単には出来ん」
薬の開発など科学の進んだ元の世界でも困難を極めるのに、遅れたこの世界で簡単
に開発出来るなど考え難い。
九鬼「恐らく解熱剤の類じゃと思うがな」
「つまり解熱剤を大量に確保していると?」
九鬼「それすら、欺瞞の可能性も有るが、調べれば分かるじゃろう」
ディラン「そうですね、調べてみます、ルナン、頼む」
ルナン「分かりました」
九鬼「問題は疫病が本物と言う事と特効薬が無いらしいと言う事じゃ」
リット「師匠、それと例の・・・・・」
あの夜、リットが取り逃がした人モドキが疫病の保菌者で尚且つ正体不明の殺人鬼
が、この人モドキだろうと言う事だ。
九鬼「あの人モドキ、まあ魔人とでも言おうか」
ディラン「魔人・・・・確かに・・・・」
九鬼「その魔人が病の媒介者かもしれんと言う事じゃ」
ディラン「・・・・・・・冗談・・・・では無いようですね」
九鬼「ああ、厄介極まりない」
ディラン「親書に魔人に流行病・・・・・」
九鬼「出所は一つ」
「つまり・・・・全部国王に繋がっている・・・・・と・・・・」
九鬼「国の中枢が元凶と言うことじゃろう」
「何て事だ・・・・・・・」
九鬼「混乱は免れんじゃろう、それに」
ディラン「ええ、意地でも王位を渡す訳には行きません」
九鬼「困難な道じゃぞ」
ディラン「覚悟はしてます、例え国を二つに割る事になっても・・・・・父を註す
る事になっても・・・・・」
フェーナ「兄上・・・・・・・」
九鬼「ならばこちらの協力せんとな、司祭殿もそれで宜しいか?」
「分かりました、しかし何をすれば?」
九鬼「まずは王都民を味方につける」
公爵が王位に就きそうな事、流行病の特効薬を上位貴族が独占している事、そして
殺人鬼はどうやら公爵の関係者らしいと言う事。
これらの噂をばらまき、民意という圧力をかければ、当然噂の出所を調べて潰しに
来るだろう。
王冠を頂く前では公爵も唯の一貴族に過ぎない。
ディラン「・・・・・・・・・つまり、わざと暴発させる」
九鬼「そうじゃ、直接手を出してくれればこっちの物、叩き潰せば良い」
「相変わらず過激ですね」
九鬼「この程度、いつもの事じゃ、それよりも病の方が問題じゃ」
こちらに関しては現状、打つ手がない。
だからといって何も対策を取らないのは馬鹿か自殺志願者のする事だ。
ディラン「現状は解熱剤の確保でしょうか・・・・・・・」
九鬼「うむ、それと病人や死体に直接触れぬ方が良い事を広めるべきじゃな」
「どういう事でしょう?」
九鬼「疫病は主に二つの伝染原因がある、接触感染と空気感染じゃ」
今回はインフルエンザの様な空気中に菌が飛散する物では無く、ペストやコレラの
様に体液や排泄物に触れた事で感染する可能性が高い。
九鬼「じゃが、簡単な事では無いぞ」
知識が無い大衆に衝撃的な情報を放り込めば、こちらの心意など無視して暴走する
事など、数限リ無く起こって来た。
我が身に降りかかる災難に恐怖するあまり、流言や迷信を免罪符にして病に罹った
者を家ごと焼き払う者が出てきても不思議では無い。
一度暴走し始めた無知蒙昧な民衆ほど危険で度し難い存在は無い。
ディラン「取り敢えず、感染に関する事は秘匿しておきます」
九鬼「その方が無難じゃな」
ディラン「あとは医療支援の為の施設を用意するとして」
「問題は薬ですが・・・・」
九鬼「取り敢えずは解熱剤の確保じゃな」
「確かにそれ以外は・・・・・・・」
九鬼「打つ手無しじゃ、まあ感染の速度が異様に遅いのだけは有り難いが」
実際に剣や基礎知識で解決出来ない、九鬼が最も不得手とする事案である。
医療に関する専門知識など持ち合わせてなどいないからだ。
それでも、この世界の住人よりは遥かに病に詳しいと来ているのだから御先真っ暗
なのだ。
そしてその暗雲は確実に孤児院にまで広がっていた。
ガイン「師匠、具合が悪そうなんです、診てもらえませんか?」
二日後の夜、ソフィーナを背負ったガインとアテオス領遠征組が帰ってきた。




