両跳黒魔・難癒病賽
広がり始めた疫病と正体不明の殺人鬼が東地区を闇に引きずり込み始めると、今ま
で事態を軽視していた貴族が騒ぎ始めた。
まず深夜の外出時に四男坊が殺されたローポート伯爵家が大騒ぎを始めた。
目的は犯人を捕縛し産まれて来た事を後悔する程の苦痛を与えて殺す為だ。
問題は犯人捕縛の実働部隊である筈の警邏隊が完全に崩壊している事、そしてその
責任者である貴族達が責任の擦り付け合いの真っ最中で有る事だ。
伯爵「何なのだ、この状況は!」
余りの情けなさに第一王子に報告しようとして自分がバルケロア公爵の傘下に入っ
た事を思い出した。
どの面を下げて面会するつもりなのかと。
かといって公爵に陳情した所で国政に何一つ関わっていない今、無駄でしか無い。
国王に至っては全く関与はしないだろう。
こんな事なら王子の陣営に留まっていれば良かったと思わなくも無いが、あの誓約
書を見てしまっては、その選択肢を取る訳には行かなかった。
伯爵「あんな誓約書さえ見なかったら・・・・・・・」
漠然とした不安は伯爵の脳裏に巣食ったままだった。
一方、その誓約書の写しを見た王子二人は愕然としていた。
ディラン「何だ・・・・・・これは」
カール「気でも狂ったのか、我が父は・・・・・・」
ルナン「私も最初、これは何だと・・・・・・」
ディラン「しかし・・・いつのまに」
キース「国王は誰とも面会しない・・・・筈じゃあ?」
カール「つまり自分から動いたという事か・・・・・」
四人の前に広げられた誓約書には、王位を王弟に譲る事と二人の王子を廃嫡を認め
る事、現在東地区で発生した流行病の特効薬の提供が書かれていた。
更に第二王女のフェーナと公爵の次男との婚約まで明記されていた。
カール「あのクズとの婚姻など俺が認めん!」
ディラン「フェーナも毛嫌いしてましたからね」
カール「キース!直ぐにフェーナにこの事を、こちらで保護するからと」
キース「はい」
公爵の次男のクロックは、女性を生処理の道具程度にしか思っていない加虐趣味の
変態で既に二度も結婚生活に失敗している。
それも妻の死という形でだ。
今は奴隷の女を調達する事で誤魔化してはいるが死亡する数が減った訳じゃ無い。
そんな男との縁談など、死ねと言っている様なものだ。
幸いまだ縁談を強要されてはいなかったが、一昨日に公爵の次男から面会の要望が
出されたらしい。
フェーナ「勿論、断ったわよ、気持ち悪い」
カール「呑気に構えてる場合か!父上が了承したとなれば最悪、拉致監禁でさえ
も有り得るんだぞ」
フェーナ「まっさかあ~・・・・・・・・・・・・マジ?ヤバッ!」
ディラン「真面目にだ!それと・・・・・何処でそんな言葉使いを覚えた?」
フェーナ「・・・・・黙秘する」
カール「どうせ城をぬけ出して下町にでも行ってたんだろう」
フェーナ「・・・・・・・・・・・てへ♡」
第二王女は現在19歳、兄妹の中で一番年の近いディランの真似をしたに過ぎない。
問題はこのお転婆だが、戦闘力が皆無の第2王女をどうするかだ。
カールにしろディランにしろ、もし紛争になったら、とてもでは無いがフェーナを
守り切れない。
自分達を守れるかも怪しいのだ。
ルナン「・・・・・・・・・・五稜郭」
ディラン「そうか・・・・その手が有ったか」
キース「しかし、王女様が下町の、それも孤児院の生活に耐えられるとは」
ルナン「それは・・・・・・」
キース「侍女や下男、ましてや料理人など同行出来んだろう」
ルナン「確かに・・・・・・」
カール「いや、フェーナは五稜郭に匿って貰う」
キース「カール様」
カール「今の王都で孤児院より安全な場所が他に有るか?」
呆れた話ではあるが、国王である父が相手となると王城こそが最も危険な場所だと
言っても良い。
かといって、領地持ち貴族とはフェーナを任せる程の親交は無い。
ディラン「それに流行病は東地区からだ、西に来るまで時間がかかる」
カール「身の安全が掛かってるんだ、不便ぐらいは我慢して貰う」
キース「ですが」
フェーナ「あら、私なら大丈夫よ、問題無いわ」
どうも普段から城を抜け出して遊んでいたらしい。
侍女の苦労が偲ばれる。
一方、ギルド西支部でも、新たな騒動が持ち上がろうとしていた。
デライド「で、うちに来たと?」
カート「はい、警邏隊に見切りをつけまして、なら冒険者になろうと」
フランツ「腕にはそれなりの自信が有ります、俺達は剣術スキルも持ってるんで」
デライド「そんな物はどうでも良い!」
カート「そんな物・・・・・・・・・・・・」
デライド「まず流行病の事を詳しく、残らず、洗いざらい、吐け!」
フランツ「ヒッ」
警邏隊員であれば、彼らしか知らない事も有る筈だ。
調べねばならないと思った矢先に、情報源という鴨が自分からネギを背負って飛び
込んで来たのだ。
当然、デライドは包丁と調味料を抱えて鍋の準備をする。
デライド「それは本当か!」
フランツ「あくまで私の考えですが・・・・・・」
デライド「死体を処理したスラムの連中が最初の犠牲者・・・・・・」
フランツ「はい」
デライド「その殺人鬼が疫病をばらまいていると?」
フランツ「ええそうです、それも弱った者から罹患しているようで・・・・・」
デライド「何てことだ・・・・・」
この話は直ぐ九鬼に届けられ、二人はもう一度同じ話をする羽目になった。
九鬼「では殺人鬼の姿は誰も見ていないんじゃな」
カート「はい、被害者以外は誰も・・・・・・・」
九鬼「噛み切られた様な傷と無くなった内臓・・・・・・・」
フランツ「それと、殆んど流血が有りませんでした」
リット「師匠・・・・・・・・・・・」
九鬼「・・・・・・・・奴・・・かも知れんな」
リット「俺もそう思います、奴なら誰にも見られずに行動できる」
九鬼「おまけに疫病の保菌者ときたか・・・・・・洒落にならん」
ライナー「どうします?狩りますか?」
九鬼「いや、流石に王都全域となると我々だけで探すのは無理じゃ」
リット「では警邏隊に協力を求めたらどうです?」
カート「あのう・・・東地区の警邏隊は今、崩壊中でして」
ライナー「呆れた・・・・・・」
フランツ「面目ない・・・・」
九鬼「仕方が無い、ディラン殿に協力して貰おう」
だが、連絡の為に出たリットが直ぐに戻って来た。
九鬼「どうした?」
リット「師匠に面会です・・・・本人が・・・・・」
九鬼「はあ?」
ライナー「本人って、第二王子か?」
リット「ああ、ルナンも一緒だ、それと女性が一人」
ライナー「訳が分からん、ここ、孤児院だぞ」
九鬼「考えても始まらん、まずは会おう、ライナー、司祭殿に報告を」
ライナー「分かりました」
九鬼「リット、ここにお連れしろ、失礼の無い様にな」
リット「はい」
失礼なのは、未だにボロ小屋を建て直さない九鬼なのではないかと思っては見たが
賢明なリットが口に出す事は無い、ガインと違って。
ディラン「突然の訪問、申し訳ない」
九鬼「構いませんわい、初めましてクラン代表の九鬼十三じゃ」
「司祭のオーティスです」
ディラン「アマルティア王国第二王子、ディラン・アマルティアだ」
フェーナ「同じく第二王女のフェーナ」
皆が襟を正した。
王族が近衛兵士の護衛も付けずに、こんな下町の外れに来るなど異常事態に間違い
無いのだから。




