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老獪若清・伏蛾潜蛇



ディラン「・・・・・・・・・どうなってるんだ」

 ルナン「分かりません、いきなりでしたから」


王位継承権第一位の兄から派閥ごと受け継いだ第二王子のディランだったが、それ

から丁度一か月後の今日、殆んどの侯爵や伯爵といった高位貴族ばかりが王弟の

バルケロア公爵支持をいきなり表明した。

正に晴天の霹靂だった。


 ルナン「まずはカール様にお会いしてはどうですか?」

ディラン「そうだな、兄上なら何かを知っているかもしれないな」

 ルナン「私は今から公爵の屋敷に忍び込んできます」

動きが何も掴めないなど情報収集が専門のルナンにとっては恥以外の何物でも無い

とてもでは無いが受け入れる事など出来ないのだ。


ルナン「では」


今回だけは、例え危険でも公爵邸の奥にまで潜るつもりでいた。

一方、ディランの訪問を受けたカールもこの事態が呑み込めずに困惑していた。


 カール「こっちも先程報告を受けたばかりだ」

ディラン「一体何が起きてるんでしょうか」

 カール「わからん、が、非常に不味い」

 キース「そうですね、これで公爵が次期国王の最有力に立った訳です」

 カール「そして我々は超少数派に転落したと、笑えないな」

ディラン「非常に拙いですね」


貴族の総数なら公爵が五割、ディランが二割、国王が三割だが、侯爵や伯爵・子爵

に限ると公爵八割ディランが零、国王が二割となる。

貴族のパワーバランスから言っても、バルケロア公爵が圧倒的に有利なのだ。


 カール「あの男が国王など、悪夢でしかないぞ」

 キース「何を呑気に!」

 カール「いや、気分が悪いなと・・・・・」

 キース「奴が国王になれば、邪魔な御二方の命を狙いに来ますよ」

ディラン「た、確かに冤罪ぐらいはでっち上げそうだ」

 カール「奴なら、やりかねないな」

 キース「流石に国軍が相手では勝ち目が有りませんからね」

 カール「最悪は国を出る事も考える必要があるかな」

ディラン「駄目です!そんな事をすれば王都民はどうなるのですか!」


選民思想、貴族第一主義、狡猾な人となり、彼の統治下では平民など奴隷か家畜等

ぐらいにしか扱われないだろう。

おまけに異常なスキル持ちと思われる妻や息子達迄もが性格破綻者予備軍である。

碌な事にならないどころか、悲惨な事になりかねない。


 カール「はあ、下手をすると内紛だよ」

ディラン「覚悟はしてます、ずっと以前から」

 カール「ふう・・・・・・・弟がこんなに好戦的だったとは知らなかったよ」

ディラン「戦いが好きでも得意でも無いです、でも王族の義務だから・・・・」

 カール「貴族の責任・・・・・・・か」


王族や貴族は、ただその地位に産まれついたと言うだけで、市民や領民から税金を

徴収し、頭を下げさせ、敬う事を強要する。

為ればこそ、彼らに対して安全な生活を提供する義務がある。

もしその義務を無視するのなら為政者など、山賊や海賊と大差はない。


ディラン「その為にも公爵、いや叔父上には舞台から降りて貰わないと」

 カール「ただ今は報告を待つしか無いな」

 キース「なら私は実家に探りを入れてみましょう」


その夜、公爵邸の執務室に忍び込んだルナンは一枚の誓約書の写しを見つけた。


ルナン「こ、これは・・・・・・・・・・・・・・」


とんでもない代物だったが、それだけに机の引き出しに無造作に置かれている事に

違和感を感じた。


(露見しても問題ない?いや、むしろ公けにしたがっている?)


自分が忍び込む事を想定している可能性が高い。

つまり侵入された事に気が付いているかもしれない。

そもそもこんなに簡単に侵入出来る事が不自然極まり無い。

言いようのない不安を感じたルナンは直ぐに逃げ出す事を選択したが、公爵邸を出

た途端に暗闇から異様な視線を感じて、懐の懐剣を抜いた。


(なんだ・・・・あれは・・・・・・人間の目じゃねえぞ)


二つの金色の眼がじっとルナンを見つめている。

背中を冷たい汗が一筋流れた。


(王都のど真ん中に魔獣?有り得ない)


高い外壁を国軍が監視管理している王都は建国以来、一度として魔獣の侵入を許し

た事が無い。

理解が出来ない存在に困惑するルナンに本能が告げる。

逃げろ・・・・・と。

だが危険な存在をこの王都に、ディランの足元に未知のまま放置する事は看過出来

無かった。

懐剣を抜くと右前に構え腰をおとして不意の襲撃に対応しようとした途端、黒い影

が揺れ、何かがルナンの横を通り過ぎた。


ルナン「痛っつ!」


一瞬ですれ違ったその異形な生き物はルナンの手から懐剣を奪い取っていた。

決して油断したわけでも余所見をした訳でも無い。

それでも動きを捉えられなかった。

もし攻撃を受ければルナンでは手も足も出ないだろう。


ルナン「拙い・・・な」


どうにも逃げ切れる気がしない。

傷を負う覚悟で相手の足を奪う算段を立てていたが相手はルナンの剣を咥えたまま

スルスルと闇の中に溶け込んでいった。


ルナン「何だ・・・・・あれは」


漠然とした恐怖と漫然とした不安が諜報員としてのルナンに警鐘を鳴らす。

このままディランの元に帰るのは危険であると。

自分が監視されている可能性とあの異形の者に追跡される可能性、この二つを引き

つれたままでは動きが取れない。

自分は監視下に置かれている可能性がある。

そしてルナンは考えた末、一直線に王都を西に走り抜け孤児院の門に飛び込んだ。


 九鬼「全く・・・・この夜更けに何を連れて来た」

ルナン「申し訳ありません!助けて下さい」


騒ぎを聞きつけ、リット達迄もが門の前に集まって来た。


リット「相手の人数は?」


現在、明鏡止水はリットとライナーの二人だけ、羽蝶蘭はアテオス領の指名依頼に

加わら無かったマチルダだけだ。

残りのユナ達女性陣はソフィーナに懇願されて彼女の姉達とお茶会に出席する為と

ソフィーナの引っ越しの準備で三日ほどアテオス領に滞在してから帰る予定になっ

ていた。

ついでだが、ガインだけは護衛と言う名の雑用係として残ることになった。

リットとライナーの二人はお茶会などはまっぴらとばかりに、さっさと王都に引き

上げてきたのだが、これには裏の事情があった。


 アイナ「あんた達はさっさと王都に帰りなさい」

 リット「悪いがそうさせて貰う」

ライナー「これじゃあ迂闊に町も歩けない」


魔獣討伐の噂はあっという間に領内を駆け巡った。

領民も領兵も逃げるしか出来ないような魔獣を涼しい顔して難なく討伐する冒険者

は若い女性にとって途轍もない優良物件に映っていた。

更に追い打ちを掛ける様に、その中の一人がソフィーナの婿候補だという情報が洩

れてしまった為にリットとライナーに女性が群がった。


「二人だけで食事に行きませんか」

「綺麗な湖が在るんです、遊びに行きましょうよ」

「私、胸には自信が有るんです、見てみません?」

「これ、私の部屋の鍵です」

「抱いて」


辟易して早々に退散する事にしたのだ。

ちなみにだが、ユナ達女性陣に声を掛ける様な剛の者は居なかった。

猛獣が自分の伴侶・・・・・・無理だった。

話が逸れたが以上の理由で現在のクランの人数は少ない。

リットが気にしたのは相手の数だ。

余りに大人数だと、抜けられる可能性が有るからだ。


ルナン「多くても3~4人だと思いますが、厄介なのが一人?」

 九鬼「ふむ・・・・向こうの角でこっちを伺っておるのが二人、そして・・・

    おかしなのが一匹、あの木の上に居るな」

リット「厄介?おかしなの?」

 九鬼「人でもあり獣でもある、そんな気配じゃな、言うなれば獣人・・かのう」

リット「それって一人?それとも一匹?」

ルナン「それは何とも・・・・・・」


全員が困惑している中、騒ぎを聞きつけてマチルダの護衛でオーティス迄が出て来

たが、その姿を見た途端にその獣人らしき者の気配が膨れ上がった。


  九鬼「全員抜刀!」

 リット「はい!」

  九鬼「ライナーは司祭殿の前で盾を構えい」」

ライナー「了解!」

  九鬼「マチルダはそのまま護衛を、アーヴィンは指示するまでも無いか」


門の傍にいたアーヴィンは既に教会の、謂わば孤児院の扉の前で剣を構えていた。

死んでも此処は通さない、そんな決意の見える構えだ。

リットやユナ達の強さを知り、オーティスの護衛をマチルダが専属で務める様にな

るとアーヴィンの保護対象は必然的に孤児達になった。

その様は、揺り籠の前で周りを警戒するドーベルマンその物。

間違っても子供達に、牙が届く事は無いだろう。

安心して九鬼達は注意を一気にその獣人に向けた。


リット「来い!」


黒い影が動くと同時にリットが先行して切り掛かったが、剣が届く寸前に体を捻っ

て後退した。

切り取れたのは右腕の僅かな体毛だけだ。


リット「速い・・・・・な」


正面からぶつかれば倒せない事も無いが、回避に専念されると厄介だと思った。

一方、この獣人モドキは邪魔に入ったリットを一蹴するつもりが、対峙した途端に

危険な気配を察知して後方に跳んだのだ。

目の前にオーティスが居るにも関わらず、到底手が届かない事に激怒した。


『グガアァァァッ』


どうにも出来ない、唸り声をあげるしか出来ない、黒い影は恨みの籠った視線だけ

を残して後退して行った。

だが、言い換えればリットクラスでないと、対処出来ないと言う事でもある。

いったい、この王都に何人そんな人間が居るというのか。

王都を覆う暗雲は、その厚みを更に増していた。




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