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疫霧潜都・臥獣跳魔



東地区のスラム街から広がり始めた未知の流行病は、ゆっくりと、だが確実に王都

をその手中に収めるべく蠢いていた。


衛兵「病が東のスラムで発生しました、伝染病の疑いが有ります」


報告を受けた王宮の下級貴族の官吏は報告書の束を机の上に放り投げた。


官吏「貴族街の被害は聞いていませんが?」

衛兵「今の所スラムと平民街の一部だけです」

官吏「はあ・・・・なら町医者にでも相談しなさい」

衛兵「伝染病かもしれないですし、死人も出ていますが」

官吏「それが何か?」


だが、官吏の男は貴族街に関係が無いと報告を受け取らなかった。

金にもならない面倒事などに関わるつもりは一切無いのだ。


衛兵「まあ報告しましたからね、義務は果たしました」

官吏「ああ、そうですか、ご苦労さん」


部屋を出て行く衛兵の背中を見ながら、官吏はポツリと呟いた。


官吏「そもそも私の主な役目は徴税だ、病気の事など知らん」


報告した衛兵も受けた官吏も自分以外の者がどうなろうと気にしない。

他人の生死など、銅貨一枚の価値も無いと思っている。

当然自分達が王都混乱の分岐点に居る事など、露ほども思っていなかった。

そしてやはり最初に病に喰われたのは、東地区のスラムだった。

だが、この異常事態に対して肝心の警邏隊は機能不全の真っ最中だった。


フランツ「上の連中は何て言ってるんです?」

 カート「ダマハの責任を巡って揉めてるよ」

フランツ「そんなこと言っても、死んじまったもんは仕方ないじゃないですか」

 カート「何せ回収する資産が無いからな、どうも子爵家の責任にしたいらしい」

フランツ「分籍してるんでしょ、無理じゃないですか?」

 カート「金額がデカすぎるんだよ」


ダマハが使い込んだ金額は軽く家一軒分以上になる。

それも懸賞金だから、懸けた大店や市民が黙っていない。

うやむやにするには無理が有った。


フランツ「それに気になる事が一つ有るんですけど」

 カート「・・・・・嫌な予感しかしないんだが」

フランツ「感が鋭いですね」

 カート「はぁ・・・・・・・・・・・話してみろ」

フランツ「最初に病に罹ったのは、例の殺された死体を埋葬した連中です」

 カート「・・・・・・マジか」

フランツ「次が大怪我や重い病気を患っていた者達みたいです」

 カート「根拠は?どうして気が付いた?」

フランツ「さっき、死人の名簿を見て気が付きました」

 カート「謎の殺人犯と流行病が関係している・・・・・最悪だ」

フランツ「どうすりゃ良いと思います?」

 カート「薬と食料の確保・・・それと・・・・・・辞める準備だ」


上層部が責任の押し付け合いをしている間にも殺人犯は跋扈し病は広がり続ける。


フランツ「そうですね、一介の警邏隊員には荷が重すぎます」

 カート「給金も出るか分からんしな」

フランツ「そんな!嘘でしょ!ああ、結婚資金が・・・・・」


既に支払日は過ぎて三日も経っているが、未だに予算さえ出る様子が無い。

元々カートは警邏隊と言うよりも、王都の貴族連中と王室自体に見切りを付けよう

と思っていたが、踏ん切りがつかなかったのだ。

妻と幼い子供を抱えていては慎重にならざる得ない。


フランツ「しかし辞めてどうします?」

 カート「冒険者しか無いだろう」

フランツ「しかしここのギルドは・・・・・」

 カート「悪党と守銭奴の居るギルドになんかに入る訳があるか、西だ西」


東地区のギルドマスターであるクラッドは黒い噂が絶えない男で麻薬や違法奴隷等

に関わっていると言われているが、いつも証拠不十分で罪に問われていない。

どう考えても高位貴族と繋がっている。

そして副ギルドマスターのラディは自他共に認める守銭奴で金の為ならどんな非道

でも平気で行った。

だいたいラディ自身が個人的な物だと称して異常な金利の金貸しをしているのだか

ら呆れた話だ。

その日から警邏隊では除隊者が続出し組織は消滅したが、同時に治安も急速に下降

し始めた。

これを歓迎したのは冒険者ギルド東支部だ。


 ラディ「警邏隊が瓦解したようです」

クラッド「ほう、意外と早かったな」

 ラディ「ダマハの馬鹿がとどめになったのでしょう」

クラッド「警邏隊では害虫でも俺らにとっては幸運の女神だったな」

 ラディ「いつから女神は豚になったのやら」

クラッド「ガハハ、確かに豚なら食材か」


これで気楽に非合法な稼ぎが出来ると。

だが、予想に反して彼らの春は三ヶ月と続かなかった。

正体不明の殺人鬼が犠牲者を積み上げるのに比例して病魔は猛威を振るい始めた。

元々、栄養事情が悪く限界ギリギリだったスラムの住人が、怪我や病気で体力の落

ちていた病人が犠牲になった。

怪我が絶えない冒険者の感染率などは、既に無視出来ない物にんっていた。

高熱が体力を奪い限界が来れば命の火が消えた。

中にはアランの様に一ヶ月近く粘る者も居たが死からは逃げられなかった。


薬師「全く新しい病気で薬が無いんだ、無理言わないでくれ」

薬師「お渡し出来るのは解熱剤くらいで・・・・・・」


それでも薬師ギルドに押し掛けた東地区の住民達は藁にも縋る思いで解熱剤を購入

していった。

だが、そうなれば当然解熱剤の原料であるフラックス草の採取依頼が王都中のギル

ドに出される事になる。

現在こういった低ランクの依頼の殆んどをこなしている西支部が異常性に気が付か

無い訳が無い。

あっという間にオーティスと九鬼の耳にも届いてきた。


デライド「と言う訳なんですが」

    「流行病ですか、厄介ですね」

  九鬼「伝染病だとすれば、厄介処の騒ぎでは無いぞ」


例え今は東地区だけであっても、いずれは王都中に広がる可能性が高い。

そもそも未知の疫病など医療の発達した日本でさえ甚大な被害が予想されるのに、

幾ら魔法が有るとはいえ、下手をすれば国が亡ぶ可能性さえある。

回復魔法もポーションも病には効果が無い。

軽く捉えられる問題では無いのだ。


  「どうしたら良いですか?助言を下さい」

九鬼「感染経路が解らん以上、とにかく清潔にする事ぐらいしか方法が無い」

  「十分綺麗にしているつもりですが・・・・・」

九鬼「駄目じゃな、せめて孤児院から出入りする度に手洗いは徹底させる」


空気感染か接触感染か、それさえハッキリしないのだから打つ手が少ない。

もし空気感染だった場合はお手上げだ。

何せマスクに使える不織布など無い。


九鬼「デライドはもう少し詳しい情報を調べてくれ」


とにかく、ただ疫病らしいと言う事以外は何も分からないのではどうにもならない。


デライド「分かった、それと解熱剤はどうする?」

  九鬼「フラックス草の納品と引き換えに、幾分か確保すればいい」

デライド「ふむ、わかった」

  九鬼「ああ、それと貴族や大店が買い占める事をさせない様に」

デライド「任せてくれ、薬師ギルドには釘を刺しておく」


薬師ギルドも薬草の大半を収めている西支部の意向は無視出来ない。

もし供給を止められでもしたら死活問題、恐らく多少の例外は有っても、大筋では

要求が通るだろう。

貴族のゴリ押しは無理としても少なくても買占めや転売は防げるだろう。


九鬼「まずい事になるかもしれん」


王都は確実に混乱の深淵に向かって転がり始めていた。





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