病魔蠢動
アラン「ううう・・・・・くそおぉ・・・・・・・・」
現在アラン達黒狼のパーティーは東地区の安宿に腰を落ち着けている。
ガルシア「熱が有るんだ、大人しく寝ていろ」
アラン「うう・・・・・何であんな所にデスアントの・・・・巣があるんだよ」
フリスト「知るかよ、突っ込んだお前が悪いんだろ」
アラン「何だと・・・・てめえ」
ガルシア「やめろ、喧嘩なんぞしてる場合か」
西地区から逃げ出した黒狼のパーティーは、この東地区のギルドに籍を移して活動
を始めたが、とても順調とは言い難かった。
弱者から不当に金銭を巻き上げてきた彼らは、その甘い生き方に慣れ過ぎて簡単に
は、生活を改める事が出来なかった。
トーテス「そもそもあんた達が、贅沢しすぎたのが問題だろう」
フリスト「てめえだって反対しなかったじゃねえか」
トーテス「あんなに馬鹿高い酒だとは思わなかったんだ、それを何本も」
なまじまだ懐に余裕が有った彼らは東地区に移った当初九鬼に叩きのめされた鬱憤
も相まって、憂さ晴らしにとかなりの散財をしていた。
高級な宿に泊まり上等の食事を注文、陽が暮れれば娼婦を買った。
自らが血や汗を流して稼いだ金なら、こんな馬鹿な使い方はしなかっただろう。
だが、そんな散財がいつまでも続く訳が無い。
数ヶ月も持たず資金は底をついた。
「あんた達みたいな幹部につきあうのはもう御免だ」
「そもそも何で俺達の稼いだ金を渡さなきゃならないんだ!」
「俺達はパーティーから抜けさせて貰う」
今まで貯め込んだ金で自分達は宿で自堕落に過ごすくせに、他の一般メンバーには
銅貨一枚も渡さなかった。
なのに宿代が払えないからと彼らの稼ぎを徴収しようとしたのだ。
駆け出しの新米冒険者なら暴力で抑え込む事も出来ただろうが、メンバー同士では
それ程隔絶した実力差は無い。
おまけに幹部はリーダーのアランを含めて四名、一般メンバーは倍の八人。
さすがに分が悪い。
唯々諾々と脱退を容認するしかなかった。
そうなれば、さらに自業自得ながら金欠という落石が彼らを襲う。
「お支払いが出来ないのであれば、これ以上の宿泊は御遠慮願います」
高級宿は追い出され、安宿に移る羽目に陥った。
しかし、金欠だろうが何だろうが、生きていれば腹も減る。
稼がなければ生きては行けない。
久々に魔獣狩に出かける事にしたのだが西のカリフの森やディスカの森では九鬼や
リット達に遭遇する可能性が有る。
しぶしぶ不慣れな東のベンディッシュの森に向かったのだが弛んだ体に碌な手入れ
もしていない剣。
そして、とっくの昔に鈍くなった冒険者としての勘。
案の定、むやみに獲物を追いかけデスアントの巣に飛び込んだ。
単体ならランクE2でゴブリンと大して変わらないが、直接巣を攻撃されれば狂乱
状態となり集団で襲って来る。
如何にウサギ程の大きさだとしても百匹以上のデスアントが相手だと危険度はD3
並に跳ね上がる。
アラン「ぐあああっ!痛っ!くそ虫が!」
足を噛まれ身動き出来なくなったアランをガルシア達が何とか救出した時には既
に自分では歩けない程の傷を負っていた。
アラン「いてえ・・・・・おい・・・ポーションをくれ」
トーテス「そんなもんとっくに酒代に替わっちまいましたよ」
アラン「くそっ」
ガルシア「とにかく町まで戻って薬屋を探そう」
フリスト「それまで我慢しろ、アラン」
アラン「ちくしょう、つてねえ・・・・・」
ガルシアに肩を貸して貰いながら痛む足を引きずって何とか町までたどり着いたが
アランの地獄はここからが本番だった。
足の傷はなかなか塞がらず数日で何とか血は止まったが、それから高熱を出しては
数日うなされ、その後落ち着くという事を何度も繰り返すようになっていた。
フリスト「アランの具合はどうだ?」
ガルシア「かなりまずい」
フリスト「薬は?」
ガルシア「全く効果が無い、発熱がだんだん酷くなってきている」
最初は微熱が一晩続き翌朝には回復していたのが、今では高熱が三日も四日も続き
一旦回復しても又高熱で寝込むようになった。
最近は発熱で体力が削られるのか衰弱が酷くなり、今の状態では魔物相手に剣を振
る事など出来ないだろう。
実質的には冒険者稼業を引退しているのと変わらない。
トーテス「そのことなんだが、スラムで死人が増えているらしい」
フリスト「それが?」
トーテス「みんなアランと同じ症状なんだ」
ガルシア「まさか、伝染病か!」
トーテス「声がでけえよ!」
ガルシア「す、すまん」
フリスト「だが、もしそうだとすれば非常に不味い事になるぞ」
東地区では新参者のトーテスの耳に入るようなら、地区の住民達は既に知っている
可能性が高い。
このままでは宿を追い出されるだけでなく、伝染病患者の身内だとギルドを始め、
ありとあらゆる商店などから拒絶されかねない。
下手をすると隔離されるか殺される可能性さえ有る。
瀕死の重傷でもポーションや回復魔法で完治する事も可能だが、病気だけは薬以外
に治療手段が無い。
王族でさえ重篤な病は諦めることもある、その最たるものが伝染病なのだ。
過去、小さな村で住民全てが全滅した例もあった。
ガルシア「どうしたものか・・・・・」
フリスト「移動するしか無いだろう、ただし西と南以外に」
ガルシア「そうなると北か中央か、どちらも厳しいぞ」
中央ギルドは貴族の干渉が激しく、北支部は暗殺など非合法な依頼専門だと、黒い
噂が絶えない。
トーテス「なあ、いっそ他の領に行かないか?たとえばルデマニアとか」
地方領には冒険者ギルドは無いが、魔獣の討伐や薬草の採取などは領主が依頼を
出してギルドの代わりをしている。
ランク制度などは無いが、若者の雇用創出と資源の確保で仕事自体は王都と変わ
らないほど豊富だ。
フリスト「良い考えだがアランはどうする?流石にルデマニアは遠いぞ」
ガルシア「王都内なら荷車を使えば何とかなるんだが・・・・・」
トーテス「・・・・・・・・置いて行けばいい」
ガルシア「馬鹿を言うな、見捨てろというのか」
トーテス「共倒れは・・・・・・・御免だ」
フリスト「俺もその案に賛成だ、他に道は無え」
ガルシア「しかし、仮にもクランのトップだぞ」
トーテス「ならトップらしい事を何かしたか?威張り散らす事以外で」
フリスト「・・・・・・無えな」
ガルシア「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
彼らはアランを切り捨てる事に決めると、その夜の内に密かに宿を抜け出すと朝一
に南門を抜け、街道をひたすら南下していった。
一方、残されたアランは結局一度も意識が戻る事無く翌々日には息を引き取った。
弱者から奪うばかりのアランの人生は、誰からも惜しまれず、看取られる事も無く
道端の雑草が踏みつぶされる様にこの世から消え失せた。
だが全く無価値なアランの死は、新しい災厄の苗床となった。
未知の疫病の発生源の一つとして。




