模擬戦、決着
「はあああああ!」
腹部へのダメージをものともせず、村雨は鏡矢へと向かってくる。
淡い光を伴った腕や足が、獲物を捉えんと乱れるように振るわれる。
(これがただの素手なら、受け流してすぐに攻撃に転じられるんだが)
剣刀性質で剣や刀と同じ力を付与された腕や足を受け流すのは容易ではない。刃物を素手で受け流そうとすれば、その刃が体に切り傷を作る。
攻撃を無駄なく交わしながら、決定打の機会を鏡矢は窺がっていた。しかし、手数の多さと洗練された動きに中々隙を見出せないでいる。
入学して何度か能力者と模擬戦を行った事はあるが、これほどの使い手はいなかった。殆どの生徒が能力自体に頼り切っていたため、接近戦になった際に何も出来ずに敗北していたのである。
だが、村雨は違う。体の動き、剣の扱い方を理解しているがゆえに、剣刀性質という能力が余す事なく発揮されていた。
「ははっ! 強え奴と戦うってのはやっぱり楽しいな! 体の底から力が湧いてくるぜ!」
「!」
攻撃の速度が跳ね上がる。先程までは余裕をもって交わせていた攻撃が頬を掠めた。
(……様子をいつまでも見ているわけにはいかないか)
模擬戦には気乗りしていなかった。しかし、相手がこれだけの使い手なら、力を温存しておくのは失礼な事な気がした。
それに、鏡矢だって負ける事が好きなわけではない。
鏡矢は短く息を吐き、村雨の手刀を後ろにバック宙返りで交わす。
数メートル離れた距離に着地しようとしている鏡矢から村雨は目を離さなかった。すぐにでもまた攻めて、あの超人に一撃入れてやると、そう考えていた。
だが、村雨は結果として鏡矢を視線からはずす事になる。
地面に着地した鏡矢は、その直後に姿を消したのである。
「!?」
信じられない事が目の前で起こり、村雨は驚愕する。
そして、目にも止まらぬ速さで移動した鏡矢は、硬直する村雨の背後を取っていた。
トン、と首に手が振るわれる。首に衝撃を受けた村雨は何も言わず、ゆっくりと膝をついて地面に倒れこんだ。
エリア中央には大きく『高天原鏡矢、WIN』の文字が表示される。
今の戦いを見ていた学生達は高天原の見せた動きを見て、ざわざわと話をし始める。
「おい、なんだよあの動きは!」「あいつってSCGに引き抜かれた高天原だったのか!?」「ふん、どうせ能力で身体能力を高めたんだろ」「それでもあれは十分すげえぜ」
そんな生徒達の前を気絶した村雨を抱えながら鏡矢は歩く。
(周りに俺の能力を勝手に解釈してもらえるのは正直助かる。模擬戦の申し出を受けて正解だったかもしれないな)
安らかな顔をして眠っている元対戦者に、鏡矢は自然と微笑を浮かべていた。
◇ ◇ ◇
「あ~、悔しい~! 強えのは分かってたけど、それでも負けるのは悔しいぜ!」
保健室に運ぶ前に村雨が目覚めたため、現在は敷地内に設けられたベンチに鏡矢と村雨の二人は腰を下ろしていた。
「村雨は十分強かったよ。俺が戦った中では間違いなく上位に位置づけされる強さだった」
「へん! 褒めてもらわなくたって結構だ。結局、勝てなきゃ意味なんてないんだからな!」
「……ふふっ」
子供のように拗ねる村雨を見て、思わず鏡矢は笑ってしまう。
「あ! 今笑っただろ! 子供っぽいとか思ったんだろ絶対!」
「すごいな。読心術でも身につけているのか?」
「そんなもんなくても大体分かるんだよ!」
そう言って村雨は鏡矢の頭を軽く叩く。
「いや、悪い悪い。久々に楽しかったから、つい笑ってしまった」
「まあいい。次戦う時はさっきみたいにはいかないからな!」
「はいはい」
彩華学園の敷地内を夕日の紅色が染める。
ベンチに座り、楽しそうに(傍らの人物はムキになって)話しているその二人は、傍からすれば仲の良い友人のように見えた。