第34話 ALICE FOODS①
翌日。数えきれないマスコミが張り込みまくる研究所に一台の高級車が入ってきた。その高級車が駐車場に止まり、ALICE FOODS社長の赤木晶が降りてきた。高級スーツを着こなしキャリアウーマンという存在を体現するような容姿の赤木晶。見た目は腰くらいまであるウェーブのかかった長髪で20代後半くらいの見た目だが実年齢は43である。晶は20代前半程度の女性と40代くらいの男性一人ずつ引き連れて車から降りて研究所に入っていった。案内の者に挨拶し付いていく。
「凄いマスコミの数ね」
「社長も有名ですから~♪」
「プリシラさんは時の人ですからね。昨日の寄付と事件でさらに注目を浴びてますからね」
「私の騒ぎなんて小さいものだったわね」
「総合的に見ると良い勝負かと!」
三人は話していると応接室につき部屋に入るとすでにソファーに座ったプリシラと後ろに立っている遥、それと折笠がいた。
遥は三人が入室するなり頭を下げて謝罪した。
「申し訳ございませんでした!」
「え?」
「…一条さん。不意打ちすぎるわよ」
唖然とする晶とツッコミを入れる折笠。折笠がとりあえず座ってもらうように促した。
テーブルを挟んで対面するソファーにはプリシラと赤木アキラが座り、互いに後ろに二人が立っている。
「先ほどは突然すいませんでした。私は彼女の世話役をしています陸上自衛隊ダンジョン科所属の一条遥です」
「彼女の担当医をしています折笠恵です」
「………プリミエール王国第二王女改め、探索者のプリシラ・プリミエール」
「初めまして、ALICE FOODS社長の赤木晶です。こちらは秘書の上野と営業部長の橋本です」
「秘書の上野樹里です。よろしくお願いします!」
「営業部長をしております橋本賢太です」
自己紹介が終わりさっそく本題に入る赤木晶。
「さっそくですが昨日の件を話しましょう」
「その……申し訳ございませんでした」
「………ごめんなさい」
「申し訳ございません」
遥が謝ったのを皮切りにプリシラと折笠も頭を下げて謝罪した。
「ああ別にいいんですよ。些細なことですから頭を上げてください」
「社長……さすがに些細なことでは………」
「些細なことよ? 人が死んでいるわけではないもの」
「…そうですか。失礼しました」
橋本がツッコミを入れるが跳ね返されてしまった。
「お聞きになられたように気にしておりません。というより、弊社の目的もわかっておられるのでしょう?」
「……プリシラにもそれは話してあります。契約ですよね? プリシラも内容はなんとなくわかっているようです」
「わかりました。我々は探索者のプリシラさんと専属契約を交わしたいと思っております。あなたの生活をすべてサポートさせていただきます。住む場所、食事、探索者に必要な諸々すべてです」
「………私に求めるものは?」
「CMに出演していただくくらいでしょうか。プリシラさんの自由を奪うつもりはございません。むしろ自由に行動していただいて結構です。ああ、店舗を壊したり誰かと騒ぎを起こしたりはやめていただきたいですね」
ニッコリと笑いながら冗談を飛ばす晶。嫌味とも取れるような内容に対して無表情で返すプリシラ。だがプリシラにとっては嫌味などどうでもよかった。
「………しーえむ?」
CMが何かわからず首を傾げていた。
「……現代人には説明しやすいのですがね。一条さん。プリシラさんは別の世界から来たと政府が発表していましたが、地球で言うところのどのくらいの時代かなどはわかりますか? 過去か未来かなどがわかれば…」
「一般的な交通手段が馬車ということはわかってますね。プリシラ。テレビで少し見たでしょ? 画面が変わった時に商品を紹介してたあれよ」
「………ああ…あれ」
「思い出せてる?」
「我々が売っている食べ物をプリシラさんに美味しいと触れ回ってもらうことです。CMという手法で我々が触れ回ることになりますのでプリシラさんは少しの時間を我々に下されば結構ですよ」
なんとなく思い出したプリシラ。社会勉強の一環として見ているテレビで内容が切り替わるのが何か聞いた時のことを思い出していた。それが15秒間隔で変わるCMだったのだ。
「………求めるのはそれだけ?」
「そうですね。あとはダンジョンから持ち帰ってきた素材を買い取り、もしくは譲っていただきたいですね。たまにダンジョンの素材を取って来るなどの依頼を受けて頂ければと思います」
「………纏めると”迷惑をかけない”と”CMに出る”と”素材の買取”と”特定素材の入手”になる」
「そうなりますね。契約書もご用意しております。そちらもお読みください。樹里。出してちょうだい」
「は~い♪」
秘書の樹里が鞄から一枚の契約書を取り出しプリシラに前に置いた。プリシラが手に取り読み始めた。その間に晶は遥に確認することがあったため話だす。
「お読みいただいている間に一条さんにお聞きしたいのですが、プリシラさんは今後もここに住むのですか?」
「いえ、先々はここを出ることになっています。社会勉強をしている間はここにいます」
「なるほど、お住まいもこちらでご用意いたしますよ。ちなみに一条さんはプリシラさんとずっと一緒におられるということで良いのですか?」
「そう…なると思います。正直なところ、私は国からの監視の意味も含まれてますので」
一切自分の立場を隠さずに答える遥に晶は驚きはしたが予想通りではあった。
「では先々も一緒に住まわれるということですね」
「多分そうなるんじゃないかなと思います」
プリシラが読んでいる間に一条に質問して場を繋いでいると、読み終わったのかプリシラが顔を上げていた。いささか短いことが遥と折笠は気になったがプリシラに任せることにした。
「いかがでしたでしょうか?」
「………怪しすぎて判断に悩む。遥たちも読むといい」
「え? 私たちも読んでいいの?」
「構いませんよ」
遥はプリシラから契約書を渡されたので読んでいく。横から折笠も契約書を覗き込んでいる。読んでいる二人の顔は徐々に困惑の色が濃くなっていった。
「あの………何かの冗談ですよね?」
「いいえ。正気ですよ。そのくらいでなければフェアでないでしょう」
笑顔で答える晶に二人は苦笑いだ。というのも普通の契約書とは明らかに違う内容だったのだ。まるで小学生が考えたような内容で短い契約書。言い方を変えれば簡潔にわかりやすく書かれているとも取れる。だが穴がありすぎる契約書の上にプリシラに有利すぎる契約書だった。
内容は先ほどプリシラが纏めた内容にいくつか加えたような内容である。
迷惑をかけない
CMに出る
素材の買取と特定の素材の入手
ALICE FOODSからの依頼を断ることができる
ALICE FOODSに対し契約内容の改善を要求できる。要求し改善されなかった場合契約を破棄できる
等とふざけた内容でどれもこれもが具体性がない。他には衣食住のサポートや受付窓口になる等書かれていたのだった。




