第19話 やっちゃったNE★
輸送ヘリから飛び降りたプリシラ。飛行魔法で真っ直ぐ飛んでいく。
(遥の言ってたデンセンってあれかな~? 黒い線あるね~)
(きっとそう。気にするほどじゃなさそう)
(一応注意だね。お! 戦ってる人たちも見えたけどどうする~?)
(サンダーレインで一掃)
(魔力は装備の貯蓄分いっぱいだけど節約するんだよ~。プリはいつも大雑把なんだから。さっき結界で無駄遣いしたんだからね!)
(………頑張る)
前線で戦っている者達を見つけ速度を上げた。
◇
最前線でスタンピードによって溢れ出した魔物と戦っている者たちはBランクダンジョンの魔物たちに苦戦していた。
「後退しながら戦え! 倒そうとするな! 足止めでいい!」
「数が増える一方だぞ!」
「もうすぐ援軍が来る! それまで耐えろ! 後方部隊! 魔法撃てー!」
自衛隊員と探索者たちの合同部隊が前線で足止めをしている。タンク職で足止めし近距離アタッカーと遠距離アタッカーが交互に魔物を攻撃しているがリザード系の魔物の猛攻に押されていた。さらに後ろからも続々と増えるためアタッカーによる殲滅が間に合っていなかった。魔法職の者たちも無限に魔法を撃てるわけではない。もうMPが枯渇しそうな者も数多くいた。近距離アタッカーたちはすでに殺されてしまったり負傷した者ばかりだった。
さらに治癒ポーションなども底をつきそうだった。大半の者が覚悟を決めて戦っていた。
そこへ大規模な雷魔法が空から魔物たちを襲った。
多くの魔物たちがその魔法で倒されたのか光の粒子になって消えていった。
「なんだ……今のは」「あんな雷魔法あるのか?」「助かった」「危ない」「援軍が来たのか?」
多くの者が困惑と安堵を感じていた。誰の魔法であろうとも助かったことには変わりはない。
自衛隊員と探索者の少し前、魔物が粒子になって消えた場所に一人の耳が尖った少女が降り立った。その少女のことはそこにいる者の誰もが知っていた。そして誰もがその実力を知っていた。
援軍かと期待する者もいれば、畏怖する者、歓喜する者等反応は十人十色だった。
どこかたたずまいに優雅さを感じさせる少女は戦っていた者たちを見渡し左手を少し上げて魔力を集中させて魔法を発動した。
「………エリアハイヒール」
魔力が集中したことに警戒する者もいた。しかし、予想とは裏腹に治癒魔法だった。しかも知識でしか知らない世界最高峰の治癒魔法を使った少女に皆が驚いた。
驚いている間に少女は振り返り猛スピードで走り去っていった。
「……援軍は、彼女だったのか」
現場を指揮していた自衛隊員が呟くと空からヘリの音が近づいてきたのだった。
◇
「ピアッシングレイ」
最前線で戦っていた者たちを助けた後、予定通りに道なりに進み魔物と戦闘を繰り広げるプリシラ。
スタンピードで溢れ出たリザード系の魔物が大群でいるためスキルを多用している。今使っているピアッシングレイは『聖拳王』の聖拳術スキルの一つだ。
聖力を使って強力な光のビームのようなものを飛ばす。命中し貫通する際にビームは分散し多方向に進む。それを貫通出来なくなるまで繰り返すスキルだ。魔物によって回数は前後するが多数を相手にする際には有効なスキルだ。地球の『聖拳王』が使えば貫通するのは精々二回か三回がいいところだ。
だが、プリシラの場合は五回か六回にまで回数が跳ね上がる。理由は単純に技量と聖力の差だ。プリシラの生まれ持って高い聖力あってこそだ。そしてプリシラは1対多を数多く経験しているため使った回数も多く非常に技量が高い。プリシラが使うことで凶悪なスキルとなっていた。
しかしデメリットもあった。敵味方関係なく分散するため制御が出来ない。これはプリシラですら制御できていない。分散し進む方向は完全にランダムだった。
リザード系の魔物を殴り飛ばしてはスキルで倒していくプリシラ。通った後は光の粒子が大量に舞い上がっていた。
(良い感じに魔物が残ってちょうどいいね~)
(全部倒したい)
(ダメダメ。後ろから足手纏いが来るから足止めに残しておかないと邪魔になるよ。聖力が4000切ったら魔法に切り替えね~。最下層ボスもいるだろうから一応温存しよう)
(わかった)
敢えて全ての魔物を倒さないプリシラ。ララベルの言い分もわかるため素直に従っている。
聖拳術スキルは対多数のスキルがピアッシングレイくらいしかない。基本的に単体相手で有用なスキルが多いのだ。最下層のボスは基本的に数が少ないため、倒すようにSPを温存する作戦だ。
魔力の貯蓄分全ての装備で満タンだ。貯蓄できるのはガントレット×2、ジャケット、ハーフパンツだ。ガントレットに1000ずつ、ジャケットとハーフパンツに5000ずつと、プリシラのMPの約二倍はあるのだがララベルが大雑把に魔法を使ってMPを無駄遣いするプリシラに口うるさく言うので節約している。
(あ、ゴーレム出てきたね。あれは殴り飛ばしたほうが良さそう。身体強化は一体殴ってから要るかどうか判断しよう)
(そのつもり。多分聖拳術なしで砕ける。ミスリルでもないし)
リザード系の魔物が多くスキルを多用していたがゴーレムはそこまで多くないため普通に殴り飛ばすことにしたので、リザード系の魔物を飛び越えて5メートルくらいのゴーレムの頭部目がけて跳び殴り飛ばすと、ゴーレムの頭部は砕け散った。
(柔らかい)
(土っぽいからそんなに強いゴーレムじゃなさそうだね。見た目が変わると思うからその都度確認しながらだね~)
頭部を破壊されたゴーレムは光の粒子となって消えていった。
その後もゴーレムは頭部を殴り飛ばして粉砕し、リザード系も時には殴り飛ばして粒子化させピアッシングレイで大雑把に倒しながら進んでいく。
(あとどのくらいで魔物が分かれている所かな~? プリちょっと飛んで~)
(わかった)
ゴーレムを殴り飛ばした後に空に飛び上がり飛行魔法でプリシラは浮いて辺りを見渡した。すると意外と進んでいたのか魔物が別れて進んでいる交差点まであと50メートル程度だった。
(意外と進んでたね。出来れば早いところあの場所を確保して進んでくる魔物を止めたいところだね)
(広範囲にサンダーレインで一掃。ライトニングとピアッシングレイを合成する)
(う~ん……それが早そうだけど……魔力はともかく聖力が心配なんだよね)
(多分大丈夫)
(じゃあプリの勘を信じよう。よく当たるし)
SP:5000/7000
MP:6200/6200(貯蓄分8900/12000)
プリシラが高威力の攻撃を繰り出すときはスキルを合成している。プリシラとララベルにしか出来ないスキル合成もある。スキル合成は得意だが対多数の相手に組み合わせるときは消費量が読めない時がある。これは大雑把に使うプリシラと合成した際の威力が読めないのが原因だ。聖拳術スキルは生来持っているスキルのため扱いに長けており調整も容易い。ララベルが持っていた全属性魔法スキルは威力や範囲の調整によって消費量は変わるが、元がララベルが持っていたスキルなのでプリシラは聖拳術ほど扱いに長けていないのだ。プリシラも元々魔法スキルを所持していて使っていたが、今回の合成は二人が一緒になってから築き上げた技術で確立されていない部分が多く粗削りなのである。
だが以前一度だけこの組み合わせをやっているのでララベルはプリシラの案を通した。
(じゃあ私がサンダーレインとライトニングやるからピアッシングレイと合成はプリがやってね)
(わかった。聖力は1000くらいでいい?)
(いいんじゃない? かなり範囲広げるしちょっと多いかなって感じでいいと思うよ)
(わかった)
両手に魔力を集中させてサンダーレインとライトニングを作り合成し、さらにピアッシングレイを重ねて合成する。
上空から魔物が分かれて進んでいる箇所を中心に半径約100メートル程度の範囲に魔法を展開させると決めて合成した魔法を放った。そして放った瞬間に二人とも察した。威力が強すぎると。
((あ))
次の瞬間轟音が響き雷の嵐が魔物たちを襲い、雷が当たった魔物からは光の光線が無数に飛び散り光線が乱反射して広がっていく。乱反射する光線は見る分にはとても神秘的で綺麗だった。半径100メートルのつもりだったが半径200メートルくらいの範囲に落雷が落ちピアッシングレイがどんどん広がっていき範囲外の魔物たちを倒していく。
しばらくしてピアッシングレイの乱反射が収まった。半径100メートルどころか半径300メートル程の魔物が倒されていた。
(………やっちゃったNE★)
(私はちゃんとララの言う通り聖力は1000使った、ララが魔力使いすぎ。その証拠に貯蓄分が3000くらい減ってる)
(てへ★)
SP:4000/7000
MP:6200/6200(貯蓄分5900/12000)
感覚で減った魔力量を把握したプリシラ。ずっと使っている装備で数値には表れないがその感覚は正しかった。だが実際にはピアッシングレイが猛威を振るったのでプリシラにも原因はある。ただ誤算があったとすれば前回はここまで広範囲ではなかったという点である。
(でもいっぱい倒せたから良い)
(うんうん。次行こう!)
二人は気にしないことにしてダンジョンへ進むことにした。今回の失敗は今後に生かされるだろう。知らんけど。




