第三十八話 セシリアの対戦相手がカリナになった理由が理不尽すぎました
俺は本当に混乱していた。
だって、セシリアの対戦相手がよりにもよってカリナだなんて。どんな悪い冗談だよ
「なんでなんだよ……ッ?!」
と、ブツブツ呟きながら、控え室の隅で、俺は頭を抱えていた。
その時、俺は視界の端に人影をとらえた。
あの黄金の髪をひるがえし、気高き姉御オーラを全身から放って歩いているのは……間違いない、ビアンカだ。
「ビアンカさん! ちょっといいですか!?」
つい勢いで声を張り上げてしまった。周囲の団員たちが、え?なにごと?って感じでこっちを見る。でもそんなの関係ねぇ!
俺はビアンカの元へ駆け寄った。
「どうしたんだい、そんなに慌てて?」
いつも通り涼しい顔で、ビアンカが立ち止まる。……この人、たぶん家が火事になっても冷静なんだろうな。
「どうしたもこうしたもありませんよ! セシリアの対戦相手のことですよ!」
「……あぁ、そのことか」
すごくあっさりとした対応に、余計に腹立った。
「ここじゃなんだから、別の部屋で話をしよう」
そう言って、ビアンカはスタスタと歩き出した。
俺は慌ててその後を追いかける。
案内されたのは、控え室の近くにある小さな部屋。窓もなくて薄暗く、殺風景なテーブルと椅子がポツンと置いてある。なんだか刑事ドラマにでてくる取り調べ室のような部屋。
「それで、なんだったっけ?」
椅子にストンと腰を下ろしながら、ビアンカが言う。
なんなら脚を組んで余裕の笑みまで浮かべている。なんだこの人、余裕すぎるだろ。
「だから、なんでセシリアの対戦相手がカリナなんですか?!」
俺は椅子に座らず、そのまま立って叫んだ。
「まぁ落ち着け。こういうこともある」
「なにが“こういうこと”ですか!? ちゃんと説明してください!」
俺の怒りボルテージは最高潮。そんな俺をビアンカはやれやれといった様子で眺めると、軽く肩をすくめてこう言った。
「相手がいないのさ」
「……え?」
一瞬、言葉の意味が分からなかった。
「うちが強すぎるからね。ビアンカ拳闘団と試合をしたがる拳闘団が、このソンブラスにはもういなくなっちまったのさ」
「そんな、まさか……」
膝から崩れ落ちるって、こういうときのためにある言葉なんだろうな。マジでぐらついたわ。
「もちろん、カリナとセシリアだけじゃない。今日は他にもビアンカ拳闘団同士のカードがある。こうなることは分かっていたんだ。だから今日の試合を最後に、別の街へ移るって決めていたんだよ」
ビアンカは事もなげに言う。
「でも……でも、それでも……!」
「セシリアの相手がカリナなのはおかしいって? 今日の対戦カードは、くじ引きで決めたんだよ。誰かが仕組んだわけじゃない。コウタには悪いが、これも運命ってやつさ」
運命。
その言葉が、重くのしかかった。
呆然と立ち尽くす俺。
「本当はね、私だって期待してたんだよ。 セシリアが14歳なのに15歳以上の部に出場して、相手を秒殺できれば、それこそパメラの再来だ。 ビアンカ拳闘団にニュースターが誕生するってね。 だが、対戦相手がカリナだと、そうもいかないかもねぇ」
そう。セシリアとカリナは大の仲良し。いつも2人で練習している。そして、セシリアはカリナに一度も勝ったことがない。今まで、一度も。
「……さて、私はそろそろ行かなくちゃね。団長の仕事も忙しいのさ」
ビアンカはそう言って立ち上がり、俺の肩を二度、ポンポンと軽く叩くと、さっさと部屋を出て行った。
扉が静かに閉まり、薄暗い部屋の中には俺ひとりが残された。




