第三十七話 試合当日、セシリアとカリナの対戦相手がまさかのまさかでした
その次の一週間はあっという間だった。
そして日曜日。試合当日。ビアンカ拳闘団のソンブラスでの試合は、この日が最後。
「今日も付き合ってもらってありがとうペペ」
「構いませんよ。 どうせ試合は毎回見に来ていますから」
この日も俺はペペと2人で試合を見に来た。
俺たちが到着するころには、街の中心部にある拳闘の試合が行われる大テントは、人でごった返していた。
さて、今日の目的はただ一つ。
ビアンカ拳闘団、最後の試合でセシリアとカリナを勝たせること!
とはいえ、俺にできることは、もうほとんどない。だからせめて、試合前に2人に声をかけるくらいはしておきたい。それくらいは、トレーナーとしての責務だ。
で、例によって、あの緩々なセキュリティを通過する。試合会場のスタッフっぽい人に「お疲れ様でーす」って言えば、関係者以外立入り禁止って書いてる通路も、なんか通れる。
これでいいのかと不安になりながら控え室に到着。
控え室に入った瞬間、空気が前回と違うことに気づいた。 妙に静かで張りつめている。
……なんだ、この緊張感。
拳奴たちがあまりしゃべっていない。 前回試合前でも賑やかだったのに、今日はみんなの顔が硬い。
とりあえず俺は、セシリアとカリナを探すことにした。あの2人は仲良しだから、一緒にアップをしているはずだ。
そう思って、控え室の中を見渡すと――
セシリア、発見。試合用のバンテージをつけて、跳ねるようにステップを刻んでいる。見覚えのある金髪が、ぱらりと揺れた。
「コウタ先生!」
俺に気づいたセシリアが、すぐに駆け寄ってきた。笑顔だ。でも、どこか表情がぎこちない。
「ありがとう! 今日も来てくれたんだ!」
「ああ。もちろんだよ。君たちの試合だ、来ないわけがないだろ」
俺はにっこりと答えた。……と、そのとき気づいた。
カリナが、いない。
「ところで、カリナは一緒じゃないの?」
そう尋ねると、セシリアは少し目を伏せた。
「カリナちゃんは……あっちで練習してる」
そう言って、控え室の反対側を指差す。
その指の先、確かにカリナがいた。
黒髪を一つにまとめ、口を真一文字に結び、真剣な表情で黙々と1人でシャドーボクシングをしていた。
「どうした? 今日は一緒にアップしないのか?」
そう尋ねると、セシリアは一瞬、口を開いたまま固まった。
「……あのね、今日の私の対戦相手、カリナちゃんになっちゃったの」
と、ぽつり。
……はい?
「えっ……いったいどうして……」
マジで予想外だった。なんで同じ団の仲間同士で……よりによって、セシリアとカリナが試合するんだよ?!
「どうしようコウタ先生……」
セシリアの目が潤んでいく。もう今にも泣きそうだ。いつもは明るくて前向きなあの子が、仲良しのカリナと戦わなきゃならない現実に、不安でいっぱいの顔をしている。
「セシリア……」
俺は大きく息を吸って、できるだけ優しく、でもはっきりと彼女に言った。
「ともかく今は練習に集中しよう! 目の前のことを1つ1つこなすんだ。試合前のアップがまだ残っているんだろ?」
そう言って、俺はセシリアの背中をポンと叩いた。
彼女の小さな肩がピクッと揺れて、それから力強くうなずいてくれた。




