第三十四話 またマルタちゃんと買い物へ行くことになりました
平日。普通なら農場で仕事をする日。
だがこの日は違っていた。
そう、マルタちゃんと二人で街に買い物に行くことになったのだ。
なんだか毎週のようにマルタちゃんと二人で買い物してるな、俺。
街の広場に並ぶ屋台の間を歩いていると、マルタちゃんが急に口を開いた。
「なぁコウタ。おまえ、奴隷解放を目指してるのか?」
「……え?」
いきなりすぎて足が止まりそうになった。
というか、なんでそれを知ってる?
「どうしてそれを?」
「ペペに聞いた」
あのおしゃべりめ!
雇用主やその関係者には、先に俺から言わないと関係が気まずくなるだろうが!
「まぁ……目指していますが、本当に解放奴隷になれるかはまだ分かりませんよ」
それは事実だ。
たしかに今、ビアンカさんとの賭けで一発逆転を狙ってるけど──失敗すれば、すべて水の泡。
俺がそう言うと、マルタはふんすと鼻を鳴らし、力強く俺を見上げた。
「コウタなら大丈夫だ! パパも言ってたぞ!」
「……フリオさんが?」
「うん! “コウタは真面目で優秀な農奴だ”って!」
「そうですか……」
たしかに、俺は他の農奴より真面目に働いている。というか、他の農奴がダラダラしすぎなんだ。
だから俺としては“普通に”働いてるだけなんだけど、雇用主であるフリオさんから見ると、他の農奴より優秀に写るようだ。
やっぱり俺が元日本人だからかなぁ。“普通に働く”のレベルが、こっちの人と違うんだろうな。
「コウタが農奴から解放されて自由市民になっても、フリオ農園で雇ってやるからな!」
「えっ?」
「私からパパに言っといてやるから、就職先は心配しなくていいぞ!」
この世界では、奴隷から自由市民になると給料が一気に上がる。
だから雇い主の中には「こいつもうお得じゃねぇ」と言って、奴隷から自由市民になったとたん、クビにするブラック経営者もいるらしい。
う~ん……俺は農奴から解放されたら、ビアンカ拳闘団のトレーナーになりたいんだけどな。
「ていうかコウタが自由市民になったら身分差が無くなるから結婚だって…… ぐふふふふ……」
……おい。
いまなんか良からぬワードと、ヤバめの笑い声が聞こえたぞ。
ちらっとマルタちゃんを見ると、顔を真っ赤にして鼻の下をこすっていた。
おーい。聞こえてんぞ、マルタさん。
まぁ、聞こえなかったことにしておこう。
その後はさっさと買い物を済ませて、マルタちゃんの口撃(もしくは婚活?)を避けるため、早めに農場へ戻った。




