第二十八話 ツンデレのカリナは、将来有望な才能あふれる美少女拳奴でした
「あ、あんまりジロジロ見ないでよ!」
カリナを見ながら、グラビアアイドルみたいな外見だな、なんて思っていると、カリナがぴしゃりと言ってきた。いきなりのツンである。
「ごめんごめん。いや、なんというか、その……先週の試合、見たよ! すごく頑張ってたね!」
俺がそう言うと、カリナは目を逸らし、頬をほんのり赤らめた。
「べ、別に普通だし……!」
あ、これ、知ってる。巷で噂の“ツンデレ”ってやつだ。クール系美少女と思わせておいて、実は反応がいちいちかわいい。あぶないあぶない、あと三回くらい褒めたら普通に惚れそう。
でもまあ、試合でカリナが頑張ってたのは本当の話だ。
あのとき彼女は、15歳以上の部で戦っていた。彼女はちょうど15歳。だから相手は、自分より年齢も体格も上。はっきり言って不利な条件だった。けど彼女は、しっかり食らいついていた。動きは軽快で、手数も多く、反応も良い。体格の差で惜しくも敗退したけど、技術も根性も一級品だった。
カリナのことは、前からセシリアから聞いていた。
「カリナちゃんはね、私の一番のお友達なの! 優しいし、気が利くし、頭もいいし、おっぱい大きいし!」
――最後のだけは必要な情報だったか微妙だが、そんな風にセシリアが言っていた。
で、カリナはつい最近15歳になったばかり。今までの14歳以下の部では連戦連勝だった。でも15歳以上の部に上がってからは、勝ったり負けたりを繰り返しているとのこと。
なるほど、壁にぶつかっている時期ってやつだな。
「カリナちゃんも強くしてあげてね!」
セシリアがそう言って、俺の背中をぽんっと叩いた。
「ああ! コウタ先生にまかせとけ!!」
というわけで、今日から練習は三人態勢になった。
まずはウォーミングアップに軽いシャドウ。その後、ステップなどのフットワークを中心に教えていく。
教えていて分かった。正直に言って、カリナは才能がある。セシリアも筋がいいけど、カリナは初日から明らかに動きのキレが違った。まるで体に芯が通ってるみたいな安定感がある。うん、この子、武器を持ったら相当伸びるな。将来はバランス型のファイター……ボクサーファイターになる素質がある。
もちろんセシリアだって努力の人だ。比べるもんじゃないけど、彼女のひたむきな頑張りは、カリナとは違った才能を感じる。
そんな二人に、俺は今日からずっと続けてほしいトレーニングを伝えることにした。
踏み込みの練習、パリングの反復、ステップの基本。それは地味で退屈な練習だけど、強くなるには絶対に必要なものばかりだ。
本当なら、もっと色々教えたい。でも、俺には時間がない。
ビアンカ拳闘団は、来月にはソンブラスを離れてしまう。俺は農奴だから、この地を離れることはできない。
でも、そのことには誰も触れなかった。だから俺も言わなかった。ただ、黙って、全力で教えた。
「今日も練習つかれたー!」
練習後、セシリアがくたくたになりながら笑った。
「セシリア、このタオル使って!」
カリナが差し出した白いタオルは、きれいに洗濯されていて、ふわふわだった。
「ありがとう、カリナちゃん!」
「はい、コウタ先生にも……あげる」
「あ、ありがと」
照れ隠しのようにそっけなくタオルを差し出すカリナ。 この子、本当に気が利くんだな。態度は冷たいけど、行動は優しい。ツンはしてても、根はデレだ。
もし恋人にするならセシリアかな。でも、嫁にするならカリナかもしれない。なんて、妄想していたら——
気づけば二人はもういなかった。
あれ、置いていかれた? 俺、妄想してる間に取り残された?
こうして、三人での練習初日は、静かに終わったのであった。




