第二十四話 背後を取った!……と思ったら転んじゃったようです
――チャンスだった。いや、マジで完璧なタイミングだった。
セシリアがステファニーの大振りパンチを見事にパリングし、ステファニーのバランスを大きく崩した瞬間――
「いけぇぇぇぇっっ!! そこだセシリアァァァ!!」
俺は思わず立ち上がって叫んでいた。目を見開き、拳を握りしめ、全神経をリング上に集中させていた。
そして、セシリアも応えた。ステファニーの右肘に手をかけ、自分の左足を一歩踏み出し――ステファニーの背後へと、華麗に……。
――と思ったら。
「あっ!? 転んだっ?!」
ステファニー、まさかの自滅。
ドサッと倒れこみ、そのまま鳥カゴの上をゴロゴロと転がっていった。
「ちょ、ちょっと待て、嘘だろ……!? 今のは絶対いけたやつだろおおお!!!」
俺、絶叫。声裏返る。
マンガみたいに両手を頭に当てて悔しがった。
隣でペペが若干引いているのがわかったけど、今はそんなのどうでもいい!
セシリアは、転がるステファニーをただポカーンと見つめていた。
転がったステファニーは、すぐに身を起こして距離をとった。
さっきまでの殺気だった雰囲気はどこへやら、ちょっと冷静になってる……ように見えた。
「いま……なにかしようとしてたんですか?」
ペペが静かに問いかけてきた。
「まぁね……作戦だったんだけど、失敗だな……」
俺は悔しさをかみしめながらも、試合から目を離さず答えた。
ほんと、あれさえ決まってたら、たぶん勝ってた。いや、間違いなく勝ってた。たぶん。
「……なるほど、そういうことか。あの動き……さては、首裏か耳裏へのパンチを狙ってるんだな!?」
隣のビアンカが膝をバシン!と打って、ドヤ顔で言ってきた。
どうやらこの世界でも、首裏(延髄)や耳裏は急所として有名らしい。
「なるほど、それなら力の弱いセシリアでも一発KOを狙えるかもしれない。ああも見事に相手の背後に回れるなら作戦としては上出来だ。だが、どうやらステファニーにもバレてしまったようだぞ」
ビアンカの言う通り、ステファニーの様子が変わっていた。さっきまでのような前のめりな攻撃は影をひそめ、代わりにコツコツと小さいパンチを当ててくるようになった。
完全に戦法を変えてきた。警戒してる。
……あちゃー、バレたかぁ。
いや、正確に言えば、作戦の“全部”はバレてない。
セシリアが背後を取ろうとしてる動きが怪しいってのは、さすがにステファニーも気づいただろうけど――さすがにそれ以上は読まれていない……はず。
「ステファニーちゃんに、さっきまでの勢いがありませんねぇ」
ペペがまたしてもぼそりとつぶやいた。
確かに、ステファニーのパンチには勢いがなくなっていた。
俺はあきらめない。
「セシリア! 練習どおりだッ!! パリングだ!! とにかくパリングし続けろォ!!」
俺は思いっきり声を張り上げた。ちょっと恥ずかしい。でもそんなこと言ってる場合じゃない。
ステファニーになら作戦を気づかれても問題ないはず。
なぜなら、ステファニーの性格が変わったわけじゃないからだ。
さっきまでの試合の流れを見ても、彼女は“イライラしやすい”性格で間違いない。
それなら大丈夫。諦めずにパリングとフラッシュジャブを繰り返せば、また必ずキレる。
そうなったら、こっちのもの。
勝てる――絶対に、勝てる。
セシリアよ、今度こそ決めるんだ!!!




