第二十三話 そのパンチ、効いてないけど効いています
「確かに今日のセシリアの防御は見事だよ。でも――いつまで続くかね」
隣で腕を組んでいるビアンカが、鋭い目でリングを見つめながらつぶやいた。
まぁ、そう言いたくなるのも分かる。俺だって、セシリアのパリングが永遠に続くとは思ってない。集中力にも限界はあるし、何より“守ってるだけ”じゃ、どんなに上手くても試合には勝てない。
「大丈夫です。そろそろ攻撃に転じるチャンスが来るはずです」
そう答えた俺の言葉が終わるか終わらないかのタイミングで、セシリアが動いた。
シュッ、と空気を切る音がして、セシリアの右手がステファニーの顔面へ――!
……ただし、めちゃくちゃ弱い。超軽量のパンチ。
「え、あれが攻撃ですか? あれじゃ相手を倒せないでしょう」
ペペが思わず吹き出すように笑った。
「まったくだ。あんた、本当に拳闘が分かっているのかい?」
ジロリと俺をにらむビアンカ。痛い、視線が痛い!
「いや……あれも作戦のうちなんで……」
俺は冷や汗をぬぐいながら答える。そう――あれは、ちゃんと意味のある行動なのだ!
あの軽いパンチ、その名も“フラッシュジャブ”。
力をまったく込めずに、ただ速さだけで相手の顔面に連発する。ダメージはゼロでも、回数が多いと確実に“心”にダメージが入る。
そう――“イライラ”するのだ!
「おや? ステファニーちゃんの攻撃が、段々雑になってきましたね」
ペペの観察眼が光る。
ステファニーのパンチが、明らかに大ぶりになっていた。力任せで振り回すような攻撃が増えている。スピードは落ち、隙が大きくなってきた。
よし、ここまでは完璧……!
「いいぞ! セシリア! チャンスだ!!」
思わず声を上げる俺。
その声が届いたのか――あるいは、タイミングを計っていたのか。
セシリアが、ステファニーの大ぶりな右パンチを、これまでより大きく、深く、パリングした!
ステファニーの体勢が崩れる。バランスが一瞬、ガクンと傾いたその瞬間!
セシリアがすかさず動いた!
自分の右手をステファニーの右肘にパッとかけ、そこを支点にして、自分の左足をステップイン。身体をひねるようにして、相手の背後へと回り込もうとする!
いける――いけるぞ!
ここまで来れば、あと一手!
決めろ、セシリア!
相手のキドニーに“必殺の一撃”を入れろ!




