第二十二話 俺の作戦にビアンカの疑いの目が光ります
ドン! という太鼓のような音と共に、ついにその瞬間がやってきた。
そう――セシリアの試合が始まるのだ!
目の前の「鳥カゴ」では、セシリアと対戦相手の2人が、中央で向き合うように立っている。
対戦相手の名前は、ステファニー。
ピンク色のポニーテールに、碧い瞳。まるで人形みたいな愛らしさをしてるのに、顔つきは獲物を狙う猛獣そのものだった。
彼女の格好は、陸上選手が着るような上下セパレートのユニフォーム。木綿に似た素材で、肌にぴったり張りついて、その健康的なスタイルを際立たせている。手には、バンテージがしっかりと巻かれていた。
セシリアも同じような格好で、リングに立っている。……可愛い。うん、正直ちょっと見惚れてしまった。
でも今の俺はそんなこと考えてる場合じゃない! 彼女の勝敗に、俺の命運がかかってるんだからな!!
ドドン!と試合開始の太鼓が鳴ると同時に――動いたのは、ステファニーだった。
猛然と前へ出て、左のジャブ!右のストレート!とにかくガンガン攻めまくってくる!
「ステファニーちゃんは、前にガツガツ出るタイプのようですね。それに対してセシリアちゃんは、ちょっと消極的だなぁ」
隣でペペが腕を組みながら解説してくれる。
まさにその通りだった。ステファニーは試合開始の勢いそのままに連打を叩き込みにかかる。対するセシリアは、攻撃をまったく返さずに、ひたすら相手の攻撃をパリングしている。右手で軽くはじき、左手でかわし、ステップで距離をとる。
「そうだね。それがステファニーって子の良さなんだろう。そして、今日のセシリアはたしかに消極的だ。先月まではもっと攻撃的だったと思うんだが……」
ビアンカが、やや皮肉っぽく言いながら、チラリと俺を見る。
……今のは完全に「お前のせいじゃないのか?」って目だった。いや、実際そうなんだけども!
だって俺が「試合の序盤は、攻撃は捨てていいから、防御とパリングに全振りしよう」って作戦をセシリアに授けたんだから。
「大丈夫。作戦どおりです。今回セシリアには、一発逆転の秘策を教えているんで」
内心ちょっと焦りながら、俺は無理やり笑顔を作ってそう言った。
「そうなのかい? それが本当ならいいんだけどね」
ビアンカはまだ疑いの目を緩めてくれない。このままセシリアが試合に負けてしまったら、マジでタダじゃ済まないだろう。
それにしても、ステファニーの攻撃が思ってたより速くて重い。完全に興奮剤のおかげだ。
「でもセシリアちゃんは見事に防御しますね。あれだけ攻められているのに、おそらくノーダメージだ」
ペペが感心したようにぼそっとつぶやいた。
そのとおり! 実は、セシリアの敏捷性は本当に高い。動体視力も良い。このパリング戦術は、そんな彼女の長所を最大限に活かせる作戦なんだ。
しかも今日のセシリアは、いつも以上に集中しているように見える。目の色が違った。
いける……! きっと、あの技で勝てる!
俺は祈るような気持ちで、セシリアの背中を見つめていた。
——頼むぞ、セシリア!




