第二十一話 セシリアの勝利を心から祈っています
セシリアの試合がいよいよ近づいてきたころ、俺たちの席に、ズカズカとやってくる女性がいた。
「ここにいたんだね。私もご一緒していいかい?」
セシリアが所属するビアンカ拳闘団の団長――ビアンカさんだった。
「あ、も、もちろんです! どうぞどうぞ!」
俺の返事より先に、ペペがそう返事をすると、ビアンカさんは俺の左隣に腰を下ろした。横に座るだけで、果実酒みたいな甘い香りがしてくる。
「コウタくんは、ビアンカさんともお知り合いだったんですか?」
ペペが声を潜めながら聞いてくる。
「ま、まあね……ちょっと前に挨拶しただけっていうか……」
「ふふ。コウタはうちのセシリアに拳闘を教えてくれてるんだ。なかなか特殊な拳闘みたいだけどね」
と、にこやかに笑いながら、ビアンカさんがそう言う。
特殊な拳闘……言い方がちょっと怖い。
「ほう、そうなんですか。コウタくんにそんな特技があったとは……」
ペペが、興味深そうに俺を見る。俺は照れ笑いを浮かべる。
「だけどね――」
ビアンカさんが続ける。その声は落ち着いていて、なおかつ恐ろしいほど静かだった。
「拳奴たちは、ビアンカ拳闘団の大事な商品だ。強くしてくれるのは大歓迎だが、勝手に変な癖をつけられちゃうと困るんだよね」
その言葉と同時に、鋭い視線が俺の横顔を刺す。
(こ、こえええぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!)
なぜビアンカが俺の隣に来たか分かった。
つまりこれは、監視だ。
もしセシリアがこの試合で負けたら、その原因が「コウタに変なことを教えられたからだ」とされる可能性が極めて高い。
いや、可能性というか、ほぼ確定でそうなる未来が見える。
そしておそらく、いや絶対、セシリアが負けたら試合後に俺は拘束されるだろう。 拘束された後は、いったいどうなってしまうのだろうか……
俺の心臓は、ガンガンに脈打ち、冷や汗がダラダラと背中を伝う。
(セシリア……マジで頼む……勝ってくれ……!!)
このとき俺は、誰よりも真剣に、セシリアの勝利を祈っていた。




