第二十話 少女たちの試合が、迫力ありすぎてビビりました
試合会場に戻ると、ペペはすでに観客席に陣取っていた。俺もその隣に腰を下ろすと、ペペが俺に紙の束を差し出してきた。
「コウタくん、これが今日の試合プログラムです」
彼がすっと差し出したのは、紙製のパンフレットだった。表紙には拳を突き上げた少女のイラストが描かれていて、妙に気合が入っていた。どうやらこれは、賭け券を買った人が無料でもらえるらしい。
「お、ありがとう」
プログラムをめくると、スケジュール表が目に飛び込んでくる。午前中は十四歳以下の部、午後から十五歳以上の部になっていた。
「コウタくんのお目当てのセシリアちゃんは、十四歳以下の部の最終戦のようですね」
「最終戦……。ってことは、出番までけっこうあるな」
俺の心臓は朝からドキドキしっぱなしなんだが。
セシリアの試合まで持つだろうか心配だ。
「ところで、この組み合わせってどうやって決まるんだ?」
「前日にくじ引きで決まるみたいですよ。ですから私たち観客は、当日になるまで誰が誰と戦うのか分からないんです」
なるほど。観客の興味を引きつけるためか。それに八百長防止の意味もありそうだ。
そんな話をしているうちに、十四歳以下の部の第一試合が始まった。
会場が一斉に湧き上がる。観客席中央に設置された“リング”に視線が集中する。
リングと言っても、ボクシングのようなロープではなく、まるでUFCの金網ケージを木で作ったような代物だった。そういえば、通称は“鳥カゴ”だと以前にセシリアが言っていた。観客席よりも高い場所に設置されており、見上げるような角度で選手の動きが見える構造になっている。
選手たちは、陸上競技のユニフォームのような、上下セパレート型の露出高めな衣装を着ていた。素材は木綿っぽくて、通気性が良さそうだが、戦うにはやけに生々しい。しかも、胸の辺りとか妙にピッタリしてるんだよな。これ、絶対観客ウケ狙ってるだろ……。
手には、がっつりとバンテージ。拳をしっかりと固めており、グローブはなし。あれで殴られると痛そうだ。
そして、いざ試合が始まると、場内が一気にヒートアップ!
……って、え、ちょっと待って?
「な、なんだこの迫力……」
女子の、しかも十四歳以下のはずなのに――その戦いっぷりが、完全におかしい! ステップで相手の拳を避けるスピードも、自分の拳が相手に当たった時の音も、まるで現代日本の男子格闘技を見ているようだ。いや、それ以上か?
「どうです? すごいでしょう?」
俺があっけにとられていると、ペペが微笑みながら、やや得意げに言ってきた。
「いや、すごすぎるって。これ、もう女子の試合ってレベルじゃないよ!」
「ふふ、あれは“興奮剤”のおかげですね」
「興奮剤って?」
「興奮剤は興奮剤です。試合前に服用することで、身体能力を一時的に引き上げる作用があるんです。まぁ、効能には個人差があるようですが」
マジか。だからみんな、目が血走ってるのか。なんか、野獣のような咆哮をあげてる子までいるぞ!?
あれ? そういえば、セシリアが言ってた「興奮剤が効きにくい体質」ってこれのことか。
大丈夫かな。今日の相手は、前に一度負けた相手。俺が教えた技術だけで、果たしてこの狂気のリングで通用するのか……?
胸がざわつく。自信はある、でも不安もある。とにかく、俺にできることは、信じることだけだ。
俺は両手を祈るように組んで、静かにリングを見つめた。




