第十八話 試合当日。会場のセキュリティは驚くほど甘めでした
日曜日――ついにその日がやってきた。
セシリアの試合当日だ。
朝から天気は快晴。汗ばむ陽気の中、俺はペペと一緒に街の中心へ向かっていた。拳闘の試合が行われる広場には、サーカスのような巨大なテントがどーんと構えていて、周囲はすでに大勢の観客でごった返していた。
「どうですか、コウタくん。これがソンブラスの娯楽の最高峰、女子拳闘ですよ」
と、嬉しそうに語るペペ。オタクの顔だ。目がキラキラしている。
俺はというと、とても緊張していた。自分が試合をするわけでもないのに。
入場料は五千メソ。
高額の出費に俺の財布が震えていたが、セシリアの応援だ。仕方ない。俺は目をつぶって金を払い、テントの中へと足を踏み入れた。
テントの中もすごい熱気だった。試合はまだ始まっていないのに、観客席はすでに大盛り上がりで、歓声と怒号と食べ物の匂いが渦巻いている。
中央には立派なリング。周囲には観客席。そしてなにより、アナウンス用の魔導スピーカーや照明用の魔道ランタンまで完備されている。異世界の最先端テクノロジーが結集しているようだ。
「さて、わたしは賭け券を買ってきます。 またあとで合流しましょう」
そう言って、ペペは人混みに消えていった。
ちなみに俺は賭け事に興味はない。
さて、どうするか。もし試合前のセシリアに会えるなら、エールを送りたいところだ。
俺は近くにいたスタッフっぽい人に話しかけた。
「あのー、試合前のセシリアに挨拶がしたいんですけどー」
「もしかしてビアンカ拳闘団の関係者の方ですか?」
「はぁ、まぁ……」
「あっ、こちらです。ご案内しますー」
スタッフっぽい人は驚くほどあっさり中まで通してくれた。
――ゆるい! セキュリティ、ゆるすぎる!!
俺は拍子抜けしながらも、堂々とビアンカ拳闘団の選手控え室へ入ることができた。
中では試合を控えた選手たちがアップ中。縄跳びをしている子、シャドーをしている子、入念にバンテージを巻いている子。
そして、その中にセシリアがいた。
セシリアは自分と同じくらいの体格の女の子とマスボクシングをしていた。いつもより引き締まった顔つきで、集中してパンチをさばいている。
「おーい、セシリア! がんばれよー! 今日は応援してるからな!」
俺が声をかけると、セシリアはピタリと動きを止めてこちらを見た。
「コウタ先生っ!!」
ダッシュで駆け寄ってくるセシリア。
「来てくれたんだ、ありがとうっ!!」
セシリアは満面の笑み……だが、その顔が急に曇った。
「あのね……今日の対戦相手なんだけど……先月に戦って、負けた人と同じになっちゃった……」
下を向きながら、不安そうにつぶやくセシリア。
「大丈夫だよ、セシリア。あれだけ練習したんだろ? 逆に先月までのセシリアから成長したことを証明するチャンスさ」
俺がそう言うと、彼女の目がぱっと開いた。
「……そうだね! 私、がんばる!」
満面の笑みに戻ったセシリア。よし、その調子だ。
しかしほんと、相変わらず感情の起伏がジェットコースターのように激しい子だな……




