第十六話 農作業中にいきなり女の子に抱きつかれて、そのまま買い物に連行されました
平日。その日も俺は、いつも通りの農作業をして過ごしていた。
汗をぬぐいながら、俺は畑の隅で果物の収穫をしていた。朝露を吸った実がぷっくりしていて、今にもはじけそうなくらい甘そうだ。ナイフで茎を切って、カゴにそっと入れて……と、そんな時だった。
「コウタぁぁあっ!! いっしょに買い物いこおおぉお!!」
――突然背後からの抱擁アタック!!
「ぬわぁっ!? ちょ、ちょっ!!」
俺の手に持っていた収穫したばかりのプポの実が宙を舞い、地面に落ちそうになるのをギリギリキャッチ。俺えらい。
「買い物いくぞ! コウタ! はやくしろ!!」
きゅうきゅうと俺の胴にしがみついたまま、前のめりに命令してくるのは、ツヤッツヤの黒髪が風にきらめくお嬢さま――マルタちゃんである。
フリオの一人娘で、年齢はたしか十二歳くらい。目がくりっとしてて、背が小さくて、見た目はお人形さんみたいに可愛らしい。見た目だけはね……
「買い物って何のさ。俺、まだ作業終わってな――」
「コウタくん、ここは大丈夫ですから、マルタちゃんの買い物につきあってあげてください」
割って入ったのは、我らが農奴リーダーのペペ。彼が笑顔で立っていた。しかし、その目はまったく笑っていない。いやむしろ、「早く行ってくれ、頼むから……」という無言の圧を感じる。
この農場でマルタちゃんは、いわば『災害』扱いされている。なにせ自分の思い通りにならないとすぐに癇癪を起こす。それも、全力で泣き叫びながら農具棚を蹴倒すタイプの暴れ方をするのだ。
でも農場主であるフリオさんの娘だから、誰も強くは言えない。それに、あのフリオさんもマルタには「元気があってよろしい」とニコニコしてる始末だ。完全に甘やかされてる。
「ほら! 大丈夫だって! はやく行くぞ!」
マルタちゃんが、俺の手をぐいぐいと引っ張っていく。
「わ、わかったよ、マルタちゃん……」
周囲の農奴たちも、まるで戦場に徴兵される若者を見るような目で俺を見ていた。
わかったよ、俺が行けばいいんだろ。
「うん。じゃあ行こっか、マルタちゃん」
「いえーいっ! 買い物買い物ぉ~!!」
こうして俺は、マルタちゃんに強制連行され、市場の買い物ツアーへ出かけることになった――。




