第十一話 まずはパリングから教えることにしました
日曜日の午後。
昼食のサンドイッチを半分こして、間接キッスという甘酸っぱいイベントを経たあと、いよいよセシリアとのボクシング練習がスタートした。
「まず確認なんだけど、拳闘のルール的に、パリングはOKなのか?」
「パリングって……なんですか?」
きょとんとした顔でセシリアは小首を傾げた。あ、これだけで絵になる。かわいい。
「えぇっと、パリングっていうのは、相手のパンチを自分の手のひらでパッと払い落とす、防御のテクニックのことなんだけど──」
「あっ、それなら大丈夫です! というか、拳闘ではバンテージを巻いてる手首から先なら、どこで相手に触れても反則になりませんよ」
「なるほどな……なら問題なし! じゃあ今日は、パリングの練習をしよう!」
「えっ……? いや、その、私が教えてほしいのは背後に回る技術なんですけど……?」
「まぁまぁ。大丈夫、わかってるから。まずは基礎固めってことで。今日はパリングしとこ」
「は、はぁ……」
セシリアは納得していないのか、口をちょっととがらせて、眉毛は八の字になってる。これはこれでかわいい。
「本当に大丈夫だから! 俺を信じて!」
「はいはい、わかりましたよ! コウタ先生っ!」
セシリアは笑顔で、びしっと敬礼のポーズをした
くぅ……かわいい!
しかも“先生”呼び……うん、これ、なかなかクセになりそう。
「じゃあまず、パリングの基本から。パリングの基本は、相手のパンチを逆の手で払うこと。右のパンチは左で、左のパンチは右で。分かった?」
「はい!」
セシリアは素直に元気よく返事をして、俺の前に構えた。
その目は真剣そのもの。さっきまでのポワポワした雰囲気と違って、ちょっとキリッとしてる。ギャップ萌え。
「じゃあ、ちょっとやってみようか」
俺が正面に立ち、右手でゆっくりとパンチを出す。
セシリアは真剣な顔で、俺の拳をペチッと叩いて払った。
「いいぞ! その調子、その調子!」
「はいっ!」
最初はぎこちない動きだったが、何度か繰り返すうちに少しずつタイミングが合ってきた。
パリングのたびに、彼女の指先や手のひらが俺の腕に触れる。汗ばんだ肌の感触に、なんとも言えない背徳感。いや、トレーニングだから。健全な訓練だからねこれは。
……それにしても、がんばる女の子って、ほんと、いいな。
何度ミスをしても、そのたびに「もう一回お願いしますっ」と前向きに挑んでくる。
頑張る女の子って、見てるだけで応援したくなるんだな……。
かつて格闘技オタクだった頃の俺は、女性アイドルを応援するオタクの気持ちがさっぱり分からなかった。だけど、今ならちょっとわかる気がする。
「……よし、いい感じだな。だいぶ慣れてきたぞ、セシリア」
「ほんとですかっ!? やったぁ!」
左手は肩の横で、右手は上に大きく突き上げ、拳をグッと握って小さく跳ねるセシリア。背景にキラキラエフェクトが見えた気がする。
「この調子で来週の日曜まで、毎日パリングの練習続けてくれ」
「わかりました、コウタ先生! がんばります!」
セシリアはまた敬礼ポーズで答えてくれた。
……来週が、もう待ちきれない。いや、マジで。




