第十話 美少女拳奴セシリアちゃんのトレーナーになりました
「まあ確かにキドニーブローで一番難しいのはそこだよね。プロの選手でも、試合中に相手の背後に回るってのは、なかなかできるもんじゃないんだ」
俺は地面に腰を下ろしながら、目の前の美少女――セシリアにそう言った。
すると、彼女は小さな肩を落とし、しゅんとうなだれた。
「ぷ、ぷろ……? そうなんですか……やっぱり難しいんだ……」
今にも泣き出しそうな顔をするセシリア。
「まぁ、方法が無いわけじゃないけどね」
俺はそう言いながら、ちょっと意地悪くニヤリと笑ってみせた。
「そんな方法があるんですか?! 教えてください! お願いします!!」
セシリアは、ぱぁっと表情を明るくして、俺にぐいぐい顔を近づけてくる。
その距離、およそ10センチ。近い、近すぎる。
そして、いい匂いがする。何の香りかは分からないが、甘くて、なんかお姫様みたいな匂い。
「別に教えてあげないわけじゃないけど……タダじゃ教えてあげられないなぁ」
俺はニヤニヤと笑いながら、さらに意地悪な声色で言ってみた。
するとセシリアの顔が、ぷしゅうっと音を立てて真っ赤に染まる。
「えっ……その……わたし……子どもだから、あんまりそういうことはやったことなくて……」
しまった!ちょっとイジワルしすぎたか。
「いやいやいや、そういう意味じゃなくて!」
俺は両手をブンブンと振って、慌ててフォローした。
「そうだな……来週から毎週、サンドイッチと飲み物を俺に奢るってことでどう? それで良ければ次の試合まで、週一で俺がセシリアにコーチしてあげるよ」
すると、セシリアの顔が再びぱぁっと明るくなった。
ホントにこの子、表情が曇ったり晴れたり忙しいな。いや、かわいいけどさ。
「それでいいんですか?! ありがとうございます!!」
それはもう、天使の笑顔だった。
そして――
「うわっ!」
セシリアが勢いよく俺に抱きついてきた。ふわっ……とした控えめだけれども女性特有の柔らかい感触が俺の胸に押し当たる。
「と、とりあえず、いったん昼飯にしよう。だから離れて……!」
俺は慌ててセシリアの肩を掴んで、無理やり引き剥がす。
このままだと俺の理性が危険だ。野獣的な部分が暴走しかねない。
「そういえば、セシリアは昼ご飯は?」
「……あ、持ってきてないです……。コウタさんが何時に来るか分からなかったから、朝起きてすぐ来たんです……」
その直後――
ぐ~~~……
セシリアの腹の虫が鳴った。
……タイミングが完璧すぎるんだよ、毎回。
「じゃあ今日は半分ずつだな」
俺は自分の買ってきたサンドイッチを半分に割って、セシリアに手渡した。
彼女は「えへへ……ありがとうございます」と笑いながら、嬉しそうにそれを受け取る。
そして飲み物は、一本しかない。
仕方ないので、紅茶の入った水筒を渡したあと、セシリアが飲み終わるのを待って、俺も口をつける。
――そう、回し飲み。間接キッス。
なんとなくドキドキしながらも、できるだけ平然を装って飲む。
うん、何でもない。これはただの水分補給だ。気にしたら負けだ。
そんなこんなで、俺は正式にセシリアのトレーナーになったのであった。




