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56 即日拡張

 様々な思惑のもと走り回って、翌々日の朝。予定通り一日で準備が整い、早速屋台を出した。初日なので俺も様子見兼手伝いに来ている。屋台なんてどこから調達したのかって? 自分で作ったに決まっている。使い捨て台車よりはそこそこ丁寧に作り、地球産の技術は封印して、必要な技術は魔法で代用している。

「新名物、満腹焼きだよー」

 調理はラビリンの係。俺は呼び込みを始めた。


 新しい店と見慣れない料理。そんなすぐに客はついてくれないだろう。最初の数日は試食とサクラで認知を広め、実売は全体の半分程度になるだろうか。

 そんな予想はあっさり覆された。

「はい、割り込まないでー。すぐ焼けますからー」

 思った以上に好調な出だしとなって、すぐに行列が途切れなくなった。焼けたソースの匂いが、町の人の食欲にダイレクトアタックしたようだ。狙ったことではあったが、ちょっと効果が高過ぎたかも知れない。慌てて孤児院に走り、材料の追加調達をお願いするとともに孤児を三人借りて来て、それぞれ調理助手、接客、列整理を手伝って貰う。俺は誰かが休憩する時のヘルプと、追加分の材料を魔法で何とかする係だ。

「ラビリン、野菜には青海苔、海鮮には荒節を先に少しかけてしまうんだ。そうすれば後からでも見分けがつく」

「ナイスアイデア。そうする」


 昼食のピークを越えた頃。借りて来た三人はそれぞれ別の孤児に交代して貰った。思ったよりもしっかり働いてくれたが、子供の体力と集中力で長時間働かせる訳にはいかない。

 魔法で材料を刻んだりソースを煮詰めたりしつつ、屋台にも手を加えて鉄板の大きさを三倍にした。ある程度の拡張は見込んだ設計にしておいたので何とかなったが、まさか初日からフル拡張が必要になるとは思わなかった。

「ラビリン、大丈夫か?」

「問題ない。満腹焼き一枚、銅貨一枚」

 歩合制にしておいたのが幸いしてモチベーションを保っているようだ。だが今日一日ならともかく、これが毎日続くのはまずい。俺はそんなブラックな雇用主にはなりたくない。


 夕食時になる前に材料が尽きた。正味七時間程度の営業だ。

「ラビリン、何枚売れたか分かるか?」

「三百八十枚くらい。うち海鮮が百枚近くで、売り上げは銅貨八百五十枚くらい」

「売れ過ぎだな」

「売れるのはいいこと。明日も頑張る」

「これを毎日続けたら、こないだとは逆の理由で倒れるぞ」

「あう」

 俺がいなくても回る業態を考えたのに、これでは本末転倒だ。

「ちょっと院長先生と話をして来る」


 なかなか売れない時のことはいろいろ想定していたが、売れ過ぎた時のことは想定していなかった。考えが甘かったと言われればその通りだが、これをどう予想しろというのだ。


 だが、なってしまった以上はそれに対して最大限の対応対策を淡々としていく他ない。

 翌日からは材料を二百枚分しか用意しないことにした。こうすれば際限なく忙しい事態は回避される。二百枚〝しか〟と言っても、当初予定は百枚だったのでその倍だ。それでもラビリンの収入は一日金貨二枚。孤児院を出たばかりにしては十分を通り越して破格の給料というか、日によっては俺より稼げる金額だ。


 それだけだと食べられなかった人から不満が出るので、俺は屋台をもう三台作った。最初の一台を含む全てにウサギが野菜を食べているイラストを描いた看板をつけ、ウサギ印としてフランチャイズ展開する。追加の三台は孤児院に貸し出し、もうすぐ卒業する子供に預けて、売上一枚ごとに俺が銅貨一枚半を受け取る契約にした。ラビリンとの契約よりは金額が俺に有利だが、孤児院は人件費をあまり考えずに済むし、材料の仕込み工場としての利益もあるので、これでも問題はない。

 卒業しても続けたいと言うのであれば、ラビリンと同じ金額にしてもいいだろう。その代わり、卒業生はソースの購入や手伝いの孤児に対して孤児院への支払いが生じる。更に必要であれば小麦粉の仕入れやキャベツの刻み等も委託契約することになるだろう。これもラビリンと同じ条件だ。そしてラビリンの屋台は、孤児院を経由して材料を共同買い付けする形になる。大量に仕入れればそれだけコストが下がり、こちらの利益アップにも繋がる。


 このまま売れ続ければ、恐らく一ヶ月もしないうちにコピー商品を売る店が出て来るだろう。俺の目的は町の食事改革だから、それは良い変化として受け入れることになる。しかしこちらも、ラビリンに稼がせると見栄を切り、孤児院に無理を聞いてもらっている手前、彼女達への報酬を賄える程度には利益を出さなければならない。その時、共同購入による仕入れ費用低減は競争力の確保に貢献してくれるだろう。

 何より、今は荒節もどきやソースを俺達が独占している。小麦粉、キャベツ、青海苔、そして具の猪肉等は見れば分かるが、魔法なしに荒節を作るのはそれなりに大変だし、ソースは更に再現が困難だろう。仕入れを盗み見れば材料くらいはバレるだろうが、多分そこから先は難しい。それっぽいのが作れたとしても味に差があるうちは勝てるし、もし泣きついて来たら孤児院謹製ソースを割高で売りつければ良いのだ。

 あとは自然と各店の競争が始まるだろう。そうなれば満腹焼きがこの町に根付いたと言える。その時は屋台から手を引いてもいい。屋台は俺の自作だし、メニューの開発費もそれほど投じていないので、あまり初期費用がかかっていない。だからその分だけ撤退も簡単だ。孤児院はソース製造事業だけでも十分回るだろうし、ラビリンだって満腹焼きが売れなくなったら別メニュー、たとえば焼きそばを出すようにすればいいし、そもそもラビリン自身が屋台をやらなくても多くの店から引く手数多になるだろう。そして俺はソースのレシピ料が入るし、その頃には荒節でなく本節を卸している見込みだ。(カビ)付けの必要な本節はさすがに真似される気がしないが、万一開発されたとしてもその頃には一生分を稼ぎ終わっているに違いないし、そもそも異世界生活を鰹節屋で終えるつもりはない。


全てが見込み違いに終わったとしても、豚玉用の猪肉需要は揺るがないので、また狩人に戻ればいいだけのことだ。

 いや、そんな悠長なことを言っている場合ではない。追加分の屋台を作り終えたので、明日から早速狩りに戻る必要がある。猪の主な生息域は南の森だが、そこで活動する冒険者が少ないので、市中で猪肉を買うと案外高いのだ。安く上げたければ俺が自分で獲って来るしかない。


 働かずに済む方法を模索して考えた屋台ビジネスだったのに、前よりも忙しいのは気のせいではないだろう。どうしてこうなった。


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