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54 今なら金利エージ負担

 早速調理場に案内して貰い、食事を作り始める。

「ラビリンはキャベツを刻んでくれ。俺は魔法が必要なことをする」

「分かった」

 魚は塩漬けになっていたか。まずは塩抜きだな。塩抜きは普通にやると、塩が残ったり旨味まで抜けてしまったりと加減が難しいのだが、これを生活魔法で行うと、塩だけきっちり抜けて旨味はそのままなことに最近気付いた。本来ここでの常識では、生活魔法はこういうことに使うのが本分であり、むしろモンスターへの攻撃に使っている方がおかしいので、ある意味当然だ。

 本来なら水分も抜いた方がいいのだが、塩漬けの時点でだいぶ抜けているし、すぐに食べるものだから今回はいいだろう。これを極薄に削れば荒節もどきの完成だ。時間があれば本節も挑戦したいが、今日は間に合わない。


 次は野菜と果物だ。量が多いし適当で良いので、〝生活魔法・フードプロセッサ〟で一気に刻んでしまう。それを鍋に入れて、そこに香菜適量とスパイス各種、砂糖たくさんに塩多め、塩漬け魚の樽にあった魚醤っぽいものも足して、お酢と葡萄酒を入れて煮込む。

 普通にやったら一晩かかるので、そこは魔法でいい感じになって貰う。魔法がなくても時間さえかければ作れるはずだが、欠食児童を待たせる訳にもいかない。おまけに、俺の生活魔法は「美味しくなあれ」で美味しくなることが実証済み。時短の上に味が良いのだから魔法さまさまだ。

 極端な話、わざわざ煮込まなくても魔法でショートカット出来るのだが、今回は手順を見せることが必要だったのでそこは守った。料理番組だって「これが材料です。こちらが完成品です」なんて三秒クッキングをやったら苦情がおかわりし放題だろう。

 煮詰め終わったら濾せばひとまず完成。もし不備があっても、腹を壊すことはないはず。それ以外の多少のことは試食品ということで勘弁して貰おう。


 材料はうろ覚えだが、大きく外してはいないはずだ。昔テレビでやっていたコマーシャルで、作り方を歌にしていたものがあった。人間、どんな知識が役に立つか分かったものではないが、歌を作った人もまさか異世界で役に立つとは思わなかっただろう。

 トマト、林檎、人参、玉葱、それを煮込んで香辛料を入れ、パイナップル、お酢、葡萄酒が隠し味。自ら美味しいと名乗る、今にして思えば凄い商品名だったが、俺の住んでいた地方では犬印の商品に駆逐されてしまったようだ。もっともこれから作るものは、そのどちらでもなく仮面印の商品の方が合うはずなので、今回は甘くてとろみの強いそちらを目指して作ってみた。


 ここからが本番だ。溶いた小麦粉に魔法ですり下ろした山芋を加えた生地に、キャベツを入れて混ぜ、熱した鉄板に落として、薄切りにした猪肉を乗せる。人数が多いからどんどん並べて行く。両面を焼いて火が通ったらラビリンの出番だ。先に煮詰めて作っておいた調味料、ことソースを塗り、青海苔を散らして荒節もどきをかけたら最終形態が現れる。本当はマヨネーズや紅生姜なんかもつけたいところだが、その開発まで手間をかけるのは現時点では労力に見合わないから、今後の課題だ。

「よし、満腹焼き完成! 小さい子から順に並べ! 熱いうちに食え!」

 お好み焼きという名前を使わなかったのは、大阪風でも広島風でもないから両方から蹴飛ばされそうなので、最初から別物というスタンスにしたかったためだ。異世界で気にするような話ではないと割り切っても良かったが、〝大阪人が異世界で粉物を広める〟という物語の本を地球の書店で見た記憶があるので、今後又は既に大阪や広島から転移転生して来る人がいないとも限らないことに思い至った。そう考えれば争いの種は少ない方が良い。そしてラミスク焼きや孤児院焼きのような名前にしなかったのは、今後タコ焼きやら大判焼きやらを出す時に名前が重複してしまいそうだったからだ。


 孤児たちに一通り行き渡ったら、俺とラビリン、そして院長先生の分だ。こちらは豚玉もどきの猪玉の他、海老や烏賊の入った海鮮、葱や菠薐草(ほうれんそう)とジャガイモを入れた野菜、その他思いつく範囲で再現可能なものを何種類か作った。これらは公平性やコストの都合で子供達には配れないが、ラビリンと院長さんにはメニュー展開も見せる必要があるからだ。あと俺が食べたかった。ラビリンは半ば役得だが、まだ栄養失調が解消された訳ではないだろうから、しっかり食べさせておきたい。

「院長先生、これは俺の故郷で食べられていた満腹焼きです。猪肉のこれが基本パターン、安く作れます。こっちは具を変えたやつです。まずは食べてみてください」


「うんめえ!」

「初めて食べる!」

「そうか、良かった。おかわりもあるぞ」

「やった!」

 子供たちは夢中で食べている。普段の食生活を考えれば評価は差し引く必要があるだろうが、それでも十分に受け入れられることは間違いなさそうだ。

「満足〜」

「腹一杯に食ったのなんて久し振りだ」

 孤児の皆を満腹にさせるという密かな目標は無事達成出来たようだ。子供には正直故の残酷さがあり、気に入った食べ物でないと満腹になるまでは食べてくれない。


「さて院長先生、味はどうでしょう。孤児たちの評価は聞いた通りですが、町の人に受け入れられるかどうかも含めて聞かせてください。それをもとに改善したいので」

「これまで食べたことがない物なので、すぐには定着しないかも知れません。ですが味は文句なしなので、そう時間はかからないと思います」

「それを聞いて安心しました」

「でも、お高いんでしょう?」

「それが何と! 全員分、お腹一杯食べてこのお値段!」

 材料費内訳のメモを渡す。どこかの通販番組みたいな問答になってしまったが、元が庶民の味なので価格には自信がある。約五十人、百枚ちょっと焼いたはずだが、材料費は金貨二枚に少し届かない程度。一枚当たりに割れば銅貨二枚だ。大規模な農業や畜産がないこの世界で、二枚食べても一人四百円に収まるならそこそこ安い。満腹を目指さない量に抑えれば破格のはずだ。

 もっと言うと、これは今回と同じ材料を全て市場で買った時の計算。俺が猪肉を卸せばもっと安くなるし、具材の工夫次第で更なる低価格化も図れるだろう。たとえば孤児院で食べる時は肉をやめて豆にしてしまえば、材料費はこれより下がる。こんなのお好み焼きじゃないと言われても、これは満腹焼きであってお好み焼きではないと言えばいいのだから、何を入れるかは自由であり、なにものにも縛られない。むしろ俺が、俺たちが作るものこそ元祖満腹焼きだ。

〝異世界で粉物を広める物語〟の商業本は実在します。森田季節先生、いろいろごめんなさい。→N1504DE


次回は来年になる予定です。皆様よいお年を。私は冬コミに行って創作成分を補給して来ます。

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