53 嘘ついたらスライム百匹飲ます
半ば出任せみたいに言った、ラビリンを通じてやりたいこと。実はまるっきりの嘘ではない。多少見切り発車にはなってしまうが、ちゃんと前から考えていたことがあるし、勝算もある。
手短に掻い摘んでラビリンに計画を説明した。何段階かあるうちの第一段階だけだったが、体力の落ちている人に長々と話をする訳にもいかない。
「ラビリンには狩猟などではなく、町の中で働いて貰うことになるが、どうだ?」
「良い。好きで森に行ってた訳ではない。町で働けるなら助かる」
翌朝。これまでの分を取り返すかの如く、ラビリンは朝から食事を大量に食べた。
「兎なのに肉も普通に食べるんだな」
「今は栄養的に野菜だけじゃ足りない。兎そのものじゃなく獣人だからどちらも食べられる」
「ごもっとも」
「それに私は肉食系女子」
「俺の国だと、それ別の意味になるんだけど」
「地域によってはそういう言い回しがあることは承知しているが、どちらの意味でも問題ない」
「……さようですか」
食べ終わった所で、具体的な説明を始める。
「分かり易いと思うのでお金で話をするが、今のところ宿の部屋代が銀貨三枚、たった今ラビリンが食べた朝食が銀貨三枚、昨夜の野菜スープが銀貨一枚、合わせて銀貨七枚の貸しだ」
結局、昨夜はラビリンにも個室を用意して貰った。宿代はガナシュさんたちの好意で半額に負けてくれたが、支払いは俺がしている。
「なるほど、私はお金で買われたと」
「洒落にならない言い回しはやめようね!?」
「問題ない」
「こっちが問題あるっての。話を戻して、その分の労働として今からおつかいを申し付ける」
「承知」
「狩猟や採取をしていたのなら市民ギルドは知ってるな? まずはそこにこれを売って来てくれ。ただし、俺の依頼だというのは内緒で頼む。もし出元を聞かれたら、スタンピードの跡地で拾ったと答えてくれればいい」
ゴブリンナイフとダークラクーンの爪、それにオークの槍を、それぞれ一掴みずつ籠に詰めて渡す。スタンピードのドロップ品は自分で売ると足がつきそうなので、こういう機会は積極的に使って消化しておきたい。
「そしたら市場に行って、そのお金を使ってこの食材と調味料を買って来て欲しい。たぶん全部は揃わないから見つかった分だけでいいぞ。あ、字は読めるか?」
「問題ない」
「最後にそれらを俺が調理して孤児に夕食を振る舞うから、ラビリンは院長さんに調理場を借りられるよう交渉して、門の前で待っててくれ。その間に俺は猪肉を調達して来る」
肉も買ってしまえば早いのだが、昨日俺がギルドに売ったものを高値で買い戻すのも馬鹿馬鹿しいので、自力調達にする。今は朝食をとったばかりで、どうせ夕食までにはだいぶ時間がある。
「心得た。だがこれのどこがエージの利益になるか分からない。むしろ大損」
「食べて貰った後の話があるんだ。それは俺が院長さんと交渉する。振る舞うのはその口利き料みたいなものと、あとは味が受け入れられるかの市場調査だな」
「なるほど、院長の心証を良くするための経費」
「目的はそれ自体じゃなくて話し合いの内容なんだが、だいたいそういうことだ。じゃあ俺は行って来るから、おつかいは頼んだぞ」
「それは任せて。でもエージ」
「何だ?」
「私がこれを持ち逃げしたらどうする」
「その時は発見次第ミートパイにされる覚悟をするんだな」
地球で有名だった、なんたらラビットの絵本では、父親兎は人間に狩られてミートパイにされてしまったという設定だった。
「みーとぱい?」
「肉料理だ」
「食べられちゃうのはさすがに無理。別の意味でならともかく」
「またそういうことを……。ミートパイにするぞってのは俺の国での慣用句みたいなものだから本気じゃないが、わざわざそれを聞く奴は持ち逃げしないだろ。第一、これっぽっち持ち逃げしたところで一ヶ月も食えないけど、言う通りにすればずっと食って行けるんだから、それを選ばない奴は馬鹿だ。そんな奴は雇わなくて正解だから、後ろ指さして笑ってやるだけのことさ。俺がどうもしなくたって勝手に自滅するだろうしな」
「なるほど。その信頼には応える」
この日は早いうちに猪と遭遇できたので、まだ日の高いうちに孤児院に向かえた。ちょっと早過ぎたかもと思ったが、言いつけの通りラビリンが門の所で待っているので大丈夫そうだ。
「ラビリン、待たせたな。どうだった?」
「問題ない。調理場は許可を得た。院長を呼んで来る」
数分後、ラビリンと一緒に現れたのは、おばさんとおばあさんの中間くらいの女性だった。
「初めまして栄二です。このたびは急な申し出に応じてくださいましてありがとうございます」
「院長のエンダリアです。本日は子供たちの夕食をご提供くださるそうで。ご寄付はいつでも歓迎致します」
「失礼ですが、そこまで運営が苦しいので?」
「はい、残念ながら。領主様は最低限の運営資金はくださっているのですが、常に定員をかなり超過しておりますので、いつも予算オーバーといった状態です」
「なるほど。今日は美味しい……かは保証しかねますが、腹一杯になる食事を用意しますのでお任せください」




