52 助けたはいいけれど
年末のゴタゴタで掲載時間が不安定になっていることをお詫びします。
(何曜日の何時というお約束はしていないので私の勝手ではあるのですが……)
結局、狩りから戻って来ても、その女性は眠ったままだった。
「こういう時に、俺の魔法は役に立たないんだよな……」
倒れた原因が分からないと、どんな魔法をかければ回復するのか分からないのだ。
思えば回復魔法チートのお話は、必ずと言っていいほど鑑定とか分析とか診察とかの能力とセットだった。この状況に立たされてみて初めて、当然そうだよなということに気付く。ポーション作成チートならこんなことは考えなくて済むのでちょっとずるい。
「ま、そんな大層な能力がなくても見当はつくけどさ」
怪我でも病気でもなさそうで、明らかに体が細っている。十中八九、空腹で倒れたのだろう。
そこで、ユイナさんが席を外した隙にこんな魔法を唱えてみた。
「この子の血糖値が百五十になるまで血液にブドウ糖を注入!」
確か正常値は百四十以下だ。見立て通り栄養失調なら、多少投与したところですぐに吸収されてしまうだろうから、一時的に少しオーバーするくらいでも大丈夫だろう。戻って来たユイナさんに「もうすぐ意識が戻ると思うので、そしたら説明お願いします。俺は自分の食事に行って来ます」と言い残して食堂に行った。
帰りに野菜スープ二杯を注文して持ち帰って来ると、予想通り彼女は目を覚ましていた。ベッドについたままではあるが上体を起こしており、思ったよりも復活しているようだ。
「ユイナさんありがとう、もう仕事に戻ってくれて大丈夫」
「はい、では失礼します」
「さてと、おはよう。お腹空いてるでしょ、野菜スープ貰って来たから先にどう?」
「あの、その、いいのだろうか。何も返せないのだが」
「別に利益を期待して助けた訳じゃないから」
日本では人が倒れていたらとりあえず助けるのが普通だが、朝のガナシュさんの反応もそうだった通り、ここではそうではないようだ。もっとも現代地球でも、アメリカなら救急隊が「治療費を払えないなら助けない」と言い放つそうだし、中国に至っては下手に助けると賠償金目当てで加害者に仕立てられるから、義理がなければ助けないというのも考え方の一つではあるのだろう。
理屈としては納得しなくもないが……目の前にいる助けられた側の子が変人を見る目で俺を見るのは若干納得し難くもある。
「良く分からないが、おかげで助かったのは事実。正直空腹だ、冷めないうちにいただく」
温かいものを腹に入れ、やっと彼女も落ち着いたようだ。
「さて、ユイナさんから聞いてるとは思うが改めて。俺は栄二だ。この宿に部屋をとっているんだが、出掛けようとしたらあんたが道に倒れているのを見つけて、宿の人にここまで運んで貰った」
「承知している。感謝する」
「あまり詮索するつもりはないが、名前と倒れていた理由くらいは聞かせてくれるかな」
「問題ない。私はラビリン。この町の孤児。最近孤児院から出たが食い詰めていて、気付いたらここに寝かされていた」
「ふむ。仕事がなかったのか?」
「北の森で猟や採取をして糧を得ていた。だが先月スタンピードがあった。暫く避難してる間に蓄えが尽きた」
「そんなタイミングで孤児院を出た理由は?」
「孤児院は名前の通り孤児の居場所。それすら入れない子もいる、長居は出来ない。十三歳、子供でなくなったら出て行く決まり」
「なるほど、決まってるんじゃ仕方ないか。でもこの時期にスタンピードがあったのは不運だな」
「幸運か不運かで言えば不運。でもスタンピードの被害は私だけじゃない」
「得物が弓じゃ矢の購入費も馬鹿にならないだろう」
「ご賢察の通り。でも私がまともに使える武器はそれだけ」
女の子というのは永久にお喋りを続けられる生き物だと思っていたが、この子は寡黙なようだ。前世の知識があると、孤児だったことで何か人格に影響してしまったのではと心配になるが、さすがにそこまではどうにも出来ない。それとも俺が嫌われているだけか?
ひとまず事情は把握したので、次の話をする。
「で、今回はたまたま俺が助けてあげられたけど、今後はどうするんだ? このままだとまたすぐに倒れて、次は無事に済むか分からないぞ」
「それは分かってる。だがどうしようもない。わかった口をきかないでほしい」
「あいにくだが、俺も孤児なんだ。いや、もっと酷い」
激高しかけた所に素早くカウンターを入れる。ラビリンは一瞬だけ目をぱちくりさせると、すぐに疑わしげな顔になった。
「孤児、浮浪児、仲間意識強い。でもお前、この町で見たことない。別の町にいたのか?」
「それもよく分からないんだ。俺は記憶を失っていて、二ヶ月前に南の森で目を覚ましたのが一番古い記憶だ。俺一人、記憶はない、食べ物もない、森にはモンスターがいる。そんな大ピンチからこの町に出て来て、これまで何とか食いつないで来た。でもラビリン、お前は記憶がある、仲間がいる、町の中ならモンスターに襲われることもない。俺より条件はいいんじゃないのか」
「う……」
「ま、俺もそんな偉そうなことを言えたもんでもない。いくつかの幸運があって、ちゃんとした宿と、贅沢ではないけれど真っ当な食事を得られるようになっただけだし」
実際、幸運の連続で今まで生きて来られたようなものだ。偶然あった廃屋とか、偶然使えた魔法とか、偶然出会った人とか。
「そして良い知らせとして、今の俺にはラビリンを助けてあげられる当てがある。他に手がないというなら乗ってみないか? もちろん、ただの施しじゃない。俺にも俺なりの打算がある話だ」
「話はめちゃくちゃだが、私に価値があるというなら提案は前向きに受け入れたい」
「自分で言っといてなんだけど、物分かりが良過ぎないか?」
「大丈夫。私の第六感が反応してる、問題ない。愛人でも死ぬよりはマシ」
「そういうのじゃないからな!?」




