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46 分配と別離

「魔石ざっくざく〜」

 フィーレさんが上機嫌だ。スライム含め五万個もの魔石が三十分とかからずに回収完了したからである。

「それにしてもエージの魔法は便利ねー」

 広範囲に散らばった魔石をどう集めようかと考えた結果、まずは〝生活魔法・吸引力が凄い掃除機〟で集めてみた。最初は普通に吸い取っていたのだが、これだと小石が混ざるどころか石の中に魔石が混じっているような状態だった。

 フィーレさんはこれだけでも一粒ずつ拾い集めるのに比べれば断然楽だと言っていたのだが、他の人間が来る前には到底終わらない。そこで魔石が持つ魔力に注目し、それに反応して吸い寄せる魔法を考案して、これを魔磁石と名付けた。あとは電磁石で砂鉄を集める要領でただの石と魔石を分離。集め損ねた魔石も多少はあるだろうが、効率やタイムリミットを考えれば十分だろう。


「魔石は折半って約束でしたけど、鑑定に出せないんで重さで半分に分けていいですか。何か欲しい種類とかあれば多少は寄せますけど」

「お任せしちゃうわー。もともと全部倒せると思ってなかったし、エージの方がたくさん倒してるんだし、そもそも折半ってのも各自が好きに拾って確保のつもりだったから、第三者が来る前に拾えるのは二千もない予定だったのよ。それが二万以上になるなら何も文句はないわ」

「それならお言葉に甘えて。だいたい同じにしたつもりですけど、こっちの方が良さげな気がするんでどうぞ。俺は魔石以外のドロップも貰いますから」

「ありがとー。これだけあれば二年か三年は困らないわ」


「ところで、魔石を集めてどうするんですか?」

 改めて考えると、魔石の価値が良く分からない。何となく「ギルドに持って行くと買い取ってくれる物」という認識だったが、買い取られた物がどうなるのかは気にしていなかったのだ。漠然と討伐部位の扱いのように思っていたが、だとするとフィーレさんがわざわざ集める理由が分からない。フィーレさんはそれをヒュームに売る手段を持たないのに、即物的に役立ちそうなドロップには見向きもせず、魔石だけ欲しいと言っていたのだ。

「んー、ごはん? 魔族は魔力を摂取するのが元々の姿で、普段の食事もお肉やら木の実やらに含まれる魔力を食べてる感じなのね。で、魔石は魔力が凝縮されてるから凄く美味しいし、たくさん食べると強くなりやすいのー」

 魔力が美味しいという感覚は分からないが、言っていること自体はそれほどおかしなことではない。人間の味覚は飢餓対策として、熱量の高い糖分や脂を美味しく感じるようになっていると聞いたことがある。魔族にとって魔力が必須のものなら、味覚もそれに合わせ、魔力が多いものを好むようになっていてもおかしくないだろう。そして魔石は魔物の種類毎に特徴があるから、味もそれぞれ違いそうだ。


「ちなみに、町のギルドが魔石を買い取ってくれる理由は知ってますか? ヒュームは食べないんで、何に使ってるのか分からなくて」

「何かの金属を作る時に使うって聞いたことがあるけど、大部分は魔物の繁殖対策で集めてるだけじゃないかしら。魔物も魔力が必要な存在だから魔石を食べるんだけど、さっき言った通り魔石を食べると強くなることがあるのね。魔物の場合は亜種とか変異種とかに変化することもあるわ。そうすると討伐が難しくなっちゃうし、そうでなくても栄養状態が良くなって増えちゃうから、それが嫌なら魔物に食べられる前に回収したいわよね」

「じゃあ、どこかに使い道のない魔石が山積みに?」

「それはないわ。水に浸けると魔力が抜けてって、三日か四日で消滅しちゃうの。空気中の湿気にも反応するから放置してても一ヶ月前後ね。もし保存したければ油に入れておくのよ」

「なるほど、勉強になりました」


「魔石が片付いたから次はドロップね。エージ君、ドロップを貰うからって魔石を遠慮してたみたいだけど、こんな大量のドロップを運んだり置いといたりするアテはあるの? ゴブリンナイフだけでも三千本近くあるわよ?」

「ぎくっ。いや、どうせ売る訳にいかないんで、自分が使う分だけ集めればいいかなと……」

「そんなことだろうと思ったわよ。次元魔法を使えるなら異次元収納を教えられるんだけど、それは無理そうだからヒントだけ。エージ君のことだから生活魔法で代用できるんじゃないかしら。どうせ物置とか整頓とか唱えれば袋の中が広がって、魔力にものを言わせて広大な空間が出来るんでしょ」

「なるほど、その手が!」

「普通の人は出来ないわよ!?」

 暫く存在感を消していたケイが、突っ込むためだけに復活して来た。いつも通りで安心した。


「さて、私は用事が終わったからこのへんで退散するわ」

 お別れの時が来たようだ。魔族と人間がエンカウントしたら収拾がつかなくなってしまうので、見つかる前に移動してしまうのがお互いに幸せだ。

「渡した護符の場所なら探れるから、それを頼りにまた会いに来るわ。絶対捨てないでねー?」

「勿論ですよ。こんないい物を捨てるはずがありませんし、何よりフィーレさんからのプレゼントですから。あ、その巨大杖を捨てる時は必ず粉砕か焼却かして、人の手に渡らないようにお願いします」

 今のところ世界に二本とない強力な杖。俺が持っている訳にも行かず、フィーレさんが興味を示していたので譲ることにしたのだが、悪い人に使われたりしないよう、廃棄の際には使い物にならなくする必要があると考えた。フィーレさんが悪い人だったらそれは仕方ないが、多分そうはならないだろう。

「これも捨てないし、人に譲る気もないわよ。……それじゃ、またいつかー」

「はい、またいつか必ず」

 空を飛んで遠くに消えて行くフィーレさんを見送った。


 実のところ、それからの一時間強はかなり忙しく、しんみりしている場合ではなかった。町から人が来る前に、地形を戻してドロップを掻き集め、教えて貰ったばかりの〝生活魔法・片付け〟を試したら本当に使えたので使えそうなドロップを収納。使う予定のない弓や棍棒等は放置した。ハイエナの皆さんがそれらを拾って売ってくれれば、俺が拾った分を多少売っても、ハイエナ品だと勝手に思ってくれるので目立たなくなる。正当な戦利品をそう見られてしまうことに多少の抵抗はあるが、そもそも戦利品であることを隠蔽するのが目的の方策なので仕方ない。

 それらを全て終え周囲が元の景色を取り戻した後、見つからないよう森の中に隠れて変装セットを外し、土に埋めて〝生活魔法・堆肥化〟をかけることでそれらを証拠隠滅した。後はこっそり街道の方に戻って、避難中の(てい)で野営し直せば、俺と謎の魔族を結びつける物はなくなるはずだ。


 こうしてスタンピードは終結した。


まだ閑話を残していますが、これにて3章終了です。

これまで毎日更新を続けてきましたが、下記の事情により今後はペースを落とします。

・ここまでで書籍1冊分のボリュームに達した

 (※現時点で書籍化の予定は一切ありませんが、開始時の目標がここだったので)

・さすがに書き溜めが足りなくなってきた

・無職は無職で就活が案外忙しい

今月中は週2程度の更新として、年明け頃に様子をみて再調整しようかと考えています。楽しみにしてくださっている皆様には申し訳ありませんが、諸事情ご理解いただければ幸いです。

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