42 戦闘開始
最初は一匹二匹と数えられる程度だった魔物は、すぐに切れ目がなくなり、塊となって吐き出されるようになった。
「それじゃ迎撃開始で」
「はーい。燃えろ、焼けろ、焦げろ、発火、ゆーあーふぁいあ〜ど!」
まずはフィーレさんが快調に飛ばしている。火炎を。最後のは火の詠唱ではないはずだが、なぜか魔物の首が切られた。二重に意味を間違っているように思うのだが、結果として魔物を仕留められているので、今は気にしないというか、している場合ではない。
俺も予定通り行動を開始する。
「生活魔法・立体迷路!」
巨大立体迷路は遊園地のアトラクションや休耕地の余興であり、生活魔法の範疇だ……と言いたいところだが、この世界には遊園地のような施設が存在しない一方、洞窟こそ本物の巨大迷路っぽい。どうだろうと思ったが、事前に試したところ大丈夫だった。お城の庭園に生垣で作った小さなものがあるらしい。それを大規模に使わせて貰った。
当然ながら魔物を楽しませる為に作った訳ではない。まず単純に、壁が多数あれば勢いのついた突進を防げる。たったそれだけで戦線が余計な拡大をしないで済む。そして魔物は連携能力に欠ける。人間ならここは行き止まりだとか出口はあっちだとか伝え合ってすぐ突破するが、魔物はそれが出来ないので効果が高い。何より、足止めをしておけば−−
「いいですねー、簡単に当たるようになりました」
フィーレさんの魔法のいい的になる。
続いて迷路に罠を仕掛けて行く。
「生活魔法・落とし穴! 生活魔法・地雷原! 生活魔法・ツルツルの床!」
落とし穴は子供の悪戯の定番なので生活魔法で行ける。ちょっとだけ拡大解釈し、底に竹槍の剣山を設置した。地雷原は文字通りのそれではなく、多数の案山子が配置されており、一体ごとに〝発動のキーとなる行動や発言〟が設定されていて、それに抵触すると案山子が爆発する。つまり、俗に地雷発言と言われる方の地雷だ。魔物がいい感じにバンバン吹き飛んでいるが、そのたびに案山子を配置し直す必要があり、残り魔力と応相談だ。ツルツルの床は屋敷の掃除に使う生活魔法だが、そこに氷や油を併用することで、立ち上がれないし止まれないレベルにまでツルツルにした。足を滑らせた先に前述の落とし穴や地雷原があればどうなるかは言わなくてもわかるだろう。ただ、氷も油も火を受けると無効になってしまうのでフィーレさんとの相性が悪い。作り直すたびに魔力を消費してしまうので、これらを使うのはピンポイントに留めておく。
しかし、迷路に付き合ってくれないタイプの魔物もいる。空を飛ぶ奴らだ。二人の火力と制御力をもってすれば少数なら撃墜出来るのだが、多くなるとそうもいかない上、町の防壁も素通りされてしまうので少しでも討ち漏らすと被害が大きく、とても厄介だ。……普通なら。
「生活魔法・翼を折る天使! 生活魔法・イカロス! 生活魔法・ダウン、ダウン、ダウン!」
翼を折る天使。文字通り、天使っぽい何かが現れて魔物の翼を折っていく。翼を折られた魔物は当然飛べなくなって墜落する。呼び出しているのが実体のある本物の天使なら召喚魔法になるのだが、本物の天使ではなくそう見える幻覚のようだ。あと、天使の翼は折れていない。良く分からないが、そう言えとケイが必死な顔で迫って来たので従っておく。なんでも折れている方は地獄の集金人ラック・ジャスと結託しているので、それに襲われないための呪文なんだとか。
イカロスも標的を飛べなくする魔法だ。翼から羽根が抜け落ちる。翼に羽根のない蝙蝠や龍などには意味がないが、鳥系の魔物には効果覿面だ。これって地球の神話だったと思うのだが、同じような話がこちらにもあるのだろうか。
その流れでのダウン、ダウン、ダウン。フェザーをダウンにしてしまう魔法かと思ったが違うらしい。大きな穴とセットで使う魔法で、フルネームを「ダウンダウンダウン、シウェントダウンアビッグホール」と言い、対象をその穴を経由して異界に送り込むという。どういう理屈かは分からないが、卵やトランプの札、兎など特定のアイテムを撒いておくと効果が高い。俺の記憶にある地球の物語から輸入された概念みたいなので、何かの本に書いてあったのだと思われる。
約三十分経過。そろそろ迷路を踏破する魔物が出て来た。どこにも出口のない迷路を作ることも出来たのだが、壁を攀じ登って強行突破されると場所やタイミングの把握が難しくなって取りこぼしてしまう危険がある。目的は町の防衛なのでそれは避けたいと考え、必ず出口から出て来る方がやりやすいのでわざと残しておいた。町がある西側ではなく北側に出口を配置したので、これでそのまま北に進路変更してくれればいいのだが−−
「ま、そんな都合良くはいかないよな」
どういう誘導なのか、きっちりこちらに向かって来る。だがそんなことは当然予想の範囲だ。
「生活魔法・もうゴールしてもいいよね?」
これはゴールした、又はする直前の対象に、敵味方問わず状態異常を与える魔法だ。徐々に体の自由がきかなくなり、やがて息絶える。有名な古典魔法だが、この詠唱でなぜこのような効果が発生するのかは失伝して久しく、解明は空気を摑むような話だと聞く。ともかく無事に発動したようだ。
更に異常が効かなかった魔物に向けても魔法を重ねて行く。
「生活魔法・茨の道! 生活魔法・向かい風が強くて遅刻しました! 生活魔法・雨が降ろうが槍が降ろうが!」
向かい風で足止めして魔物を一ヶ所に集め、そこに槍を降らせて仕留める。茨の道は行動阻害とダメージ蓄積の両方が狙える便利トラップだ。
向かい風は大阪ではポピュラーというか古典的な言い訳であり、一種の慣用句に近いので生活魔法で発動可能だ。もっとも俺は実際にビル風で飛ばされかけたことがあるので、向かい風で遅刻することは有り得るように思う。茨の道も槍が降ろうがも慣用句の比喩表現であり、実際に存在するものではないが、だからこそ属性魔法でなく生活魔法で出せるという、裏技というか抜け道というか、恐らく各方面が想定していない魔法だ。この世界が現実でなくゲームなら、調整担当が吊るし上げられるレベルのバグだろう。
「巨大火の玉、行っちゃえ〜」
フィーレさんの炎が群れの中心付近で炸裂する。実のところ、火力に任せて大量殺戮をするなら迷路等の地上工作物はない方が効率が良い。強過ぎる攻撃は迷路ごと吹き飛んでしまうので調整が必要だし、遮蔽物があるだけでも威力が落ちてしまう。魔石を多く得るだけなら気にせず吹き飛ばしてしまう方が簡単なのだが、大雑把な攻撃だけに合間をすり抜けてしまう魔物も多いため、今回はメインの戦法には据えられなかった。勿論メインの手段ではないというだけで、必要なら躊躇しないのもまた当然であり、状況に合わせてそれなりの回数が使われているから、その痕跡である焼け跡やクレーターが草原には量産されているのだけれど。
「薙ぎ払え!」
ドカーン。
「どうした、それでも世界で最も−−」
「エージ君? それだと私が邪悪な一族みたいだし、出陣が早すぎて腐ってるみたいだからやめようね?」
フィーレさんに怒られてしまった。なぜ知っているのかは謎だけど。
「でも伝説級の火で魔物を倒すなら必須の言葉−−」
「私の名前をつける時に言ったわよね? その権力には喧嘩売っちゃダメだから」
「はい……」
ケイからも怒られてしまった。
でも言ってみたかったんです。
魔物が出て来る勢いはまだ強いものの、もう長くは続かない見込みだ。取りこぼしもごく少数に抑えられている。序盤戦は予定通りか、それよりもやや優勢に進められている。




