34 チート発見
俺の質問に対するケイの回答は至ってシンプルだった。
「やっと自覚したのね。岩塩も井戸の水も、蛇を凍らせたのも豹を運んだ道具も、これだけ流暢な翻訳も、おいしくなぁれで料理の味が変わるのも、全部とんでもない魔法よ」
「待って、美味しくなーれは知らなかった。あれは日本でも魔法の言葉とは言われていたが、魔法の意味が違う……ってそうじゃなくて」
ケイはとっくの昔に、それこそ俺がこの世界に来た初日から気付いていたようだ。
「エージって、たまに詠唱が雑なのよね。現象の内容が細密だったりざっくりだったりするのは仕方ないにしても、そこそこの確率で威力というか量の指定を忘れるものだから、精霊が満腹になるまで魔力を受け取っちゃってフルパワー出すのよ」
「いやまずそれがおかしい。そもそも事故るのは、詠唱した覚えがないのに勝手に魔法が発動する時なんだが」
「エージ、よく独り言を言うでしょ。イメージがあった、魔力は溢れてる、そこで関係する言葉を発したら、ほら魔法の条件が揃ってる」
「え……魔法ってそんな適当なものなのか?」
「まさか。そんな適当で発動する方がめちゃくちゃなのよ。うっかり発動しないように、独り言には気をつけた方がいいわよ」
「マジか……わかった。悪口を言ったせいで予想外に人が死んだりしたら大変だ」
「エージなら生き返せるんじゃない?」
「いやさすがに無理だろ。というか、そういう問題ではないとわかってて言ってるだろ」
転生チート、こんな所にあったのかよ。
でも大っぴらに使えないんじゃ魅力半減どころか九割引だ。
もっとも堂々と使えたところで生活魔法じゃ馬鹿にされるから、どっちにしても評価されようがない。
「で、これからどうするつもり?」
「どう、って?」
「エージは自分の力を知ってしまった。力を持った以上、その力の使い方には責任が発生する」
「そんな大袈裟……でもないのか」
「人の範疇に収まる程度の力ならまだしもね。とは言っても倫理とか道徳とかの難しい話じゃないから安心して。考えなしに使ってたら害ある存在として討伐対象になっちゃうわよってこと」
「まるで俺が化け物みたいな話だな」
「実際その魔力があれば化け物にもなれるんだから仕方ないわよ。で、エージが選べる道は大きく分けて三つよ。一つ目は、力を隠して今まで通り少し変わった狩人として生きる。でもこれはたぶん期間限定になるわ。かなりの確率で何かの拍子にバレるから。ただでさえ、もう嗅ぎ回られてるんでしょ」
「いきなり重いな。でも言い方はともかく既に目をつけられているのはその通りか」
ピエールさんが探しているのは俺だろう。今はまだバレていないが時間の問題だろうし、発覚したら強制連行確定だ。
「二つ目は、その研究所員に自首して国に協力していく。金も地位も、付随して女にも不自由しない生活が送れるし、それほど難しい立ち回りも必要ないから、多くの人はこれを選ぶわね」
「自首って何だ自首って。……身分は魅力的だが、今でもそこそこの生活は出来ているし、大きな組織の意向に振り回されるのはもうごめんだ。第一、研究所に連れてかれると戦場に引きずり出されそうだし、そもそも権力者どうしの陰謀とか苦手だから簡単に失脚させられそうだし」
前世では会社という大きな組織に振り回されてばかりだった。ましてや今回は相手が国になる。手を組んでいい相手かどうかは慎重にも慎重を重ねて見極めなければならない。
しかも成人したばかりの少年が人とは思えないほど強大な魔力を保持しているだなんて、長年の修行と研究の果てに最高機関に入った人から見れば嫉妬しまくりだろう。そんな中に放り込まれたら、二秒で謀略の限りを尽くされて追い落とされること必至だ。地位や名誉はあれば嬉しいが、なくても困らない類のものだ。プラス方向は無理に目指さなくても生きていけるが、もし冤罪で指名手配などマイナス方向の評価がついてしまったら、ここでの人生がハードを超えたアルティメットモードになってしまう。わざわざ罠に嵌められることが目に見えている場所に飛び込むのはごめんだ。
お金もそこらの町民よりは稼いでいて、そろそろ大きな買い物も考えていい程度には貯まってきている。女は……気にはなるが、俺自身でなくお金や地位が目当てなくらいなら、むしろ近づいて来ない方がいい。一度くらいはいい目をみてみたい気もするが、そこを緩くすると何かの時に大崩れするんだ。そういう人をいろんなニュースで見た。
「そう。じゃあ三つ目ね。その力をもって国からの干渉を拒絶する。これはよっぽどじゃないと難しいけど、研究所員すら圧倒出来るエージの力なら可能よ。ただ、やってみないと結果がわからないのが難点ね。物分かりが良い相手なら町の魔法使いとして穏便に暮らせるけど、悪ければ町の外を逃げ回りながら生きることになる」
「分の悪いギャンブルだな」
「そこで実力行使よ。どこかに留まっていれば兵を寄越してくるでしょうけど、それを退治し続ければそのうち諦めるでしょうし、反攻してどこかの村を支配しちゃえば再交渉も出来るわ。それとも手っ取り早く城を落として国ごと乗っ取るのがお望みかしら?」
「やることがまるっきり魔族じゃねーか! 今のところ王家に恨みはないから却下!」
ここの魔族がどういう存在なのか知らないけど。
「ま、ゆっくり考えるくらいの猶予はあるわ……と言おうと思ったけど、そうでもなさそうね」
「え?」
「後ろ、こっちに向かって来る人がいるわよ」
いつの間にか、一番バレたくない人がそばにいた。猫語にしておいて正解だったよ。
「おー、また会ったねエージ君」
「ああピエールさん。南門は俺の行動範囲ですから、そりゃね。研究所にお帰りですか?」
「いや、帰れなくなっちまった。早馬で連絡が来てさ、強い魔法が森の南方からこの街の近くに移動しているらしい。その記録をもとに、引き続きこの近辺を調査することになった。……街の中でも使われてると思われるそうだ、魔族が潜入しているかもしれないから注意してくれ」
後半は声を潜め、周囲に聞かれないよう教えてくれた。仮に魔族がいたとして、どう注意すればいいのかがさっぱりだが、そこを突っつくのも野暮か。
「そ、そうですか。それは危険ですね、忠告感謝します。ピエールさんこそお気を付けて」
「ああ、ありがとう」
「研究所員さん、かわいそうね。いもしない魔族に振り回されて」
「そうは言っても、俺の身の安全の方が大事だからな」
「今は言わないことを選んだのね。ま、こっそり私に相談してる時点で答えはわかってたけど。一度バレたら元には戻せないから、望まないなら隠す方が無難でしょうし」
「そういうこった。化け物や魔族だと思われてるのに、それ俺でーすなんて能天気に名乗り出るほどの馬鹿ではないつもりだ。討伐されるのはごめんだからな」




