30 ギルドからのお小言ふたたび
ドジーさんに言われて市民ギルドに行き、「新発見らしいので」と報告を始めたところ、すぐにエミリーさんが「窓口では判断しかねるので」とストップをかけ、なんだかんだでギルドマスターの部屋に連行された。
ギルドマスターはとてもガタイが良く、きっと凄腕の冒険者だったのだろう。あるいは今も魔物を倒して回っているかもしれない。顔もいかつく、わざわざわかりやすくしてくれているのかと思うほどギルドマスターらしい風貌だった。だが俺としては、いかついギルドマスターより、お茶を出してくれた女性職員の方を見ていたい。身長は今の俺より少し高いくらい、かなり明るい金髪は肩のあたりで切り揃えられている。少し垂れ目なイエローの瞳が特徴的な顔は、この世界での評価は知らないが、俺の好みだ。一般的な冒険者と同じような革防具に身を包み、腰にはショートソードをさげているので、普段は事務職ではなく現場にいるのだろう。ぱっと見はスレンダーな体型だが、それでいながら要所要所についている筋肉は、装備に見合った腕前を示唆している。
この人みたいな前衛と組めたら、だいぶ戦い方に幅が出るのだろうが、俺の戦い方はあまり人に見せられないし、そもそも胸を張れる腕前ではないから、今後もソロ狩りが続くだろう。
「君がエージ君か。活躍については前から報告を受けてい……余所見はもうちょっとバレないようにしろ」
「マスターを見ても目の保養にならないじゃないですか」
声をかけられ、俺は渋々女性から目を外し、マスターの方を向いた。エミリーさんはとっくに窓口に戻っている。
「なかなか大胆な奴だな。君がそう思うことは自由だが、今はお仕事だ。こっちと話をしてくれ」
「ああ、悪かった」
「という訳で早速片付けよう。ここ数日の買い取り履歴を見せてもらった。出現した魔物に関しては報告通りのようだな」
「嘘をついたって鉄貨一枚にもなりませんからね」
「そうなんだが、目立ちたくて無駄に法螺を吹く奴も結構いるんだよ。まず廃村、これは報告と魔石からゴブリンメイジで確定だな。既にギルドで討伐隊を募集しているが、まだ集まっていない。安全のことを考えなければ、一人で倒せるならもう一度行って来て欲しいくらいだ」
「魔石以外に素材が取れないから、危険な割に収入が少ないんですよね……」
「こっちにも予算とか相場とか優先順位とかいろいろあって、全てに十分な報酬をつけることはできない。そこは容赦してくれ。次に岩山、あの場所にハーピーがいるという報告は初めてだが、生け捕りで持ち込まれているので疑いようがない。危険情報として貼り出しておく。少しだが情報料を出すので、今後はすぐ報告するように」
「それはありがたい。以後気をつける」
「次は草原だな。襲って来た馬車は三角を二つ並べた印をつけていたってことで、トリゴン馬車商会に違いない。後出しだが護衛の現地依頼を出させよう。所属メンバーに危害を加えようとした上にタダ働きまでさせたとなると、ギルドとしても黙っている訳にはいかないんで、交渉はこっちでやる。ただ自力で解決できなかった扱いになるので、交渉の手間分はポイントを引かせてもらう」
「十分だ。あいつらともう一度やりあうのはごめんだからな」
「湖は特に新しい敵ではなかったようだが、漁のために魔法をそんな使い方した奴は聞いたことがない」
日本では既に禁止されているダイナマイト漁だが、この世界では禁止もなにもそもそも存在しなかったようだ。
「珍しいとすれば、鰐が干からびるまで逃げ切ったことくらいか。最後、問題は遺跡だな。昨日の買い取り台帳には銅スクラップと書かれているが、これがゴーレムの一部だったという理解で合っているか?」
「昨日売った銅はそれだけだから、そうなるな」
「なるほど。幸いまだ持ち込まれたままの状態で残っているそうだ。実物を一緒に見たいので来てくれ」
俺もそうだが、冒険者や狩人の多くは朝に出発して夕方に町へ戻り、得たものを売る。それらの大部分はギルドに持ち込まれるため、夕方から夜にかけての間、ギルドは傷みの早い食材や急ぎの処理が必要な製薬素材を優先的に処理する。それら急ぎの物が終わったら夜更けになってしまうので、解体担当の職員は一旦帰宅し、数日なら劣化しない角や殻、そして金属などの処理は翌日の昼に回されるという。今回はそれが幸いし、銅素材と思われたゴーレムの残骸はまだ手付かずの状態で仮置き場に鎮座していた。ゴーレムは魔物だが全体が素材なので、体のほぼ全てがドロップになるのだ。
「さて、倒したゴーレムの破片……と呼ぶには大きいが、これで間違いないか?」
「はい、これですね」
「なるほど、この状態で見てもゴーレムとはわからん。職員が銅スクラップと書いても当然だな」
「持ち帰りやすくするために加工しちゃいましたからね。じゃあ元の形に戻すんで、ちょっと待っててください」
元ゴーレムの銅塊は、そのまま持ち帰るのは困難だった。現地に適当な材料もなかったので荷車も作れなかったため、原始的な方法を使うしかなかった。「生活魔法・折り曲げ」で樽型に丸め、転がして来たのだ。
ただ、これまでの経験をもとに多少の工夫は施している。樽型なのは、以前に大蛇の氷漬けを転がした時に球形では効率が悪かったからだ。その時は俵型にしたが曲がりにくくなり過ぎたため、今回は間をとって樽型にした。また転がす方法も、腕力ではなく〝生活魔法・輸送〟によって魔力で運んだ。俺も日々成長しているのだ。
とはいえ、最低限の手間しかかけていないのでそれほど大きな変形はしていない。そしてもともと一体分なので、複数体をパズルする手間も不要だ。樽型の塊をほぐし、元の形がわかるよう並べ直すのには三分とかからなかった。
「おお、これは確かにゴーレム……」
「俺がゴーレムっぽく銅を捏ねただけかもよ?」
もちろん本物のゴーレムなのだが、ギルドマスターが簡単に騙されるようでも困るので、区別がついているのか確認してみる。
「俺もプロだ、そのくらいは見ればわかる。そしてゴーレム最大の特徴は、頭と胸の二ヶ所に魔石があることだ。お前さん知らんかったろ、ちょっと割ってみな」
装甲を切り裂いてみたところ、言われた通り魔石が二つ出て来た。魔石は魔物ごとに特徴が異なるため、他の魔物の魔石を埋め込んで偽装してもすぐバレる。
「これが提出されていれば窓口でもゴーレムだと気付いただろうが、知らなかったものは仕方ない。銅素材としての代金は支払い済みだが、この魔石の代金と情報料を追加で支払おう。そのかわり、少しでも異変を感じたら速やかに、遅滞なく、出来るだけ早く連絡をして欲しい。さっきも言ったことだが念押ししておく」
こちらを睨みながら、一言ずつ区切って、威圧をかけて〝お願い〟をしてくる。
「元々を知らないので異変かどうか判断つかなかったんですが、まあ善処します」
「やる気なさそうな回答だな。……わかった、次に有用な情報を報告してくれたら、リズとのお茶会を用意してやろう」
「リズ?」
「リザベラ。さっきお前がガン見してた娘だよ」
「そんなの断りなく約束しちゃって大丈夫なのか?」
「大丈夫だ、そこは任せてくれ」
「そうそう都合良く報告事項が起こるかはわかりませんが、それなりに期待しておきます」
俺は仮置き場を出て、今日の依頼を探しに行った。ギルドマスターは自分の執務室に戻って行ったようだ。
その数分後、マスターが戻った執務室にて。
「という訳でリズ、その時は相手してやってくれ」
「はい!? 突然何を勝手に約束してくれちゃってるんですか!?」
「お茶くらいはいいだろう。それにあいつを田舎者と馬鹿にしない方がいい。どこか抜けているが性格は悪くないし、何より腕は確かだぞ。この一週間で金貨五十枚ほど稼いでる」
「勝手にダシにされるのは納得いきませんが、マスターがそこまで言うのは珍しいですね……」




