29 聞いてたのと違う
先週ドジーさんに教えてもらった狩り場を一通り回ってみたのだが、どこもあまり良い成果は得られなかった。
「もう近所の狩り場は他にないから、これ以上エージに教えられることはないんだが、それぞれ何があったか一応聞こうか?」
「じゃあそれで。まず初日は廃村に行ったんですけど、そしたらゴブリンが群れてましてね?」
「俺が教えた通りだな」
「皮膚が緑色で、手足が短めで、ギャーとかギーとか叫んでて、」
「まあゴブリンはそうだよな」
「体長が二フタヤくらいあったんですけど、」
「え?」
「そいつらがストーンバレットとかアイスニードルとか唱えてくるんですよ」
「おい待ってくれ。後半は俺の知ってるゴブリンと違うんだが」
聞いていた話では、ゴブリンの背丈は十二から十五デシメ、百二十から百五十センチほど。そして知能は低く、棍棒やナイフを振り回すくらいしかできない。ところが遭遇したそいつは三メートル半はある巨大なもので、しかも初級とはいえ魔法を使ってきたのだ。
「俺も何か話が違うぞって思って、慌てて障害物に隠れて反撃して、なんとか二十匹くらい倒したところで残りは逃げてったんですけど、魔石を持ち帰ってギルドに出したら何やら騒ぎになってですね、上位種のゴブリンメイジに違いないと」
「あっさり言ってるけど、ゴブリンの中でも結構上位の種類だぞそれ!?」
「次の日に見たら、討伐隊募集の緊急依頼が出てましたね。もう倒したのに」
「一匹でも結構厄介な奴だからな!? 逃げたのが何匹もいたら十人くらい集めないとまずいぞ」
「聞いてた通りのゴブリンなら悪くないかなと思ったんですけど、あいつだと一発食らったら大怪我するんで、ちょっと難しいかなーと」
「ゴブリンメイジの群れなんて、ちょっと難しい程度の話じゃないからそれはわかるんだが、むしろなぜ勝てた……」
余談だが、この世界では獣と魔物が明確に区別されている。
地球の動物に似ていて倒した後に死体が残るものは全て獣だ。角でも毛皮でも好きな部位を剥ぎ取れる一方、倒す時にその部位を傷つけないようにする必要があるし、解体の手間もかかる。また魔石は持っていない。もちろん猪は獣になる。
では魔物はどうかというと、ドロップと呼ばれる置き土産と魔石を残して体が溶けるように消えてしまうのだ。ドロップは体の一部や使っていた装備品及びアイテム等のうちどれかになる。取れる物を選べない一方、どんな倒し方をしても一定の品質の物が得られる。そして結構な確率で、地球には存在しない姿形をしている。ゴブリンはこちらなので魔物。
獣と魔物の両方を総称したい場合はモンスターだ。
「二日目はちょうど依頼があったんで岩山に行きまして」
「実は上位種に懲りてなかっただろ、わざわざそっちに行きやがって」
「依頼は山羊の生け捕り二頭だったんですけど、」
「その時点で無茶な気がするんだが」
「大きな人面鳥が襲ってきましてね」
「ハーピーじゃねえか!」
「あっちの睡眠歌とこっちの睡眠魔法で相討ちになったんですが、幸い周囲の生き物も皆ダブル睡眠で眠ってたんで、一命を取り留めましたよ」
「それは一生語れる武勇伝だな」
「連れて帰る山羊も眠っちゃったんで、持ち帰るのが大変で……」
「もはやそっちはどうでもいいよ!」
「ハーピーも生け捕りにしたからお金にはなったんですけどね」
「どうでもよくなかった!」
「次の日は草原に行ったんですよ」
「盗賊にでも出くわしたか?」
「いえ、会ったのは乗合馬車だったんですけど」
「やっと普通になったな」
「逆に俺が盗賊に見間違えられまして、護衛三人に襲われました」
「普通じゃなかった」
「盗賊じゃないぞってことを示すのに鉄貨を投げつけて迎撃したんですが、」
「それも普通じゃないな」
「金目当てではないことが一番わかりやすいかなと思って。俺の生まれた所には貨幣を投げて敵を倒す警備兵の物語があったから真似したんですけど、相手が案外弱くて怪我させちゃいまして」
「まあ命のかかってる勝負だからそれは仕方ないな」
「護衛が働けなくなっちゃったじゃないか、責任とってここから町までお前が馬車を護衛しろと。稼げると聞いて行ったのに、いろいろ大赤字でしたよ」
「いや、そこまで責任はないと思うんだが」
「逆ギレした御者が魔物よりよっぽど恐かった」
「あー、それは否定しにくい……」
「その次は湖で」
「今度は何だ」
「ここには大物が出ると聞いてたんで、遭遇した時に気を逸らすための肉を最初に調達しようと考えた」
「珍しく慎重かつ合理的な行動だな」
「前にギルドの親切さんが教えてくれたからな。ところで他の行動はそうじゃないとでも仰いますか」
「俺の常識とは違う行動がいろいろと」
「そうなのか……。話を戻すが、まず餌用の肉食魚をいくらか捕まえようと思って水中で魔法を爆発させたんだが、」
「俺の考える慎重かつ合理的な方法から速攻で離れたな」
「思惑通り気絶した肉食魚が浮いてはきたんだが、鰐が爆発に驚いて凶暴化しやがりまして」
「いろいろ無茶してるよこの人!」
「一斉に追いかけられて、砂地まで逃げる破目に」
「よくそこまで逃げられたな」
「そしたら勝手に干からびてくれたんで助かった」
「雨じゃなくて良かったな……」
「肉と革でこっちの財布は潤ったけどな」
「誰がうまいこと言えと!」
「最後、昨日は遺跡だった」
「あの場所はさすがに変な要素などないはずだが」
「俺もそう思ってのんびり薬草を集めてたんだが、歩いてたら踏んだ所からカチッて音がして、足元がパカッと」
「あの遺跡に罠があるなんて聞いたことないぞ!?」
「俺もなかったな。それで戻れる場所を探して通路を探ったんだが、次から次へとゴーレムばかり出てきてだな」
「大発見じゃないか! てか、よく生きてたな!」
「動きは遅かったから足止めして逃げてきたんだが、土ゴーレムは素材がとれないし、金属ゴーレムは固いし、稼げないのに消耗が多くて参った。最後にカッパーゴーレムを一体だけ仕留めたんだが、今度は持ち帰るのが重くて重くて」
「倒せたのもとんでもないが、持ち帰ろうとしたのかよ」
「手ぶらじゃ赤字だから仕方ない。小さいやつなら大丈夫かなと思ったんだが、思ったほど大丈夫ではなかったな……」
「まあ話はわかったよ。このへんでいい場所が見つからなかったんなら、あとは拠点を移動するしかないだろうな。町の人間としては勧めたくないが、ここに留まる理由もないだろ?」
「それもそうか、わかった考えてみる。やり残してることもあるんで、それまでは南の森に戻ろうかと思う」
「それと、相談するなら俺じゃなくギルド職員の方がいいだろうな。重要な話をいくつか聞いた気がするんだが、その調子だと報告してないだろ」




