27 ギルドからのお小言
だいぶ日が傾いた頃。俺は今日も、捕らえた猪の売却をするために市民ギルドに来ていた。
「お待たせしました。まず猪の肉が五十グタリで金貨一枚、皮が銀貨一枚、牙が一対で銀貨二枚ですね。それと巨大蜂の針が金貨二枚、顎が一対で金貨一枚、羽が一対で同じく、毒袋が銀貨五枚、複眼がセットで銀貨八枚。ここから解体料の銀貨五枚を差し引きまして、しめて銀貨六十一枚になります」
そうだった。今日は蜂も持ち込んでいたっけ。
「了解した。五十枚は預金にして、残りを現金で頼む」
「かしこまりました。今日も大儲けですね」
「蜂は肉がとれなかったからそれほどでもないかな。でも俺は大物は狙ってないというか、そもそも無駄に襲われてるだけで、毎回死にそうになるからむしろ避けたいんだが」
「それ、あまり大声で言わない方がいいですよ。倒したくても倒せないどころか、それ以前になかなか遭遇できない冒険者の方が圧倒的なんですから。実際、そこの三人組、巨大蜂の討伐依頼を受けてるんです」
「ああ、あれは『こっちは依頼を受けて探しても見つからないのに、受けてないお前が何で倒してるんだ』って顔なのか」
「そういうことです。そもそもエージさん、これだけいろいろ狩ってるのに、ギルド依頼を全然受けてませんよね?」
「さっきも言ったけど、依頼云々以前の問題として、俺はこんなのに遭遇したくないんだが……。そもそも俺は冒険者じゃないし」
「うちは市民ギルドなので、冒険者に限らず広く市民に門戸を開いていますし、ギルドは常に新しい才能を求めています。能力がある人にはできるだけ依頼を受けていただきたいと思っています。子供でさえ小遣い稼ぎで依頼を探すんですから、職業がどうのとかどうでもいいです」
「どうでもいいって言っちゃったよこの人。で、依頼を受けると何がいいんだ?」
「依頼を受ける人にとっては、同じ獲物を持ち込んでも、ギルドで引き取るよりも依頼報酬の方が高額です。依頼を出す人にとっては、何が欲しいか指定できるので、緊急だったり品薄だったりするものを入手しやすくなります。ギルドというか領主様にとっては、それで経済が活発化すれば税収が上がりますし、自前の軍を出さなくても依頼ひとつでいろいろ片付いて便利ということです」
「あー、買い取り表の価格より高く引き取ってくれたことが時々あったけど、それは依頼がかかってたってことか」
「今まで知らずにやってたんですか……」
「知りませんでした。ほら俺って子供だし、森から出て来たばかりだし」
「では今日覚えて下さい。持ち込まれたものに偶然依頼があった場合は、後付けで依頼を受けてたことにしてその値段でお支払いしてます。でもそれだと依頼の意味があんまりないんで、できれば先に依頼を受けてそれを納品してほしいんです。受けないにしても、せめてどんな依頼があるかくらいは見てから狩りに行って欲しいものです」
「そうは言われても、猪以外を探すつもりはないんだが。強い奴に見つかったら死ぬし」
「でも今まで全部倒してるじゃないですか。それで他にもメリットはありまして、ここラミスクでは独自のポイント制度を実施してます。依頼を達成すると難易度に応じて決められたポイントが獲得できます。ただ依頼を失敗したり、長期間活動していなかったりすると減らされます。ギルドポイントは討伐・採取・護衛・生産などの種類がありまして、依頼によっては護衛ポイントがいくつ以上の者などと条件がつくものもあります。ポイントが多ければそれだけで信用とか尊敬とかにつながりますし、合計二千ポイント以上になると町民登録の費用が免除、五千ポイント以上で素材買い取り額一割増しなど特典もあります。皆さん目の色を変えて獲得に励まれてるものなので、せめてエージさんも気にするくらいはされた方がいいですよ」
「なるほど、多少の優遇で優秀な人がラミスクに居着いてくれれば、領主様としては安いものって訳だ」
「もうちょっと穏便な言い方がありそうですが、正直そういう面もありますね。まだ達成された方はいませんが、三十万ポイントで領主様のご子息ご令嬢と結婚できる権利もありますから、実力のある人を取り込みたいという気持ちは強そうです」
「まじか。自分の子供を景品にするなんて、領主様は何を考えてるんだか」
「大丈夫ですよ、ただの見せ玉です。三十万ポイント集めようと思ったら、魔物討伐の依頼を受けた上で数千匹は倒さないと無理ですから、千年に一度の勇者が偶然この田舎町に現れたりしない限りは達成できません。それに案外、お子様たちも納得づくかもしれません。そこまでの腕がある人なら、他をさしおいて結婚しても損はしないはずですから」
「エミリーさんも言い方が容赦ないような。でもまあそういうことなら……」
「依頼を受けてくれますか!?」
「やっぱり依頼は無視していいやと思った」
あ、エミリーさんコケた。
「どうしてですか!」
「言わなくても俺の次にエミリーさんが良く知ってるでしょ。俺の町民証、毎日のように見てますよね?」
「はい、手続きに必要ですから。エージさんは何だかんだでもうすぐ討伐三百ポイントです」
「魔法適性が生活だけしかないなんて、ポイントとやらでひっくり返せないくらい信用が怪しいと思うんだけど?」
「いや大丈夫ですから! むしろ実績があれば能力は気にされなくなりますから! そこまで言うならこちらにも考えがあります、私の権限で強制的に、このヒュージグリズリーの依頼を押し付けます! 安心してください、討伐百五十ポイントの高ポイント依頼ですよ!」
「安心できるか! 大物は命が危険でデンジャーが危ないっての! 薬草三十本とかの安全なやつにして!」
「中級モンスターを仕留められる人が初心者向けの依頼を横取りしちゃダメですよ! ……仕方ありません、今日のところは諦めます。その代わり、ちょっとご相談なんですが」
「今度は何だ?」
「買い取り代金に銀貨五枚を上乗せしますから、この蜂はあの三人組とパーティを組んで倒したことにしてくれませんかね。依頼料を考えるとそれでも彼らはプラスですし、エージさんも依頼を受けて倒した扱いになりますから討伐ポイントがつきますよ。……あ、エージさんコケた」
「そんな緩いことでいいんかい! あれだけ重要そうに話してた制度なのに、受付嬢が不正を斡旋してどうするよ!」
話が長引いていることを不審に思って様子を見に来ていたエミリーさんの上司に聞き咎められ、二人揃って会議室に連行された。その人によると、ポイント制度は実力に見合わない依頼を受けさせない為の方便というのが裏目的であり、討伐できる者がポイントを得る分には大きな問題ではないという。また依頼が早期に達成されることが依頼者に一番喜ばれるそうで、悪いようにはしないから依頼消化に協力してくれとのこと。前から〝この依頼は既に二組が受注しています〟とか書かれた依頼書が平気で貼ってあるのを不思議に思っていたが、謎が解けた。
一方、エミリーさんは「いくら公然の秘密とは言え、そういう細工を大声で言うものではありません」とか「受付が冒険者に依頼を押し売りするなんて言語道断です」とか説教されていた。俺は冒険者じゃなく狩人なんだが、口を挟むと長引きそうなので今回は黙っておいた。




