↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/58

25 買い物

「杖に限らず剣でも斧でも、形状やバランスは本人が馴染めば問題ないし、価格もあまり変わらない。だが魔法職の場合はそれ以上に大事なことがあって、武器には魔力回路を書き込んだものがある。というか杖系の殆どには書き込まれていて、その内容が性能や価格に直結する」

「その魔力回路って何なんだ?」

「魔力回路は魔力効率を倍増させる紋様で、武器に描いたり刻みつけたりするとその効果を得られる。基本は二倍、三倍、五倍の三種類で、たとえば二倍回路と五倍回路を一つずつ持つ武器なら十倍になるんだ。他の倍率の回路もあるにはあるが、複雑で作るのが難しいから滅多に見ない。それくらいなら基本回路を組み合わせるさ」

 ちょっと待った。装備で効率がそこまで変わるのか? だとすると俺が装備を見直したら、水をトン単位で出せるってことか? まさかな……。

 今まで杖系装備がなくても何とかなっていたことは黙っておこう。そうだ、ちょうどいい隠れ蓑がある。

「このロッドは貰い物なんだが、これにはその回路があるかな」

「ん? あー、これはまたわかりやすい三倍杖だな」

「三倍杖?」

「ほら、ここに回路が書き込まれてる。これは三倍回路だ。三倍が一つだけの武器は三倍杖と俗称されている。まだ五倍回路を作れない見習いが練習のために三倍を量産するし、そもそも一般的な木で作る武器は三倍が限界だ。一方、駆け出し冒険者は二倍じゃ物足りないが四倍から急激に価格が上がる。そんな生産者の供給と冒険者の需要が噛み合っているボリュームゾーンで、要するに安物の代名詞さ」

「ちなみに最高級だと何倍くらいだ?」

「国宝として飾られている武器なら五倍が二つの二十五倍ってのがあると言われている。実用されてる範囲の話なら、二倍三倍三倍の十八倍を持つ冒険者がいると聞いたな。二倍二倍三倍の十二倍までなら頑張ればお金で買えるが、三倍五倍の十五倍になると見掛けることすら少ない。普通の冒険者が使えるのは三倍三倍の九倍がいいところだな」

「なるほど、魔力回路については理解した」

「飲み込みが早いようで感心だ。で、何を買うかね?」

「最初だから、ど真ん中のスタッフにしよう。見た目も機能も価格もそんなにごつくなくて、扱いもシンプルなやつが希望だ。駆け出しが大層なやつを持ってても絡まれそうだからな。お値段はいかほどだ?」

「材質によるな。普通の木製ならさっき言った通り三倍止まりだ。これは金貨三枚。その次は鉄か聖木になるが、重いのが嫌なら聖木だな。魔力回路は二倍三倍の六倍がつけられて金貨十枚。まあそれは値札のお値段だ、八枚に負けといてやるさ」

「その割引の理由は?」

「粗製乱造の店でなくうちを選ぶ眼力があるなら、長生き出来るだろう。今後も贔屓(ひいき)にしてくれると見込んでの分だ。第一、値札の価格は一見さんとか気に入らない奴とかに吹っかける用の適当な金額だ。どうせ安くしろと言われるんだし、むしろこっちが定価と言っていい」

「ということは、他の店で買い物をする時も誰かの紹介だと考えてくれたりするのか? 革鎧を考えているんだが、革屋を紹介してくれたりは出来るか」

「そういうことなら喜んで。革屋の客を増やせば俺の仕入れ値も安くしてくれるってもんよ。そうだ、バランスを見るからこれを持ってみてくれ」

 他にも希望をいくつか伝えてから前金で金貨八枚を払い、割り符と紹介状を受け取って、店を後にした。在庫がなかったので、納期は五日ほどかかるらしい。


「失礼する。ここがタルクスさんの店で合っているか?」

 当然、次に向かったのは革屋だ。

「いらっしゃい。確かにタルクスはうちの主人だね」

 典型的なおばちゃんが店番をしていた。店主の奥さんらしい。

「紹介で来た。革鎧を考えているので教えて欲しい」

 紹介状を渡したが、中身は一秒も見ていなかった。あの武器屋の筆跡でさえあれば内容はどうでも良かったらしい。実際、内容も〝うちの客だ、よろしく頼む〟くらいしか書いていなかった。確かに用件はそれ以上でも以下でもない。

「へえ、あいつが紹介を寄越して来るなんて珍しいこともあるもんだね」

「俺が頼んだんだ。腕のいい革屋はどこか聞いたついでに、全くの一見よりは良かろうと思って」

「それなら納得さね。あんた若いのにしっかりしとるね」

 豪快に笑い、そのままの勢いで豪快に肩を叩いて来る。ちょっと痛い。肩叩きをされるのは前世の会社だけで十分だ。

「いや、森から出て来たばかりで、わからないことだらけだ。革鎧の基本から教えて欲しい。俺は狩人で、冒険者じゃないから対人戦は想定していないが、お勧めはあるか」

「スタイルがオーソドックスなら、装備もオーソドックスでいいさね。先人がいろいろ工夫して来た結果さね、目立った短所がないって意味で間違いがないさね。今まで何もなしで戦って来たんなら、まずはこのベーシックなやつでやってみるさね。不満が出て来る頃には寿命になるから、そしたら買い替えの時に自分らしいのを持てばいいさね」

「とても良くわかった。確かに使ってみなければ不満も何もないな」

「物分かりのいい子は大成するさね。で、うちでは基本料金で小効果が一つ付けられるけんど、何にするさね」

「効果? どんなものがあるんだ?」

「上半身の装備は効果の種類が一番充実してるさね。体力か魔力の増加もしくは回復力上昇、属性どれかの耐性アップ、腕力か素早さの上昇から選んでほしいさね。別料金だと即死攻撃耐性や詠唱速度短縮、環境適応なんかもつけられるし、逆にどれも要らないなら、代わりに防御力か防具耐久の強化をかけることもできるさね。それすら要らないからデザイン最優先って人もいなくはないけど、まあ参考にはしない方がいいさね」

「なるほど。最後のはともかく、結構迷うな」

「追加料金で増やすことも出来るけど、初級レベルの装備じゃ二種類目の追加がせいぜい、それに金属鎧と違って消耗品に近いから安物をわざわざ強化する人は少ないさね。んで初級者が繰り返し特定の強敵を相手にすることはまずないから、耐性はあまり意味がないさね、それ以外で得意を伸ばすか不得意をカバーするか考えるといいさね」

「それなら素早さにしよう。魔力は足りてるし武器で補助できる。逆に体力や腕力を多少増やしたところで高が知れてる。そう考えたら食らわないことが一番だ」

「素早ければ手数も増えるさね、後衛ならいい選択さね。んじゃ、基本の革鎧にお手入れセット付き、紹介割引で金貨十七枚さね。どうかね?」

「ではそれでお願いする」

「そんじゃ採寸するさね、ちょっと待っとってね」

 ここは辺境の地でモンスターは多い一方、辺境ゆえに対人の戦争とは縁遠いため金属鎧はあまり売れないそうだから、革鎧は数が出るのだろう。店には活気があった。


 その後は雑貨屋に立ち寄った。獲物を入れる用の麻袋、メモ用の筆記具と羊皮紙、その他細々とした日用品を買って宿に置き、残った金貨をギルドに預け直した。昼食の後は狩りに行き、猪を落とし穴に嵌めた上で一酸化炭素で窒息させて仕留め、またギルドに行って売り払った。猪一頭を毎日のノルマにしておけば、売却代金が宿代と食費を上回るので、食い詰めることはない。

 ちょっとした事件があったのは夕食で、食堂のメニューにファイアレパードの肉があった。そんなおっかないモンスターを誰が仕留めたのかはさっぱりわからないが、言われた通り人気がないらしく割安だった。値段につられて頼んでみたところ、外見のせいなのかピリ辛。むしろ酒に合うと思うのだが、ここの人たちの口には合わないのだという。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。