24 実験の結果と考察
エリーたちが帰っていった後、そのまま食堂で夕食を済ませ、ようやく部屋に辿り着いた。
すぐにベッドで横になり、いつでも寝られるようにしてから、今日の振り返りと明日の予定を考える。
まず、今日わかったこと。予定していた実験は、猪を倒す前に結果が出ていた。土壁を求める魔法、つまり土属性の詠唱をした時は不発に終わり、獣除けの壁を求める魔法、つまり生活魔法の詠唱をした時は発動した。どちらも全く同じイメージをしたにも関わらず、結果が違った。
なので俺の魔法は、力で強引に属性魔法を出しているのではなく純粋な生活魔法であり、詠唱とイメージの工夫というか柔軟な思考というか、まあ言ってみれば小細工によって戦闘に使えるようなものを出しているに過ぎない。
小細工と言うと微妙な印象だが、実のところこれは悪いことではない。適性が低いのに力づくで属性魔法を出している場合、どうしても余分な力が必要となり、魔力なり体力なりを必要以上に消耗することになる。だが生活魔法を使っているだけならば自身の適性そのままであり、余計な消耗はない。しかも生活魔法はもともと省燃費なので継戦能力に優れるはずだ。生活魔法の何が問題かと言えば威力だけなので、十分な威力が出るならばそれで問題ない。そして火でも水でも何でも出せる。相手に弱点となる属性があれば必ずそれを衝けるので、むしろ特定の属性しか出せない属性魔法よりも実戦では優れるのではないか。
そしてこれらの新たな疑問も、偶然にも豹と出くわしたことで解決している。豹が苦手とする水を使うことで相手の攻撃機会を潰し、戦闘がかなり有利になった。もし自分が風魔法使いだったらこうは行かなかっただろう。そして足止めに使った水は優に百リットルを超えていたから、継戦能力に関しても十分ありそうだ。ただ俺の場合は素早く倒さないと自分の命が危険なので、その有り難みを感じる場面はあまりないかも知れない。誰か前衛と組んでタフな敵と戦えばそういう事態もあるのだろうが、今のところその予定はないからな。
そう言えばガイドブックに、一日に水を千グタリ、つまり百リットル出せれば生活魔法使いとして中級の仲間入りだと書いてあった。二頭立ての馬車とその乗員が必要とする水の目安がそのくらいなので、水を積まなくて良くなるからだという。それなら俺も一人前の生活魔法使いを名乗って良さそうだ。今日は水以外にも壁やら電撃やら台車の工作やらにも魔法を使ったから、水だけに集中すれば三百リットルは十分いけるだろう。しかも魔力が欠乏する感覚はなかったから、まだ余裕がある。いつも通り槍を装備していたが、ガナシュさんがくれたロッドにすれば更に伸びることも期待できる。上限がどのくらいなのか、いずれ試してみた方がいいのだろうが、優先順位はそれほど高くないな。
さて、次は明日の予定だ。まず、いつまでも小屋から持って来た槍とナイフで戦う訳にはいかないから、武器を調達したいところだ。幸い魔法メインでいけるとわかったので、それに合った武器に決めてしまって問題ない。あと、この宿の延長をしないといけないな。お金はだいぶあるから狩りは休むか早めに切り上げて、少し買い物をしようか。
翌朝。
なぜか人々の会話が聞き取れなくなっていた。文字も読めない記号になっている。
一瞬パニックになりかけたが、よく考えたら慌てることではなかった。この世界に来て、初めて会話をした時、初めて文字を読んだ時、どうだったか。そして昨朝のケイがどうだったか。
「翻訳!」
そう唱えたら元に戻った。魔法って便利だ。
この国の言葉くらい標準装備にしておいて欲しいところだが、魔法は魔法で使いどころがある。対象言語を選ばないし、相手にかけてしまうという方法もある。でなければ猫と喋るなんて……あれ? もしかしてケイが喋ってるの、ケイじゃなく俺の魔法? はは、そんな訳ないよな。
宿の朝食として出された、パンに焼き魚を挟んだものとサラダを平らげた後、宿の受付に向かった。三日の延泊手続きをしてから、ひとつ質問をする。本当に必要な用事なだけで、ユイナさんと会話をしたいからでは断じて……ある。両方大事だ。
「この町の武器屋で、お値段的に初心者に優しいお店って知りませんか?」
「武器ですか? 駆け出しの方に人気なのは二軒ですね。品揃えは結構違います」
ギルドでお金を下ろして来た後、教えて貰った武器屋に行った。だが一軒目は何も買わずに出て来た。確かに価格は非常に安かったのだが、品質がそれに輪をかけてチープだった。さすがに、今使っている槍よりも劣るものを買う意味は全くない。
そして二軒目。
「お邪魔しまーす、どなたかいますかー」
「おう、ちょっと待ってな。……いらっしゃい、何をお探しで」
店主と思しき男性が出て来た。
「まずは解体用のナイフを見せて欲しい」
「はいよ。これで良ければ銀貨五枚だ」
「ちょっと失礼、確認させてくれ。……これなら十分だな、一本買おう。さっき寄った店は銀貨三枚だったが、テーブルナイフかと思う低品質だった」
「ははあ、あの店だな。安いことにも需要はあるみたいだが、武具は冒険者が命を預けるものだからな、うちは品質を守ってる」
「それを聞いて安心した。それなら本命の相談をして良さそうだ。ちゃんとした武器を持ちたい。この槍は借り物だから早めに返さないといけないし、そもそも俺は槍使いではない」
「メインの得物か。どんなのが好みだ?」
「形はひっぱたければ何でも良くて、あまり体力がないから軽い方がありがたい」
「……およそ冒険者に向いてないオーダーだな。打撃系ならある程度の重さがないとダメージが入らないぞ」
「ああ、言う順番が悪かった。まず俺は冒険者じゃなく狩人なんだ。殴る用途は緊急用で、普段は魔法で攻撃する」
「魔法系か、それならまだわかる。メイスは重さが必要だから、ロッド・スタッフ・ワンドといったあたりかな」
「どれも杖っぽいが何が違うんだ?」
「まず基本型の杖はスタッフだ。錘が片側の先端にあって遠心力で殴れるのがメイスになる。リーチのある長い棍はロッドで、これはただの棒みたいなものと両端に錘があるものと両方ある。逆に短いのは魔法寄りがワンドで、格闘寄りがバトンだ。ステッキやタクトといった変わり種も一応あるが、リーチが短いし使い方も癖が強い。魔法特化ならワンドかスタッフ、軽装武闘の心得があればロッド、腕力にも覚えがあるならメイスになる。まあ厳密な区別はされてないし、中間的なのを好む者もいるから、名前にこだわらず持ち易いのを選べばいいさ」
「ばっさりだ!」




