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23 懸賞金

 返して貰った豹の残り肉をケイにくれてやってから、宿に戻って来た。あれはネコ科のモツなんだが、共食いとかの概念は大丈夫なんだろうか。まあ分かってて要求してきたのだから、構わないという理解でいいのだろう。

 豹は最終的には金貨になってもらったものの、間違っても分相応と言える相手ではなく、命の危険を感じながらの戦闘は肉体的にも精神的にも厳しかった。気を抜いていい場所に着いたことで、一気に疲労が襲ってくる。

 しかし、まだ休むことはできなさそうだ。なぜなら−−

「エージさん、お客様がお見えです」

 ユイナさんがそんなことを告げてきたからである。

「客?」

 疑問しか返せなかったのは仕方ないだろう。この世界で俺の名前を知っている人など何人もいない。門番のドジーさん、ギルドの受付エミリーさん、神殿で俺のスキルを笑った職員、あとはこの宿のガナシュさんと、いま目の前にいるユイナさん。その中で、わざわざ俺に会いに来るような人など心当たりがなかった。

「若い女性と、その護衛の方々です。今は食堂の九番テーブルにてお待ちです」

 容姿を告げられて、俺に関係ある人がもう一組いたことを思い出した。そう言えば何か改めて来ると言われたような気がする。

「待たせてるのか。それは急がないとな、ありがとう」

 聞いてはいないが、あの女性はそれなりの身分のはずだ。


 食堂の言われたテーブルには、昨日誘拐されかけていた銀髪の少女とエドワードさん、そしてエドワードさんと同じ鎧を着た男性がもう一人いた。昨日の今日だから、警備を強化するのは当然だろう。というかむしろ、護衛を一人増やした程度で出歩いていいのかの方が心配だ。

「待たせたようで悪かった」

「予定を聞かずに来たのだからそれは構わない。改めての挨拶だがエドワードだ。こっちは同僚のタングル。昨日あんなことがあったばかりだから人数を増やしている」

「タングルだ。二人が世話になったようで、私からも礼を言う」

「いや、偶然うまくいっただけのことだ」

「謙遜なさらずとも良い。私が出来なかったことをしたのは確かなのだから」

「その通り。私からも改めてお礼を言うわ。私は皆からエリーと呼ばれているので、エージもそのように呼んでほしい」

「今日は名乗られるのですね。(かしこ)まりましたエリー様」

「あーもう、やっぱり気付かれちゃってるのね。こういうのが面倒なのよ」

 少女が武装した成人男性を連れていて、それを愛称呼びしていれば、どう見ても護衛だ。そして護衛を連れているような人間がどのような立場なのかは考えるまでもないのだが、気付かれないとでも思っていたのだろうか。

「私はエリー、名字は名乗っていない。それだけ勘がいいなら、何を言いたいか分かるわよね? 口調もエドたちに話すのと同じにして」

 どうにかして気付かなかったことにしてほしいようだ。というか逆に、名字がある身分だとわざわざ告げているようなものなのだが、それはいいのだろうか。

「わかった、そうさせてもらう。で、事件があったばかりなのにわざわざ出向いてきた用件は?」

「その件の報告と、それに伴って確認が多少。あと渡すものがある」

 具体的な話はエドワードさんがするようだ。


「まず、犯人たちの正体と目的について。お嬢を手にかけようとしたのは大犯罪だからな、〝入念な〟取り調べが行われた。私もやられた分はやり返させて貰ったよ」

 ああこれは〝体に聞く〟タイプの尋問だ。あと取り調べの場所に出入り可能な立場だって情報を漏洩しちゃってるよ。どうもこの世界、情報統制はザルのようだ。

「それはいいとして、捜査は証拠をもとに行われた」

「殴り返したのは完全な私怨!?」

「気にするな、お嬢を襲った時点で何にせよ無事では済まないのだから同じことだ。で、彼らはカムチャプト盗賊団の構成員だと判明した。適当な町娘を拉致して来いという命令だったようで、特にお嬢を狙った訳ではなさそうだ。誰かが盗賊団に依頼した形跡はない」

「それなら繰り返し狙われることは少なそうだな。安心した」

「で、盗賊団の一員である以上、彼らは懸賞首だ。一人金貨十枚、うち一人は一番下っ端だが幹部だったので二十枚。三人で都合四十枚が出る」

「それで、エージには約束通りお父様から十枚を出すことになったわ」

 エリーが補足する。

「十分だな。そしてエリーたちが差し引き三十枚、見舞金としてはそんなものか」

「え?」

「ん?」

「どういう計算をしたのか知らないけど、エージが五十枚総取りよ?」

「は? どうしてそうなる?」

「じゃあ聞くけど、私を救出したのは誰?」

「それは一応俺になるな」

「あいつらを倒して縛り上げたのは?」

「それも俺だ」

「警備兵に突き出したのは?」

「俺だな」

「エドを治療したのは?」

「……俺」

「だから懸賞金の四十枚は全部エージのもの。うちからの十枚は言わずもがな。受け取ってちょうだい」

 重たい音のする皮袋がテーブルに置かれ、俺は周囲を伺いながらそれを受け取った。幸い、多額の現金に気付いた者はいなかったようだ。

「貰えるというならありがたく。返せと言われても知らないぞ」

 ところでエリーの家からの十枚はともかく、懸賞金分の四十枚はどこが出元なんだろう。

「そんなみみっちいこと言わないわよ。エドも頑張ってくれたから聞いてみたけど、いらないって言うし」

「俺ではお嬢を守り切れなかった。別途で手当をいただいたが、それも過分なくらいだ」

「そういうプライドがあるなら、俺から何か言うことはないな」


「お金の件は決着ね。それでもう一つ。昨日は私が守られたから、今度は私がお守りをあげるわ」

 何やら書かれた羊皮紙を渡される。

「私かお父様と面会できる券よ。必要になった時に使いなさい、可能な範囲で便宜を図るわ。ただ一度限りだから使いどころは気をつけて」

 言い方は子供の肩叩き券レベルだが、内容はかなり豪華だ。何せ、面会できる相手の名前がエリザベス・レナリア又はその保護者とある。エリザベスはエリーの本名だろう。そしてレナリアはここラミスクを統治している子爵の家だ。つまりこれは領主に合法的に直談判できる権利という意味になる。とんでもない切り札だが、それが故に使い所を選ぶのもまた言われた通りである。

「これ見せちゃったら、いろいろ隠してる意味がないと思うが……」

「命の恩人だから特別よ。でも私はエリーだから」

「承知した。必要ないことを祈るが、万一の際は遠慮なく駆け込ませてもらう」

 あまり権力者と近しくなるのも考えものだが、今の自分はそんなことを言っていられる状況ではない。いざという時に身を守る手段は持っておくべきで、これだけ強力なものを手放す選択肢は考えられない。大事にしまい込んだ。


「ところでエージ。あいつらを倒すのに何をしたの?」

 エリーが唐突に話題を変えてきた。

「何か攻撃をして倒したようには見えなかったのだけど。ああ、冒険者として重要な秘密なら無理に話さなくてもいいわ」

「いや、別に秘密ではない。俺の国では、夜なのに目が冴えて眠れない時のために眠り薬というのがあって、それを魔法で出してあいつらに吸い込ませただけのことだ」

「もしかして、凄腕の魔法使いだったりする?」

「まさか。適性は金級だが、それは生活魔法だ。驚かれる要素は何もない」

 例によって神殿発行の羊皮紙を見せる。

「なるほど、いいお婿さんになれるわね」

「むしろそれ以外の感想を一度も言われたことがない」

「難儀ね」

 俺の前途は、エリーが漏らしたその一言に集約されていた。


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