20 魔法の試し撃ち
2章スタートです。
宿のベッドで目が覚めた。すっきりした目覚めだ。
野宿したのはたった二日、転生前後の夜を含めても三日なのだが、まともな布団で寝たのは久しぶりのような気がする。枕が変わったくらいで眠れないような繊細な神経はしていないが、枕どころか文字通り住む世界が変わり、命の危険を含むあまりに多くの出来事があった。いや、たぶん元の世界では命の危険どころか死んでいるんだろうけど。何より、野宿では気が休まらない。
久々の気持ち良い朝に気を良くした俺は、素早く起き出して食堂に向かった。元の世界での感覚ではだいぶ早い目覚めだったのだが、電気のないこの世界では日が昇ったらすぐ活動するのが普通なため、待たされることなく朝食にありつけた。野菜スープの具は少なめだったが、申し訳程度に入っている肉団子からいいダシが出ており、少し塩気の強い味付けも相俟ってシャキッと活動的な気分になってくる。パンは硬くて味気ないものだったが、このスープとの相性が良く、これも抵抗なく食べられた。とはいえこの朝食で差額を銀貨二枚も取るのかと思ったが、何とこれは朝食つき宿泊者用の食べ放題メニューだという。冒険者には健啖家も多いだろうから、魅力的なプランと評価していいだろう。
食事を済ませた俺は早速行動することにした。この世界に来たばかりで、だらけているような余裕は精神的にも金銭的にもまだない。それに昨夜思いついて確認したいことがあり、好奇心が勝った。部屋に一旦戻って装備と荷物を再確認した後、宿を出て南門に向かった。
「ドジーさんおはよう。昨日はありがとよ」
「おうエージか。お手柄だったな、犯罪者の確保は大歓迎だ」
「俺は平穏な方が好きなんだけどな」
「それもそうか。で、今日はどうした」
「どうしたって別に、狩りに出るだけだ。ちゃんと町民証を作ってきたぜ。ただ、作った所までは良かったんだけどな……」
「ん? 作れたんなら別に不都合はないだろ」
「まあ見て貰った方が早いか。お仕事だろ、見てくれ」
「確かにそれは俺の仕事だから見せて貰おうか。ぱっと見は普通だな。内容も昨日聞いた通りで、何も問題なさそうだが。お、魔法適性の判定を受けたんだな。十三歳だもんな。それで……ああ、これかー」
「それだ」
「この結果は確かに微妙過ぎるな。ま、まあ、いいお婿さんになれるぞ」
「それ言われたの三人目っすよ。全会一致でお婿さんなのか……」
「おう。それは何か悪かった」
「そう言われるのは諦める。で、昨日に続いて質問なんだが、このへんでいい獲物が出る場所を知らないか?」
「なりたての冒険者が行くのは北の森だが、そっちはみんな狙っているから獲物が少ない。たくさん獲りたいなら南の森だな。相手は少々手強いが、お前さんはそっちから来たって話だから問題ないだろう」
「わかった。それなら今日は南に行ってみる」
あまり見られたくない実験をするから、人が多いのは具合が悪い。
門を出て少しした所で、後ろから追いかけて来るものがいた。
「ニャー」
「あれ、ケイ? どうした?」
「ニャー、ニャー」
「あーもう、喋れるんだろ? 日本語を喋ってくれ」
ピカッ。ケイが光る。
「魔法が切れて喋れなかったのよ! もっとも効果が二日っておかしいけど!」
「いや良く知らないが、そう言えば魔法って言ってたな」
「で、狩りに行くんでしょ? それは私に肉をくれるってことよね?」
「目的は違うんだが、獲物があれば結果は多分そうなるな。それで付き纏おうとしてるのか」
「いいじゃない。ついて行かないとエージは美味しい方を捨てちゃうんだもの。それに私の助言でだいぶ稼げたはずよ」
「あーはいはい、わかりましたよ。ダメとは言いません」
「決まりね。ならしゃがみなさい、リュックに乗るから」
「だから自分で歩けよ……」
そう文句を言いながらも仰せの通りにする。実際ケイの言う通り、いてくれた方が最終的には利益が大きいのだ。
南の森にはすぐ着いた。そして森に入って早々、またあいつに襲われることになる。
「ブオオオオ!」
二頭身イノシシだ。こいつとは一度戦っているから、最悪でも一昨日と同じことをすれば倒せると分かっている。まだ狩りに慣れていないので、その意味では気分的に少し楽だ。
しかし、最初から同じことをするつもりはない。倒して収入を確保するのも大事だが、今日は実験がメインなのだ。
「よし、魔法だ。土壁よ現れて猪の突進を跳ね返せ!」
……。
何も起こらない。
しかし俺は全く慌てていなかった。実験なのだから失敗は普通のことである。いや、発動しない可能性が高いとわかっていて詠唱したのだから、失敗ではない。それどころか、仮説を裏付ける実験結果が得られたのだから、むしろ成功ですらある。なので全く焦ることなく平常心で次の詠唱に入る。
「獣避け防護壁よ現れて猪の突入を防げ!」
ボゴボゴボゴッ。これも予想通り、今度は魔法が発動して地面から壁が生えた。そしてその直後、
ズガン。
その壁に猪が突っ込む音が聞こえた。
猪の突進力では突然現れた壁を回避できず、全力で衝突した。しかしそこは猪、痛がってはいるがそれだけで、大きなダメージを受けた様子はない。それどころか二度三度と壁に体当たりを繰り返している。
ただ、それが猪の限界でもある。大きな頭の大部分は骨で、肝心の頭脳は小さいとみえる。俺は壁の横に回り込み、追加の魔法を放つ。
「あの猪を屠殺する、鎌鼬よ頭部を切り落とせ」
シュバッ。風刃が発生し、猪は無事に食肉となった。
解体ついでにそのまま昼食にした。ケイも満足そうだ。今日は牙も回収する。何に使うのかは知らないが、ギルドの買い取り表に載っていたのでこれも売り物だ。




