16 ガナシュの宿にて
判定の結果を受け、栄二は打ち拉がれていた。
神殿の判定機によると、俺にはとびきりの生活魔法適性があるようだ。逆に、他の魔法には全く適性がないらしい。強力な魔法をバカスカ撃って無双する俺の願望は潰えた。
もう神殿に用事はない。というか二度と来ることもないだろう。扉を開け、外に出る。
失意のまま、俺はどうしようか考えていた。
そして、相談できそうな人を一人思い出す。と言えば聞こえはいいが、この世界の知り合いは一人しかいない。彼に知識があるかはわからないが、職業柄いろんな話題を知っているはずだし、解決しないにしても話を聞くくらいはしてくれるだろう。
ドジーさんが言っていた通り、目的地はすぐに見つかった。特徴的な看板を見つけ、迷わずその建物の中に入る。
「いらっしゃいませ」
「こんにちはー。栄二と言いますがガナシュさんはいますか。昨日の件でとお伝えください」
「エージ様ですね、少々お待ちください」
従業員さんが奥に引っ込んでいった。年の頃は十五か十六くらい、背丈は今の自分より大きく、百六十センチ台の半ばだろうか。軽くウエーブのかかった銀髪に同じ色の犬……いや狼の耳か。美人タイプではないが安心感のある優しい顔、強烈なメリハリこそないが年齢相応の女性らしい曲線を描く体型、そして耳と揃いのふさふさ尻尾。冒険者の宿に相応しい気風や腕っ節があるのは見て取れるが、服装や所作には活発さと同時に上品さも感じられる。正直めっちゃ好みだ。地球にいた時は二十代などガキだと公言して憚らなかったのだが、精神がこちらの身体に合わせて調整されたのかもしれない。元のままだといろいろ辛そうだから、それは受け入れよう。
「おう呼んだか……って昨日の兄貴! ささ、こっちに座ってくれ」
椅子を勧められたので、素直に座る。
「いい従業員さんですね」
「なんだ惚れたか? まあそれも仕方ないな、うちの自慢の看板娘ユイナだ。最近は口が立つようになってきて参ってるが。まあ見ての通りフリーだから、アプローチするだけなら自由だ」
「見ての通り?」
「あー森から出て来たばかりだからそれも知らないのか。この国では特定の相手ができると、ブレスレットを交換してそれをつけるのが習わしだ。俺もこの通り、妻から貰ったものをつけている。そんでもってブレスレットをつけている人間にちょっかいを出した奴は、半殺しまでは誰も助けないからそのつもりでいるように。命を賭けてでも君が欲しいという恋愛も、それはそれで当人の判断だけどな。で、ユイナに関してはそもそもブレスレットをつけていないから、そこは考えなくていい」
「そこはってことは、別に考えることがありそうですね。まあ言われなくても見当はつきますが」
間違いなく親父面接があるのだろう。というかそれ以前に、当人に対してすら、事務的な取り次ぎをお願いした一言だけしか交わしていないのだから、好感度もへったくれもない。
「それはそうと、何か用事があったんじゃないのか?」
「ああ、残念なことが起きちゃって。で、ちょっと相談に乗って欲しいんだが」
「おう合点だ。客ならいないからな!」
「それ自慢しちゃダメでしょ」
「宿屋に用事のある人間は、日が沈む頃に来て朝食を食べたら出て行く。昼食も食堂営業をしているが、昼食が終わった時間なんて誰もいなくて当然だ。何も問題はない」
お茶を出されたので、ありがたく一口いただく。
「それならいいんですが。で早速だけど、これを見て欲しい」
さっき神殿で貰った羊皮紙を見せる。
「ああ成人の判定か。それを受けるためにエージは町に出て来たんだな」
違うんだけど、まあいいや。むしろ勘違いされている方が便利だろうから、今度からそういうことにしておこう。
「で、結果は……なるほど、これは力が抜けるな。でも金級は滅多にいないから、これはこれでいいじゃないか。いいお婿さんになれるぞ!」
「いいお婿さんって、それさっき神殿で同じことを言われたばかり。俺は超強力な攻撃魔法をドカスカ撃ちまくりたくて判定を受けたのに……」
「悪い悪い。火力は男のロマンだから憧れる気持ちはよくわかるんだが、あいにく生活魔法はでかいのをぶちかますには向かないんだよなあ」
「それはどういった理由で?」
「生活魔法と他の魔法とでは使える場面が全く違うんだ。どの魔法でもそうなんだが、火の魔法は火の精霊を呼び出すものだから火に関する詠唱が必要だし、生活魔法は生活に関する詠唱をしないと発動してくれない。ここまではわかるかい?」
「ああ、確かにそのように聞いている」
「で、たとえば種火は生活に関するものだから生活魔法で出せるが、同じ火でもファイヤアロー、火の矢は武器だから生活の範疇にはならなくて、火の魔法の扱いになる。逆に種火で攻撃しようと思っても、生活の中で攻撃することなんかないからイメージするのが難しいし、巨大な炎や猛烈な風を生活で使うこともないから強い威力を出すのも困難。どれも当たり前の話だ」
「あー、とっても残念だが、その理屈は理解できてしまうな」
「対人戦を想定して詠唱と違う系統の魔法を出す研究もされてるようだが、今のところ成功した話は聞いてない。そんな訳で生活魔法を攻撃や防御に使うには不向きだから、これで戦闘をしようって奴はまずいない。正確には、いない訳じゃないがすぐに淘汰される。お前さんみたいに諦めきれなくて挑戦する奴はそこそこいるんだが、普通は一ヶ月もすると武器で殴った方が早いことに気付いてしまうんだ」
うわあ。なまじ同じ境遇なだけに、その人たちの気持ちが手に取るようにわかってしまう。




