14 女の子を助ける
ギルドから出た俺は、神殿に向かおうとしたのだが、その前に立ち塞がる者がいた。
「あ、エージ! 良かった!」
「どうしたケイ。今日はまだ狩りをしてないから餌ならないぞ」
そう、勝手について来て、勝手にいなくなった黒猫のケイである。
「それも気になるけど後で! 急いでこっちに来て!」
「どうした、そんなに慌てて」
そう言いながらも条件反射で追いかけてしまうあたり、俺も猫に飼われているのだろうか。
「誘拐よ! 女の子が連れ去られそうになってるの!」
「げっ! そんなのに巻き込まないでくれよ!」
「私の声を言葉として聞き取れるのはエージっきゃいないのよ!」
「だからって俺に助ける義理はない!」
「言っとくけど、なかなか美人のヒュームだったわよ。しかもいい服を着てたからお礼が期待できるわ」
「よし、急いで案内しろ!」
「もうしてるわよ! エージこそ喋ってる余裕があるなら走りなさい!」
目的地にはすぐに着いた(弊社体感値)。鎧を着た男が倒れている。
「あー、やっぱり護衛一人じゃ無理だったみたいね」
「おい兄ちゃん、犯人はどっちに行った!」
「あっちだ……」
指差された方を見ると、ガラの悪い男三人組が少女の腕を掴んで連れ去ろうとしているのが遠くに見えた。
返事をする間も惜しい。すぐに再び駆け出す。
「ところで、どうやってあいつらを倒すの?」
「え?」
そうだ、ケイに頼まれて来たけど、誘拐犯にどう立ち向かうかは何も考えていなかった。
少しでも手間取れば、あいつらは少女を人質にするだろう。しかし誘拐犯とはいえ人殺しはあまりしたくない。あまりであって絶対ではないけれど。当然だが犯罪者の命なんかより自分の命の方が大事だ。ただ、当事者は依頼人が誰なのかとか目的が何なのかとか知りたいだろうし、それなら一人でも多く口が残っていた方が聞き出せる確率は上がる。
ではどうするか。範囲魔法は少女も傷付けてしまうので使えない。手足の骨を一気に砕くというのも考えたが、俺の筋力と腕前では無理だ。だとすると非殺傷の手段になるな。よし、できるかどうかわからないけど、失敗してもこの距離ならバレないだろう。やるだけやってみるか。
「あの男たち三人、快眠してしまえ! あいつらが吸い込む位置に即効性の麻酔ガスが発生して、二時間くらい目が覚めなくなれ!」
プシューッ。
「え!」「な!」「うっ!」
バタッ。ドサッ。ズダン。
数十秒ほどで、男たちはあっさり意識を失った。
「エージ、何か魔法を使ったんだと思うけど、無茶苦茶するわね……」
「俺もこんなに上手くいくとは思わなかったよ」
かなり雑なイメージしかしなかったんだが、ちゃんと発動したし、魔力も足りたようだ。俺の魔法、実は凄い?
おっと、冗談を言ってる場合じゃないな。
「お嬢さん怪我はないか? 今こいつら縛っちまうからな」
荷物からロープを取り出し、三人を押しくらまんじゅうの隊形にして、隣どうしの手足を結ぶ。こうしておけば、目が覚めても逃げるには背中合わせで三人三脚をすることになる。これで素早い逃走が出来るものなら、それはそれで見てみたいくらいだ。
「あ、ありがとうございます。私は大丈夫ですが……そうだ、エド!」
女の子がいきなり走り出す。
「あんまり動くな、まだ残党がいるかもしれない!」
「エド、エド! しっかりして!」
俺の話なんざ聞きもせず、鎧の兄ちゃんに駆け寄る。まあ心配なのはわかる。
こっちの奴らは当分目覚めないだろうから置いとくとして、二人の所に歩いて行く。
「あの、どなたか存じませんが、助けてください! エドが殴られて!」
「いや、どちらかと言えばお嬢さんを助けた方がメインだし。でもまあ見せてくれ」
襲撃犯たちは特に武器らしきものを持っていなかった。大怪我はしていないようだ。それでも。
「うわ、こりゃ酷いや。えっと応急処置だ。血が出ている所は軽く消毒した上で止血、殴られて腫れている所は冷えろ!」
エドと呼ばれている男のあちこちが光る。無事に魔法が発動したようだ。
「あとは大丈夫そうだな。しかし鎧を着てるのに、素手の奴にノックアウトされるって、あいつらそんなに強かったのか?」
「いや、時間稼ぎで粘ってたところに、運悪く強烈なのを貰っちまった。お嬢を助けてくれて感謝する」
「私は訳あって今は名乗れないのですが、エドワードともども助けていただいて感謝致します」
少女は優雅な所作で頭を下げ、感謝の意を示した。護衛をつけているくらいだし、何か身分のあるご令嬢なのだろう。年の頃は〝今の〟俺と同じくらい、背丈は俺より少し大きいかな。白い肌に銀髪で、濃いブルーのドレスがそれを際立たせている。顔はケイの言った通り美人系。腕も足も胴回りも何もかもが細い子供体型で、なるほど簡単に連れ去れそうだ。俺の好みからは外れるが、貴人のオーラは俺でさえ感じる。
「上手くいって良かったよ。俺は栄二。この猫が騒ぐので来てみたらさっきの通りだ」
ケイはさっきからお嬢様の足に体を擦り付けている。まさしく権力に擦り寄っているな。そういう存在は一般に犬と言われるんだが、猫がやってどうする。
「ところであの縛ってある奴らだが、どこに引き渡せばいいんだ? 俺は今朝この町に着いたばかりで、そのへん詳しくない」
「ああ、それなら門番の詰所に頼む。あいつらに賞金がかかっているかは知らないが……」
「いずれにしても、後日わたくしの家からお礼をさせていただきますわ」
「そいつはありがたいが後にしよう。エドワードさん、体の具合はどうだ? あれを見張るくらいはできるか?」
「ああ、そのくらいなら大丈夫だ」
「それならこの子と狼藉者を見ててくれ。俺は詰所に行って人を出して貰う」
俺は南門に走る。ちょうど休憩に入るところだったドジーさんを見つけて説明し、衛兵を連れて戻ってきた。クズどもは速やかに連行されていく。
「改めてありがとうございました。後は私エドワードが状況を説明しておきます。彼らの身元割り出しと尋問が終わるのは最短でも明日になりますので、詳しいことがわかりましたらこちらからお伺い致します。宿はお決まりでしょうか?」
「まだ決まっていないんだが、ガナシュの宿をお勧めされたので、多分そこにいる」
「承知しました。お礼もその時ということで」
「わかった。ではその時に」
俺は改めて神殿に向かうことにし、エドワードたちは衛兵と一緒に詰所へと歩き出した。
「ところでエド。犯人たちは攻撃を受けた気配が全然なくて、急に気絶したように見えたんだけど、エージが何したかわかる?」
「いえお嬢様、私は怪我をしていた上に遠目でしか見ておりませんでしたので……。でも私に治癒魔法をかけたようですので、何かしら魔法の類なのかもしれません」
「そう。いったい何だったのかしら……」




