11 入口は閉まっています
ようやく町に着いた。何て言ったっけ、そうラミスクの町だ、俺はその町……の防壁を見つめていた。着いた頃にはすっかり夜になっていたのが悪い。入口の跳ね橋は上げられていて、朝になるまで中には入れそうにない。
まあ入れたとしても宿代を持ち合わせていないから、どちらにせよ結果は同じだったろう。近くで一晩待つことにする。
「まずはこの獲物だな。盗まれると嫌だから防犯ロックをしないと。盗難防止の基本は地球ロックだっけか。氷から棘状の突起が出て地面に刺さり簡単に抜けないようになーれっと」
氷が光ると、大小の円錐が組み合わさったフラクタル形状のようなトゲトゲが生えて来て、地面に突き刺さった。
地球ロックとは自転車や原付など二輪車を駐める際の施錠方法で、柵などの地面に固定されていて動かない構造物に括りつけろという意味であり、大地と一体化させろなどという無茶な話では本来ないのだが、栄二はよくわかっていなかった。もっともわかっていたところで、ここにはそんな都合のいい構造物は存在しないから、同じことをしただろうけど。
あとは猪肉を焼いて食うくらいしかできることはない。せっかく凍らせたものが溶けないよう、少し離れた所で焚き火をして肉を焼く。
「肉は好きだけど、これで何食続けて焼肉だ? やっと町に来たんだから、明日はスープとかサラダとかパンとか食べたいものだな」
「あら、私はずっと肉でいいのに。でもこの肉はさっぱりしすぎ」
ケイはちゃっかり俺の肉を横取りして、しかもそれに文句をつけている。
「たくさんあげたのに、お前が全部食っちゃうからだろ。俺みたいに残して少しずつ食えばいいんだ」
「内臓は鮮度が命なのよ。美味しい時に食べないと。まあ、こんなに冷やせるなら少しは保存できるかもしれないけど……」
蛇を氷漬けにして以降、ついでなので猪肉の包みにもドライアイスを入れて冷やしている。包んでいる毛皮は冷凍焼けしてしまうが、そこは肉が優先だ。まだ結構残っているけど、これも一緒に売っちゃおうかな。買ってくれるかな。
「さて、本当なら夜通し火を絶やさないようにして寝ずに見張ってなきゃいけないんだけど、こんな町のそばにモンスターなんか出ないだろうから寝ちゃうか。とりあえず氷を明日までもたせないとな。蛇を保冷、氷玉を二倍くらいの大きさにして、うんと冷えて明日の朝まで溶けないようになれ、マイナス一九六度! よし、これくらいやっとけば大丈夫かな。あとは明日だ」
草地に寝転がり、用済みになった地図タペストリーを掛け布団にして、俺は眠りについた。
「おーい、小僧、起きろー」
翌朝。俺は誰かに肩を揺すられて目を覚ました。これはケイじゃない。
「おはようございます……」
「あれはあんたのか?」
鎧を着た男が氷塊に視線を向ける。
「あ、すまん。すぐにどかすから」
「いや、いま開けたところだから急がなくていいんだが、ちょっと話を聞かせてくれ。俺は門番のドジーってんだ」
「栄二だ。訳あって森から出て来た。これはその道中で狩ったんだけど、大き過ぎて普通には持ち運べなくてこうなった」
「な、なるほど……。それで、何でこんな所で寝てたんだ?」
「こいつを運んで来るのに難儀して、ここに着いたのが夜だった。門が閉まっちゃってたから開くのを待っていたんだ」
「ああ、そういうことか。でもそれなら、西門に回ってくれれば夜も開いてるんだが……」
「えええええええーっ!」
なんてこった。そのまま仰向けに倒れる。
「知らなかった……」
「ま、まあまあ。初めて来るなら知らなくても仕方ないさ」
よっぽど可哀想に見えたのだろう、門番さんがフォローしてくれた。
「そういうのは看板でも立てて周知してほしい」
「あー。貴重なご意見として報告しておく」
「はあ。じゃあこっちからも質問したい。まず、この蛇を売らないとお金がないんだが、買ってくれるとしたらどこになる?」
「それなら市民ギルドだな。平民が町の外でとった物は、木の実からドラゴンまで全部市民ギルドが面倒を見てくれる。買い取り品目にない種類のものは交渉次第になるが、その獲物なら大丈夫だろう。中央通りのど真ん中にある大きな建物だ」
「承知した。それと昨日ガナシュさんって人に会ったんだけど、その人の宿屋はどのあたりに?」
「ガナシュの宿屋なら中央広場から少し西にある。看板にあいつの似顔絵が描いてあるから、簡単に見つかるぞ」
「似顔絵ね、わかった。最後に、貧乏人に優しい食堂のお勧めを知りたい」
「それもガナシュの宿で食べておけば外れがない。何を食べてもレベルは高いからしばらくは飽きないはずだ。ただ外れがないってことは万人向けで悪く言えば特徴が弱い。長く滞在して宿のが物足りなくなったら他を開拓してみるのもいいな。みんな喜んで教えてくれるさ」
「そうか。助かった」
「あーちょっと待て。町に入る手続きがまだだろ。詰所まで付いて来い」
そうだった。
「ちょっと待ってくれ、この荷物も持って行くから」
荷物こと氷玉を見る。溶けるどころか空気中の水分が霜になって貼り付き、むしろ昨夜の状態より大きくなっている気がする。朝まで氷が残っているよう、大きく強く凍らせておいたのだが、魔法のイメージ次第では終了を指示するまでその状態を保持出来るのかもしれない。
「えーと氷よ、冷却温度を変更、マイナス五度に。地面に刺さってるトゲトゲもなくなれ。大きくした分も元に戻して、むしろギルドまで運ぶだけだから邪魔にならないように小さめでもいいくらいだな。えい!」
氷塊は一度光った後、大量の水蒸気やら何やらをブシュブシュと出しながら昨日の運搬用の形と大きさに戻った。それを転がしながら、下りている跳ね橋を渡り詰所に向かう。
門番のおじさん、ドジーさんだっけ、が呆れた顔をしてこちらを見ている。そりゃそうだろう、こんな大きな荷物はどう見たって邪魔だ。手続きが終わったら真っ先に売って来るから、それまでは勘弁してくれ。
実のところ、それを見ていたドジーが考えていたのは全く別のことなのだが。
(あんな大きな氷、中の獲物を別として氷だけでも売ればそこそこの値段になるのに、あっさり消しやがった。その前にどうやってあの大きさの氷を持って来たんだろうか。魔法にしても巨大すぎる気がするんだが、中空になっていれば可能かもしれないし、それなら売れる氷ではないか……)
栄二がそんな見掛け倒しのものを作る理由はどこにもないのだが、ドジーの常識はその可能性を排除していた。




