↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者様、まず剣を置いてください。~魔王を倒した最強パーティーが買い物で詰むので、元魔王軍の俺が生活係になりました~  作者: 他力本願寺


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/50

第38話 分かったつもりだった

翌朝、マヤが用意した席に、四人が来た。


 昨日の訓練を休んだことについて、誰も謝らなかった。謝る理由などない。


 俺は机の上に、出版社とのやり取りを日付順に並べた。その横に、鍵付きの黒い野帳を置いた。


「まず、俺が知っていたことと、したことを全部説明する」


 企画を知った日。刊行の保留を求めた日。


 好物や癖については、本人に聞かずに修正案へ残してよいと答えたこと。


 届いた校正の確認を先送りし、マヤへの報告を『確認中』のままにしていたこと。


 読み上げるのに、大した時間はかからなかった。隠していた時間は長いのに、事実にすれば紙二枚だった。


「この野帳は、押収された原本とは別だ。終戦後、記憶と残ったメモから作った控えだ。仕事の面談記録ではない。これも、存在だけ見せて、内容の説明を避けていた」


 バルドは野帳に目を落とした。手は伸ばさなかった。


「今、読めと言うのか」


「いや。読まない選択もできるよう、マヤに保管を頼みたい。必要なら、誰がどこまで見るか決めてほしい」


「俺は、お前たちを守ると言った」


 四人の顔を見た。


「だが、それだけではなかった。説明して、今の生活から拒まれるのが怖かった。相談しない理由を、お前たちが傷つくからだと決めつけた。すまなかった」


 カイルは、机の上の連絡票をめくった。


「『説明予定日』。空欄だな」


「ああ」


「いつなら言うつもりだった」


 答えが出なかった。


 編集が終わったら。校正が届いたら。刊行がなくなったら。


 一つ終わるたび、次の理由を作ったはずだ。


「……決めていなかった」


「わかった」


 カイルは紙を戻した。


「そこは、わかった。今すぐ許せるという意味じゃない」


 マヤも立ち上がった。


「私にも、説明する責任があります。企画の存在は知っていました。全稿の確認と皆様への説明をレグさんに任せ、完了を確かめませんでした。皆様が同意を求めた時にも、保留案件を一覧にしてお見せすべきでした」


「あなたも、知っていたのですね」


 エステルが言った。


「はい。私の落ち度です。今後、個人に関わる利用案件は、本人にも直接届く一覧にします。誰か一人の机で止めないように」


「その一覧、私たちが見られない記号だらけにはしないで」


 ティナの声はまだ硬かった。


「内容と、誰が返事をするか。短く、それだけは書いて」


「そうします」


 本については、四人が先に希望を述べた。


 私生活を売り物にした追加の刊行には同意しない。既刊の販売停止を求める。公的記録を消去するのではなく、その商業利用と、本人が刊行を承認したかのような前書きを問題にする。


「私たちの反論を載せるために、もう一度細かい傷の話を聞き出されるのは嫌です」


 エステルの言葉を、マヤがそのまま記録した。


 復興院名義の訂正にも、四人は載せてよい範囲を指定した。手続きを進める窓口はマヤと法務担当。俺は記録を提出するが、四人に代わって交渉しない。


 世に出た本を、すべて取り戻せるわけではない。そのことも、その場で確認した。


「俺は担当から外れた方がいいと思う」


 そう口にすると、カイルが顔を上げた。


「それも、もう決めた話か?」


「……いや。希望と、判断を聞きたい」


「今まで通りには頼めない。でも、お前にしか説明できない記録を残したまま、いなくなられても困る。引き継ぎはしてほしい」


 マヤが頷いた。


「人事上の扱いは別途審査します。当面、個別の計画や利用許諾を決める権限は停止します。資料への照会は私を通してください」


 俺は了承した。


「その間の勤務は、厨房と庶務を提案します。ほかの部署を希望することもできます」


 マヤは四人へ向き直った。


「同じ館にいることが負担なら、勤務場所も調整します」


 沈黙の後、ティナが口を開いた。


「ここにいるだけで、追い出したいとは思わない。でも、勝手に予定を調べないで」


「約束する」


「飯を食いに来たら、仲直りしたことにするのもやめろよ」


 カイルが言った。


「ああ」


 俺は四人を見てから、マヤに答えた。


「厨房の勤務を受ける。引き継ぎもする」


 それは許しではなかった。今日、何をするかが決まっただけだった。


 午後、厨房で玉ねぎを刻んだ。


 事務室では、四人とマヤが今後の予定を相談している。自分の名前が呼ばれるたび、手が止まる。だが、扉は開かなかった。


 手伝えば早く済む。俺なら、申請の順番を知っている。


 そう思いかけて、玉ねぎを一つ落とした。


 俺の苦しさは、仕事が役に立たないからではない。飯は要るし、床も汚れる。それはこの半年、俺自身が何度も頼んできた仕事だ。


 俺がいないところで話が進む。それが怖いのだ。


 夕方、マヤが人数を書いた紙を持ってきた。


 今日は三人が夕食を食べる。エステルは診療所の同僚と帰るという。


「献立は、その人数でお願いします。あなたの分も」


「わかった」


 俺は四つの皿を出した。


 全員が揃わない理由を推測しかけ、やめた。必要なら本人が話す。


 食卓には、スプーンの音が続いた。


 バルドが塩の瓶を取ろうとし、ティナの手とぶつかった。二人とも引っ込め、今度はカイルが瓶を取った。


「……回せばいいだろ」


 彼は小声で言った。


 笑い声は上がらなかった。それでも塩は端まで回った。


 食後、厨房の流しに立っていると、カイルが自分の皿を持ってきた。


「明日、資料の場所を聞きたい。マヤも一緒で」


「何時だ」


「昼前」


「空けておく」


 彼は頷き、帰っていった。


 俺は明日の予定を、それ以上書き足さなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。