↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
4/5

第四話 『真実の愛』とは?





「どうも分かっておられないようですが……ここはアストリア帝国ですわ。ヴァロワール王国ではありませんの。ヴァロワールの王族は我が国で言うなら『公爵位』、もしくは『侯爵位』程度で、わたくしたち帝国皇族とはそもそもの格が違いますのよ?」



「なっ……!! 他国の王族をただの一貴族扱いするのか!!」




…………実際に、その程度の価値しかないのですから仕方がないではありませんか。




「それが『国力』、というものですわ」



怒りで顔を真っ赤にしているルイ第一王子に対して、にっこりと微笑みました。




「————そもそも、貴方との婚約は帝国にも、わたくしにも、何のメリットがありませんのよ?」




「愚かな真似をして廃太子になった話は諸外国中に広がっておりますもの。むしろ、マイナスでしかありませんわ」と頬に手を添え、はあとわざとらしく溜め息を吐きながら困ったわと言いたげな表情を装います。




「愚かな真似だと……っ!! はっ! そんな風にしか判断出来ないなど、人を愛することも愛されたこともないのだろう? 気の毒なことだ」



「…………貴方、頭の中が本当にお花畑ですのね……。夢見がちな貴族令嬢でもあるまいし、『恋愛』だけが愛なのですか? 貴方をこれまで育てて下さったご両親との『親子愛』は? ご友人もいらっしゃらなかったから『親愛』もご存知ないのかしら?」




珍獣との出会いで脳内がお花畑になったのかと考えていたのですが、ここまで咲き乱れていると元から素養があったのでは? と思ってしまいます。




「恋愛感情を抱くことが悪いこととは申しませんが、順序や責任というものがございますでしょう? 貴方は今まで国の税で生かされてきたのです。それを愛を理由に蔑ろにすることが許されるはずがないことくらい理解出来ませんでしたの? …………獣でもあるまいし……」


「け、獣だと……っ!!」




あら? 最後の方だけ切り取りましたのね。



恋愛を中心に物事を考えすぎなのでは? と言っているだけなのですが……そんなに難しいことだったのかしら?




「ええ、獣ですわ。人間でしたら『理性』がありますもの。王侯貴族——特に王族・皇族は国に身を捧げる為の存在です。それ故にわたくしたちは全ての臣民たちよりも特権を有しておりますのよ? 感情のまま行動するなど……」



そこで一度言葉を切り、眉尻を下げながら『理解が出来ない』とばかりに首を振ってみせました。


ここまで直接的にバカに…………注意、忠言をしてくれる方はいなかったのでしょうか?



ルイ第一王子は目を見開いて、硬直してしまっています。


おまけにその後ろに控えている侍従や、護衛騎士たちも。



…………何故、貴方方も同様に固まっているのでしょう? 意味が分かりませんね。




「……だ、だが……アリスは……私の『真実の愛』で……」


「その『真実の愛』ですが……。一度、お聞きしたかったの。貴方の仰る『真実の愛』って何なのかしら?」




アリス……珍獣の名前なのでしょう。まあ、それはどうでもいいですね。


ずっっっと!珍獣と『愉快なお友だち』たちに、一度聞いてみたかったのです!



————『真実の愛』とは何か?




わたくしの質問にルイ第一王子は「はっ? 何を言っているんだ?」とでも言うかのように怪訝そうな顔をしています。




「真実の愛なのだから、『本当に互いを愛し合っている』という意味以外、他にどんな意味があると言うんだ?」



「それですわ! 『真実の愛』なんて、どうやって分かりますの? 貴方にはその珍……アリス嬢の心の中が見えるのですか? 自分の心は自分にしか分からない……時には自分でさえ気付かないことがありますのに、貴方は自分の心も正確に理解し、その上相手の心まで正確に分かりますの?」




「もしそうであれば、とても素晴らしい能力ですわ。他人の心の中が分かるのであれば、臣下の中に叛意を持つ者がいてもすぐにお分かりになるのでしょう?」と問い掛ければ、分かりやすく焦り始めました。




「そ、それは! アリスが私のことを「心から愛している」と言っていたのだ! 私も同様にアリスを愛しているからっ…………!!」



「それは自己申告ですわ。本当かどうかなんて外側からは分かりませんもの。もっと具体的なことはございませんの?」



「あ、あるに決まっている!! アリスは私が元婚約者に敬われていない……感情がなく、まるで人形のようで冷たい! と言って私の心に寄り添ってくれて……」




必死に脳内のお花畑を掘り返して何とか見つけられたのか、どうだ! と言わんばかりに鼻高々な様子で話しています。




「……そもそも『敬われていない』……と、何故そのアリス嬢はお分かりになりましたの? 彼女も他人の心が分かる方なのかしら? 獣じゃないのですから、目に見えるように感情表現するとは限りませんのよ? 獣はそうやって喜怒哀楽を表現しないと自分の生死に関わるのでしょうけれど」




ましてや王族として生まれ育った人間が口にしていい言葉ではありませんね。




「…………まさか。……貴方、王族教育で感情や表情管理は教わりませんでしたの?」


「教わったに決まっているだろう!!」



「————でしたら、余計にアリス嬢の言葉が筋が通らないことくらいお分かりになるのでは? そのあたりは貴族よりも王族の方が厳しく躾けられますのよ? 言うなれば——元婚約者の方は貴方方ヴァロワール王家の都(・)合(・)で、そう躾けられましたのに……」




意味が分からないとばかりに困惑したように告げると、先ほどまでとは打って代わり心の底から驚いたように目を見開いて言葉と共に表情まで失っています。



その様子にわたくしは何度目になるか分からない深い溜め息を、はあと一つ吐きました。




「……本当に『真実の愛』と言うならば、そんなものは死ぬ間際まで分からないのではありませんか? それとも、貴方の仰る『真実の愛』は人生の中にいくつもあるものですの? 果たして、それは本当に『真実』と呼んでもいいものなのかしら?」


「……い、いや……それは…………」




もはや返す言葉がないようで、ルイ第一王子の声はだんだん小さくなっていくと同時に視線も少しずつ手元に落ち、ついに俯いてしまいました。



…………第一段階として、咲き乱れているお花畑の表面くらいは刈り取れたでしょうか?




「……わたくしからしましたら、『真実の愛』である相手が傍にいるのにも拘わらず、他の子息たちも傍に侍らせるなんてあり得ませんわね。『価値観の違い』だと言われてしまえば、それまでかもしれませんが」




淡々とそう言いましたが、ルイ第一王子から返事が返ってくることはなく、俯いたまま……。



————これ以上はお話にならないでしょうね。




わたくしはそう判断し「……本日はここまでに致しましょう」とだけ告げると、微動だにしないルイ第一王子をその場に残し、私室へと戻りました。




なかなかに根強い草花が咲き乱れていそうでしたので、一度で焼き払うのは難しいとは思っておりましたが……今日の様子を見るに、思ったよりは刈り取れたのではないかしら?



…………まあ、希望的観測ではあるかもしれないので油断は禁物ですが。



…………しかし、珍獣のお名前は『アリス嬢』ですか。


なかなか人心掌握がお上手な方のようですね。



その娘の情報もちゃんと頭に入れておくべきかもしれません。




「————ねえ、メアリー?」


「はい、殿下」



三歳上のメアリーは伯爵家出身で、わたくしの専属侍女であり腹心の一人です。




「ルイ第一王子の傍にいた珍獣の詳細が欲しいの。諜報部にお願いしてくれるかしら?」



帝国の諜報部はかなり優秀です。きっと前もってルイ第一王子周辺の人物に関しては、全て調査済みでしょう。


メアリーは「承知致しました」と軽く一礼し、すぐに手配に向かいました。




…………さて、一先ず相手の出方を窺いましょうか。



最後の方は脳内処理が追い付いていなかったようですし。


根腐れしているほど救いようがなければ、こちらがどんなに手を尽くそうと無駄ですから。



そうなったら、ルイ第一王子にはどこかの離宮にでも移って貰って、そのまま『病死』して貰うことになるかもしれませんね。



わたくしは私室のソファに深く腰を掛け、ぼんやりとそんなことを考えました。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。