↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『52歳の僕が、23歳の君に振られた理由』  作者: こうた


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/10

第3話 女の子紹介したる



 つばさと会うようになってから、俺は少しだけ自分の見た目を気にするようになった。


 美容院に行った。


 服も、いつもより少しだけマシなものを選んだ。


 腹が出ているのはどうにもならない。


 髪が薄いのも、今さらどうしようもない。


 それでも、少しくらいは若く見られたいと思った。


 52歳にもなって、何をしているんだ。


 そう思う自分もいた。


 でも、好きな女性ができるというのは、そういうことなのかもしれない。


 つばさと二人で食事をした日。


 俺は少し緊張していた。


「よしおさんって、休日は何してるんですか?」


「俺?」


「はい」


「まあ……友達と飲みに行ったり、麻雀したりかな」


「そうなんですね」


「つばさちゃんは?」


「私はボクシングジムに行ったり、勉強したりしています」


「勉強?」


「仕事に必要なこととか、将来のために」


 俺は笑った。


「真面目やなぁ」


「そうですか?」


「俺なんか、休日は寝てるか飲んでるかや」


 冗談のつもりだった。


 つばさも笑ってくれた。


 でも、その目が一瞬だけ曇ったように見えた。


 気のせいだと思った。


     ◇


 食事の帰り道。


 俺は思い切って聞いた。


「つばさちゃんって、彼氏おるん?」


「今はいません」


「そうなんや」


「どうしてですか?」


「いや……なんとなく」


 心臓が少し速くなった。


 俺はまだ告白するつもりはなかった。


 ただ、少しでも可能性があるのか知りたかった。


「よしおさんは?」


「俺もおらんよ」


 嘘ではない。


 ただ、長い間、恋愛らしい恋愛をしていなかった。


「結婚したいとは思ってますけどね」


「そうなんですね」


「うん」


 そこで、俺は言った。


「俺、堅実な女性が好きやねん」


「堅実?」


「ちゃんと仕事して、無駄遣いせんで、家庭を大事にするような人」


「なるほど」


「つばさちゃんみたいな子やな」


 言ったあと、少し恥ずかしくなった。


 つばさは黙った。


「……私みたいな人ですか?」


「そうやな」


 俺は笑った。


「まさに、つばさちゃんみたいな子や」


 つばさは小さく笑った。


「ありがとうございます」


 そのときの俺は、


 その言葉の奥にある意味を考えなかった。


     ◇


 その数日後。


 友人たちとの飲み会があった。


「よしお、最近女できたらしいな?」


「なんで知ってんねん」


「顔に書いてあるわ」


「別にそんなんちゃうって」


「誰や?」


「言わへん」


 みんなが笑う。


「よしおもようやく結婚するんか?」


「まあ……できたらええけどな」


「ほな、俺らが応援したるわ」


 俺は少し嬉しかった。


「ありがとう」


 すると、年上の友人が言った。


「まあ、もしその女がアカンかったら、俺が別の女紹介したるわ」


「ほんま?」


「おう。若い子も知り合いにおるで」


「ほんまかいな」


「俺を誰やと思ってんねん」


 みんなが笑う。


 俺も笑った。


 そのとき、別の友人が俺の肩を叩いた。


「よしお、お前は心配せんでええ」


「なんで?」


「俺らがおるからや」


 その言葉が妙に嬉しかった。


 俺には仲間がいる。


 そう思った。


     ◇


 それからだった。


 友人たちは、俺に何度も同じことを言うようになった。


「女の子紹介したる」


「今度、ええ子連れてくるわ」


「よしおなら絶対結婚できるって」


「俺らが面倒見たる」


 俺は、その言葉を信じた。


 だから誘われても断れなかった。


「今日、勉強あるんやけど」


「一日くらいええやろ」


「明日仕事やから」


「すぐ帰ればええやん」


「金、あんまりないから」


「今日はよしおが出してくれや」


「……分かった」


 気がつけば、俺はいつも同じ場所にいた。


 居酒屋。


 雀荘。


 パチンコ店。


 そして、友人たちの車の中。


 その一方で、机の上の参考書は少しも進まない。


     ◇


 ある夜。


 俺は友人に誘われ、飲みに行った。


 会計のとき、財布の中身が足りなかった。


「よしお、頼むわ」


「いや、今日はほんまに金ないねん」


「カードあるやろ?」


「……あるけど」


「じゃあええやん」


 俺はカードを出した。


「来月返すから」


「絶対やぞ」


「分かってるって」


 店を出る。


 友人が笑いながら言った。


「やっぱりよしおは頼りになるわ」


 俺は笑った。


 でも、帰りの車の中で財布を見た。


 残高がほとんどない。


 カードの支払いもある。


 借金もある。


 それでも俺は自分に言い聞かせた。


 ――今度こそ、ちゃんと返そう。


 ――今度こそ、資格の勉強をしよう。


 ――今度こそ、結婚のことも考えよう。


 いつもそうだった。


 「今度こそ」と思う。


 そして、そのたびに何かを後回しにする。


     ◇


 その頃、つばさは自分の人生を着実に進めていた。


 仕事をして。


 貯金をして。


 勉強をして。


 体を鍛えて。


 将来を考えている。


 俺はそんな彼女を見て、


「ええ子やな」


 と思った。


 そして、こう考えた。


 ――俺には、つばさちゃんみたいな女性が必要なんや。


 自分に足りないものを、彼女が補ってくれればいい。


 俺は、そんなふうに考えていた。


 それが間違いだったと知るのは、


 もう少し先のことだった。


 そして、その頃の俺はまだ知らなかった。


 俺が「仲間」だと思っていた人たちが、


 俺の人生から少しずつ、


 時間と金を奪っていたことを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。